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    自然

    雨野(あまの)

    DONEhttps://shindanmaker.com/804548様からお題いただいて書いたひふ幻です。
    お題→ ひふ幻のお話は
    「人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った」で始まり「ふと思い付いて、ごく自然に筆を執った」で終わります。
    貴方に生かされる 人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った。
     彼がこの家から出て行って三日が経つ。だが、俺は未だに泣けずにいた。別に強がる必要もない。この家には俺一人なのだから思う存分泣いたら良いのだ。それなのに涙は一滴も出なかった。
     巷で〝泣ける〟と話題の映画を観ても涙は出なかった。それならば、と読む度に涙を流す歴史小説を試してみるがそれもまったくというほど涙が出なかった。
     自分はおかしくなってしまったのだろうか。彼が俺の体の一部や機能さえも一緒に連れて行ってしまったのだろうか。もし、そうだとしたらいっそ体も心も魂でさえも全て奪い去ってくれて良かったのに。

     もう初夏へと向かっているはずなのに自分の手は氷のように冷たく不快感を抱く。少しでも温めようと両手を擦り合わせるがあまり意味はなさそうだ。昼間なのに雨のせいかどんよりと暗い雰囲気が漂う。しとしとと鳴る雨音を聞きながら暫し目を閉じ彼のことを考えた。太陽みたいに明るい人なのに、どうしてこんな天気の日に思い浮かべてしまうのだろう。いや、雨だろうと晴れだろうと関係ない。ところ構わず彼のことを考えているじゃないか、と自分に物申す。
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