kariya_h8
MAIKINGあとオチだけなんですけど、尻叩きのためにぽいぽいします。知らない女の結婚式に行った明智の話 明智君、あなた明後日休みだったわよね?
通話ボタンを押すや否や、電話口の相手は名前も名乗らず質問になっていない問いかけをした。
「嫌です」
『そう、良かった。朝10時に表参道に行ってちょうだい。詳細は後でチャットするわ。あと貴方スーツいくつか持っていたわよね。一番上等なもの着て行って』
「人の話くらい聞きましょうよ、冴さん」
『貴方に拒否権なんてあると思う?』
「予定あるかもしれないじゃないですか」
『貴方に? プライベートの? 予定?』
電話の向こうで彼女が小さく笑う音が聞こえた。
『あるわけないわね』
いやなんで断言するんだ。可能性がないわけではないだろう。例えば映画行ったり、ボルダリングしたり、ジム行ったり、たまの休みだから家事をしたり……。
9538通話ボタンを押すや否や、電話口の相手は名前も名乗らず質問になっていない問いかけをした。
「嫌です」
『そう、良かった。朝10時に表参道に行ってちょうだい。詳細は後でチャットするわ。あと貴方スーツいくつか持っていたわよね。一番上等なもの着て行って』
「人の話くらい聞きましょうよ、冴さん」
『貴方に拒否権なんてあると思う?』
「予定あるかもしれないじゃないですか」
『貴方に? プライベートの? 予定?』
電話の向こうで彼女が小さく笑う音が聞こえた。
『あるわけないわね』
いやなんで断言するんだ。可能性がないわけではないだろう。例えば映画行ったり、ボルダリングしたり、ジム行ったり、たまの休みだから家事をしたり……。
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MAIKING「ずるい」「ずるい」
異世界から現実世界に戻るなり、やつは開口一番そうのたもうた。
「…………何が」
聞きたくもないが放置するほうが面倒なことになりそうな気配を察知し、不承不承尋ねると彼は「さっき」と口をとがらせた。言っておくけれど可愛さは微塵もない。むしろ苛立ちが勝る。
「すみれに絆創膏あげてたろ」
言い分に一瞬眉根を寄せ、確かに先ほど異世界内で怪我を負っていた彼女に持ち合わせの絆創膏を渡したことを思い出す。ちょっとした擦り傷だから放置しようとしていた彼女に「これからまだ先は長いのに、傷に気を取られてやられたんじゃたまったものじゃない」と渡したものだ。どうせ僅かしか回復しないものだし余りものだし。恐らくそれのことを言っているのだろう。
2362異世界から現実世界に戻るなり、やつは開口一番そうのたもうた。
「…………何が」
聞きたくもないが放置するほうが面倒なことになりそうな気配を察知し、不承不承尋ねると彼は「さっき」と口をとがらせた。言っておくけれど可愛さは微塵もない。むしろ苛立ちが勝る。
「すみれに絆創膏あげてたろ」
言い分に一瞬眉根を寄せ、確かに先ほど異世界内で怪我を負っていた彼女に持ち合わせの絆創膏を渡したことを思い出す。ちょっとした擦り傷だから放置しようとしていた彼女に「これからまだ先は長いのに、傷に気を取られてやられたんじゃたまったものじゃない」と渡したものだ。どうせ僅かしか回復しないものだし余りものだし。恐らくそれのことを言っているのだろう。
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MOURNING貢ぎ癖のある男 しまったと思ったときにはもう遅い。空にはたちまち暗雲が垂れ込め、冷たい風が頬を撫で、しまいには遠くの方からゴロゴロと雷の音さえ聞こえてくる。嘘だろ、今日は雨降らないって朝言ってたじゃないか。恨みがましく天気アプリを立ち上げると、朝には晴のち曇りのマークだったはずが今では立派な雨マークに置き換わっていた。急いで帰るべきかそれとも引き返すべきか。迷っている間に空からぽつりと死刑宣告のように大粒の雫が落ち、足元に大きな染みを作った。
「おい、やべえぞ!」
モルガナの焦り声と同時に地面を蹴る。もう迷っている暇はない。とりあえず雨から避けられる場所に入らなくては。次から次へと白亜紀の終わりを告げる流星群の如く大粒の雫が自分たちに襲い掛かる。周囲から悲鳴のような声が上がった。直接肌に当たるといっそ痛みさえ覚えそうなほどの強烈な雨に、ますますモルガナが情けない声を上げる。眼鏡レンズにばちりと雫がぶつかり視界がぼやける。拭っている間も惜しくて、走りながら眼鏡を外す。伊達メガネで良かった、外したほうが視界は良好だ。
4693「おい、やべえぞ!」
モルガナの焦り声と同時に地面を蹴る。もう迷っている暇はない。とりあえず雨から避けられる場所に入らなくては。次から次へと白亜紀の終わりを告げる流星群の如く大粒の雫が自分たちに襲い掛かる。周囲から悲鳴のような声が上がった。直接肌に当たるといっそ痛みさえ覚えそうなほどの強烈な雨に、ますますモルガナが情けない声を上げる。眼鏡レンズにばちりと雫がぶつかり視界がぼやける。拭っている間も惜しくて、走りながら眼鏡を外す。伊達メガネで良かった、外したほうが視界は良好だ。
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MOURNINGまるで子どもの初恋のような ルブランではこちらの様子もお構いなしに話しかけてくる。
洗い物をしているときだろうが、カレーの具材を炒めているときだろうが、慎重にサイフォンを扱っているときだろうが。こちらを気遣ったことなどあっただろうか。集中しているから黙っていてくれないか、と乞うたこともあったが首肯されることはなかった。ふと、では自分がいない間はどうしているのだろうか、まさか惣治郎の邪魔をしているのか。訊ねてみると、明智は静かに読書をするか何かしらの資料を眺めて携帯を弄っているということだから、自分の邪魔をするということもルブランに訪れる目的の一つになっているのかもしれない。傍迷惑な話だ。
彼と会話することが嫌いなわけではない。テレビ業界や、警察、その他流行りものなど、自分が知らない世界の話を聞けるのは楽しいし、仲間内では出来ない議論に花を咲かせるのは面白いものだ。彼が何度も自分と議論をしたがっていた理由が今になって分かる。そして何よりも、あの柔らかい声が耳朶に響くのは悪くはなかった。
4363洗い物をしているときだろうが、カレーの具材を炒めているときだろうが、慎重にサイフォンを扱っているときだろうが。こちらを気遣ったことなどあっただろうか。集中しているから黙っていてくれないか、と乞うたこともあったが首肯されることはなかった。ふと、では自分がいない間はどうしているのだろうか、まさか惣治郎の邪魔をしているのか。訊ねてみると、明智は静かに読書をするか何かしらの資料を眺めて携帯を弄っているということだから、自分の邪魔をするということもルブランに訪れる目的の一つになっているのかもしれない。傍迷惑な話だ。
彼と会話することが嫌いなわけではない。テレビ業界や、警察、その他流行りものなど、自分が知らない世界の話を聞けるのは楽しいし、仲間内では出来ない議論に花を咲かせるのは面白いものだ。彼が何度も自分と議論をしたがっていた理由が今になって分かる。そして何よりも、あの柔らかい声が耳朶に響くのは悪くはなかった。