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    DONE変若の澱の後遺症の影響で体が衰えゆく弦一郎と狼が雨宿りしながら語らう話。

    しんみりと切なくて温かい話を目指しました。
    青梅雨 じとり、と。頬に触れる空気に、纏わりつくような重さをふと覚えた。山稜から吹き付ける風は蒸れ、むせかえるほどの土気と露を含んだ山草の濃い香りを運ぶ。山の脈動と力強い息吹を感じる風の中に入り混じる微かな青梅の香を、熟達の忍びの鋭い嗅覚は機敏に感じ取った。
     空を見上げる。山に分け入った際は僅かな横雲がたなびいていた筈の空は、今や陰雲が無数に立ち込め、空本来の色を完全に覆い隠してしまっていた。時折遠雷の音が雲の切れ間から朧げな響きを伴って、鳴る。

    (もうすぐ雨が降る)

     ここから城へはどれほどか。遠くに目をやるも既に城は遠霞の向こう側に覆い隠され、そこにあるのはただ白いもやばかりである。
     どこか雨を凌げる場所を探すほかあるまい。忍び———狼は判断し、くるりと踵を返した。手に持ち運んでいるものを抱えなおし、雨に濡らさぬよう自身の首に巻かれている色褪せた白橡色(しろつるばみいろ)の襟巻をそっとそれにかぶせる。己は濡れても良いが、今腕に抱えているものだけは決して濡らしてはならない。
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    zeppei27

    DONE夢で見た内容が面白かったので、治ってきた指慣らしも兼ねて一次創作小説にしました。

    『住人全員が健康であり、死因は老衰のみ』、そんな夢のようなA国の秘密とは一体なんなのか。日本から仕事に出かけた主人公が、無事健康を手に入れる話です。
    今日も明るく健康に A国だ。生まれて初めて降り立つ、本物の異国に私は胸を弾ませていた。タラップを降りる前、飛行機がA国に近づいたと言われてから窓辺に齧り付き、本当に行けるのかとハラハラした心配は消え失せ、今や澄み渡る青空と同じく晴々とした心地である。我ながら現金かもしれないが、夢に前で見た国に来たのだから無理もないだろう。母国よりも強い日差しが小さな空港と、その向こうに広がる背の低い建物群に降り注いでいる。東南アジア諸国に共通する、湿ったぬるい風が程よく喉を潤した。背後を振り向けば、乗ってきた飛行機の向こうに青緑色に透き通った海が外界を遮る。母国の姿は影も形もなかった。

     蛍光色のジャケットを着た人間に先へ進むよう示され、ぼうっとした頭を現実に戻す。夢を夢のままにするわけにはいかない。頷くと、誘導されるままに通関へと向かった。小さな建物で、ちょっとした喫茶店が営める程度の広さに3人の人間が冗談を言いながら手を動かしている。一日の入国人数が極めて少ないために、大した人数を必要としないのだろう。古びた銃器が壁にかけられている点が、ここが唯一の通関である証左のように見えた。私の姿に目を止めると、一人の男が片手を挙げて招き寄せた。
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