蜂須賀
DOODLE種蒔く手の後日談を書きました。坊ちゃん顔真っ赤かわいいね。DTってばらしてごめんね。
このあと覚醒した坊やにドンシクおいたんは「ガッ」といかれます。
攫う ハン・ジュウォンは柔らかな土に膝をつき、額を伝う汗を拭った。深呼吸をすれば、肺腑に満ちた土の香りはたしかに、息吹きの実感をもたらした。
・・・
イ・ドンシクは晩秋にジュウォンから花の種を受け取った。園芸の心得などあろうはずもなく、適当に蒔いたそれらはいくらも芽吹かなかったが、それでもちらほらと花を咲かせると嬉しくて、写真を撮っては贈り主に報告をした。ジュウォンは春が深まるころ確認に来、どうしてこれだけなんだとドンシクの不届きを責めた。それなら自分でやってみせろとケンカを売ると、ここを一面の花園にしてみせましょう、と返ってきた。そう言葉にしてしまえば凝り性なのはジュウォンの方で、暇を見つけては庭に通い、あれこれと世話を焼いた。
2018・・・
イ・ドンシクは晩秋にジュウォンから花の種を受け取った。園芸の心得などあろうはずもなく、適当に蒔いたそれらはいくらも芽吹かなかったが、それでもちらほらと花を咲かせると嬉しくて、写真を撮っては贈り主に報告をした。ジュウォンは春が深まるころ確認に来、どうしてこれだけなんだとドンシクの不届きを責めた。それなら自分でやってみせろとケンカを売ると、ここを一面の花園にしてみせましょう、と返ってきた。そう言葉にしてしまえば凝り性なのはジュウォンの方で、暇を見つけては庭に通い、あれこれと世話を焼いた。
蜂須賀
DOODLEそれは恋だよって、だれか坊ちゃんに教えてあげてください。坊ちゃんの、まだ固い殻に被われた恋の種を、ドンシクさんはどんな風に咲かせてくれるんですかね!
種蒔く手 ハン・ジュウォンは喧騒の只中にいた。
ピカピカだった愛車はマニャンを離れてから泥と砂ぼこりにまみれるばかりで、もうずいぶん前に手放してしまったから、電車を乗り継ぎソウルまでやってきた。
かつて暮らした街はしばらく来ぬうちに、まるで知らない顔をジュウォンに向けていた。どこから来た者も招き入れる寛容なこの街は、その実ただ無関心なだけで、よそ者に対してあの町のような拒絶すらもよこさないだけのことなのだ。寂しいところだ、と思った。自分も少し前まではこの街のように、人の営みに関心を寄せることなどなかった。己の痛みだけに囚われていたあの頃、そんなことは見えなかった。
地下鉄の出口を出た途端に押し寄せてきたものに竦み、うまく歩き出せなかったジュウォンはそれを取り繕おうとコートの前を掻き合わせた。そんなごまかしを見透かすようにジュウォンの背中を、ジャマなんだよと悪態をついた男が押しのけていく。ジュウォンはまだ、自分の変容に追いつけないでいた。
4041ピカピカだった愛車はマニャンを離れてから泥と砂ぼこりにまみれるばかりで、もうずいぶん前に手放してしまったから、電車を乗り継ぎソウルまでやってきた。
かつて暮らした街はしばらく来ぬうちに、まるで知らない顔をジュウォンに向けていた。どこから来た者も招き入れる寛容なこの街は、その実ただ無関心なだけで、よそ者に対してあの町のような拒絶すらもよこさないだけのことなのだ。寂しいところだ、と思った。自分も少し前まではこの街のように、人の営みに関心を寄せることなどなかった。己の痛みだけに囚われていたあの頃、そんなことは見えなかった。
地下鉄の出口を出た途端に押し寄せてきたものに竦み、うまく歩き出せなかったジュウォンはそれを取り繕おうとコートの前を掻き合わせた。そんなごまかしを見透かすようにジュウォンの背中を、ジャマなんだよと悪態をついた男が押しのけていく。ジュウォンはまだ、自分の変容に追いつけないでいた。
MASAKI_N
DONE怪物jwdsジュウォンの誕生日Pairing(s)「誕生日おめでとう。よく生きました」
目覚めてすぐそう言ったら、ジュウォンは珍しく素直に笑顔を見せ、ドンシクを抱きしめた。「お腹が空いた」と言うまでそのままで、また寝てしまったのかと思った。
ドンシクがジュウォンの誕生日を祝うのは、今日で二度目だ。
出会ってからは四年目になるのか。
一度目は、二人の仲を進展させるつもりで部屋に呼ばれたと思ったのに、煮えきらないジュウォンにドンシクが痺れを切らして、半ば強引に迫ってしまった。そうでもしないと距離が縮まらないと思ったからだ。
捜査の時はあんなに強引に喰らいついてきたのに、ジュウォンはドンシクに遠慮していた。その壁を壊して、どうにか結ばれた二人の記念日。
11177目覚めてすぐそう言ったら、ジュウォンは珍しく素直に笑顔を見せ、ドンシクを抱きしめた。「お腹が空いた」と言うまでそのままで、また寝てしまったのかと思った。
ドンシクがジュウォンの誕生日を祝うのは、今日で二度目だ。
出会ってからは四年目になるのか。
一度目は、二人の仲を進展させるつもりで部屋に呼ばれたと思ったのに、煮えきらないジュウォンにドンシクが痺れを切らして、半ば強引に迫ってしまった。そうでもしないと距離が縮まらないと思ったからだ。
捜査の時はあんなに強引に喰らいついてきたのに、ジュウォンはドンシクに遠慮していた。その壁を壊して、どうにか結ばれた二人の記念日。
ぶるたす
MOURNING⚠️暗く重い捏造話です⚠️⚠️何でも許せる方向けです⚠️
jmとdsのやりとり。
自分の犯罪を思い出してくれる人間を手元に置いて観察していたいjm。
jmとdsの留置所での面会での会話は、過去に2人が幾度もした"いつものやりとり"なのでは…?と妄想して描いた話でした。
passはdsの誕生日4ケタです。 7
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑬普通「それって、結局ドンシクも所長と同じことしたがってるってことじゃない?」
ジファに実家をリノベーションすることを伝え、ジュウォンに手伝ってもらうのだと説明したら、腕を組んで熟考した後、そう疑問を投げかけられた。
「あー……そうなるのか」
定年後はきれいな空気の場所で過ごすと言って、ドンシクと自分のための家を買った男。
親代わりのような、師弟関係のようなまま、ドンシクを見守ってくれていた。
ドンシクを犯人だと疑い、連行したのを悔いていたのはわかる。ドンシクも恨みが全く無いわけではないし、ナム所長が自分を監視するために面倒を見てくれているような気にもならなくはなかった。それを他人から指摘されることもあったが、二人の関係を変えようとは思わなかった。
2099ジファに実家をリノベーションすることを伝え、ジュウォンに手伝ってもらうのだと説明したら、腕を組んで熟考した後、そう疑問を投げかけられた。
「あー……そうなるのか」
定年後はきれいな空気の場所で過ごすと言って、ドンシクと自分のための家を買った男。
親代わりのような、師弟関係のようなまま、ドンシクを見守ってくれていた。
ドンシクを犯人だと疑い、連行したのを悔いていたのはわかる。ドンシクも恨みが全く無いわけではないし、ナム所長が自分を監視するために面倒を見てくれているような気にもならなくはなかった。それを他人から指摘されることもあったが、二人の関係を変えようとは思わなかった。
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑫理解者 生家にいる時のドンシクは、年相応に老け始めた男に見える。
悪い意味では無い。かっこいい男だなと思う。渋さや頼りがいのようなものが強まるとでも言おうか。低い声でぼそぼそと話し、不精髭で煙草を吸い、薄暗く冷えきった地下室のソファで寝苦しそうにしているのが様になっていた。
事件が解決してからは自室を少しだけ片付けて、自分のベッドで眠っているようだ。敵視して押しかけていた頃は、まだ時が止まったままの持ち物と、そうでないものが同居していた。
執行猶予期間だった二年間は、長いようで短い。
地下室にあった不用品、父親の部屋の物、ドンシクの部屋の要らない物を少しずつ移動し処分したようで、寄る度にその比率は変わっている。ジュウォンは一人ではユヨンの部屋にどうしても入れなくて、ドンシクに「ユヨン、この人が真犯人を捕まえてくれたぞ」と背中を押され、やっと足を踏み入れた。
4674悪い意味では無い。かっこいい男だなと思う。渋さや頼りがいのようなものが強まるとでも言おうか。低い声でぼそぼそと話し、不精髭で煙草を吸い、薄暗く冷えきった地下室のソファで寝苦しそうにしているのが様になっていた。
事件が解決してからは自室を少しだけ片付けて、自分のベッドで眠っているようだ。敵視して押しかけていた頃は、まだ時が止まったままの持ち物と、そうでないものが同居していた。
執行猶予期間だった二年間は、長いようで短い。
地下室にあった不用品、父親の部屋の物、ドンシクの部屋の要らない物を少しずつ移動し処分したようで、寄る度にその比率は変わっている。ジュウォンは一人ではユヨンの部屋にどうしても入れなくて、ドンシクに「ユヨン、この人が真犯人を捕まえてくれたぞ」と背中を押され、やっと足を踏み入れた。
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑧Beyond the rainbow「あ」
結局プレイリストの曲を何曲か流したところでまた胸がいっぱいになり、最後まで聴けずに帰宅した。ビデオ通話の録画データを隔離して保存すべきかと操作する。
二人とも眠ってしまってからの動きの少ない部分は削除したが、起床したドンシクの着替えが映っている可能性に気付き、ジュウォンは戸惑いつつも、そっとデータを確かめる。
確かめずに消すべきだと、本当は知っている。思春期の青少年か。と自分にツッコミを入れたものの、それ以外のなにものでもない。
ドンシクは目覚めてすぐ端末をチェックしていたから、繋がったままなのは気付いていただろう。録画に気付いていなくても、起きてすぐ見えるなら同じだ。でもそれなら、見てはいけないものではないことになる。
1579結局プレイリストの曲を何曲か流したところでまた胸がいっぱいになり、最後まで聴けずに帰宅した。ビデオ通話の録画データを隔離して保存すべきかと操作する。
二人とも眠ってしまってからの動きの少ない部分は削除したが、起床したドンシクの着替えが映っている可能性に気付き、ジュウォンは戸惑いつつも、そっとデータを確かめる。
確かめずに消すべきだと、本当は知っている。思春期の青少年か。と自分にツッコミを入れたものの、それ以外のなにものでもない。
ドンシクは目覚めてすぐ端末をチェックしていたから、繋がったままなのは気付いていただろう。録画に気付いていなくても、起きてすぐ見えるなら同じだ。でもそれなら、見てはいけないものではないことになる。
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑦薄暮まで「ヤー、来たね。お疲れ様。ハン・ジュウォン警部補」
「お待たせしました。イ・ドンシクさん」
海浜公園と併設されたホテルの駐車場で落ち合って、眺めのいい場所にいたドンシクに声を掛けた。
「良かった。昨日の夜より元気そう」
「あなたは――」
長い髪は思ったよりずっと儚げに見えて、薄曇りの空に紛れて消えてしまいそうだ。
呪いは解け、敵は去っても、後悔と悲しみはまだ胸にある。
それでも、新しく芽生えた希望と、やっとドンシク自身のものになった人生。
「初めからこういう風に会えば良かったね。そしたらあなた、もっとよく眠れたのに」
昨晩の通話は楽しかった。外もいいが、自分の部屋にいる方がいい。
「ホテルに泊まるんですか?」
2866「お待たせしました。イ・ドンシクさん」
海浜公園と併設されたホテルの駐車場で落ち合って、眺めのいい場所にいたドンシクに声を掛けた。
「良かった。昨日の夜より元気そう」
「あなたは――」
長い髪は思ったよりずっと儚げに見えて、薄曇りの空に紛れて消えてしまいそうだ。
呪いは解け、敵は去っても、後悔と悲しみはまだ胸にある。
それでも、新しく芽生えた希望と、やっとドンシク自身のものになった人生。
「初めからこういう風に会えば良かったね。そしたらあなた、もっとよく眠れたのに」
昨晩の通話は楽しかった。外もいいが、自分の部屋にいる方がいい。
「ホテルに泊まるんですか?」
MASAKI_N
DONE怪物 jwds小話回想シーンのジュウォンが連れているぬいぐるみの話です。
Dormiglione 目覚めるまでの数秒、不思議な感覚を味わう。誰かと手を繋ぐことなんて、道に迷った誰かの手を職務上、仕方なく引く時ぐらい。十数年振りだろう。
イ・ドンシクに出会うずっと前。最後に望んで手を繋いだのは、誰だっただろうか。僕は――
「ジュウォナ」
ようやく慣れてきた、隣にドンシクのいる朝。
「……ぁあ、おはようございます」
ドンシクは寝姿勢に合わせた流線型の抱き枕に、右足を乗せるようにして眠るのが常だ。誕生日プレゼントのおまけでジュウォンが用意したものを、どうやら気に入ってくれているようだった。
足腰の負担を軽減できるし、パーソナルスペースが広いジュウォンとも、寝ている間にお互いのスペースを狭めにくい。何より、枕に抱きついて眠る様子をかわいいと思っていることは、ドンシクには内緒だ。
5835イ・ドンシクに出会うずっと前。最後に望んで手を繋いだのは、誰だっただろうか。僕は――
「ジュウォナ」
ようやく慣れてきた、隣にドンシクのいる朝。
「……ぁあ、おはようございます」
ドンシクは寝姿勢に合わせた流線型の抱き枕に、右足を乗せるようにして眠るのが常だ。誕生日プレゼントのおまけでジュウォンが用意したものを、どうやら気に入ってくれているようだった。
足腰の負担を軽減できるし、パーソナルスペースが広いジュウォンとも、寝ている間にお互いのスペースを狭めにくい。何より、枕に抱きついて眠る様子をかわいいと思っていることは、ドンシクには内緒だ。
ぶるたす
DOODLE雨の日のdsさんは銃創が疼くので、ギス期のhjwにいい加減苛々して「こんなんなのに爽やかだな、坊ちゃん」「くそ…イ・ドンシク…!」て…いう事もあったかもしれない。無かったかもしれない。神の舌舐めずり癖がどうにも好きですし昼なのにすいませんですし金曜ですし。
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑭事実 長い髪が好きというわけではないようだが、ハン・ジュウォンは明らかに、ドンシクの伸び切った髪に惑わされている。
まだ恋人同士になる前に一度、このくらいの長さでビデオ通話をした覚えがある。
ドンシクにわざわざ顔を見せてくるのはミンジョンくらいだったから、嬉しいやり取りだった。残念ながらドンシクは話している間に眠ってしまったが、目覚めた時ジュウォンの寝顔が画面の向こうにあって、どうしようもなく愛おしい気持ちになった。
もう誰も喪いたくないという気持ちとは違う彼への愛情が溢れ、胸がいっぱいになった。
お互い電話をするにも遠慮がある状態を変えようと、あの時からもっと繋がれるように意識した。
「髪が長いの、見慣れない?」
5188まだ恋人同士になる前に一度、このくらいの長さでビデオ通話をした覚えがある。
ドンシクにわざわざ顔を見せてくるのはミンジョンくらいだったから、嬉しいやり取りだった。残念ながらドンシクは話している間に眠ってしまったが、目覚めた時ジュウォンの寝顔が画面の向こうにあって、どうしようもなく愛おしい気持ちになった。
もう誰も喪いたくないという気持ちとは違う彼への愛情が溢れ、胸がいっぱいになった。
お互い電話をするにも遠慮がある状態を変えようと、あの時からもっと繋がれるように意識した。
「髪が長いの、見慣れない?」
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑩合鍵 ドンシクに合鍵をもらった。
マニャンの二軒と現在の自宅の分。いくら警察官同士だったからといっても、あまりに不用心ではないか?
そう思ったが、こうなる前はお互い好き勝手に不法侵入していたから、今更か。
それでも嬉しさより神妙な気持ちが勝ってしまって、存在感を持て余す。
僕なんかに心を許し過ぎじゃないか、イ・ドンシク。
それともまた何か、試されているのか?
不在時に出入りする可能性や必要があって、それを無期限で許されるのがこんなに早いなんて。
でも確かに、お互いの気持ちを確かめた時にはもう「所長にもらったあの家で、いつか一緒に暮らしませんか」と提案されていた。自分もそうしたいと言ったはずだ。
今はわからないが「いつか」ならと思った。なんとなく、それは警官を辞めるか、勤務地が偶然あの家に近くなった時だと思った。
9148マニャンの二軒と現在の自宅の分。いくら警察官同士だったからといっても、あまりに不用心ではないか?
そう思ったが、こうなる前はお互い好き勝手に不法侵入していたから、今更か。
それでも嬉しさより神妙な気持ちが勝ってしまって、存在感を持て余す。
僕なんかに心を許し過ぎじゃないか、イ・ドンシク。
それともまた何か、試されているのか?
不在時に出入りする可能性や必要があって、それを無期限で許されるのがこんなに早いなんて。
でも確かに、お互いの気持ちを確かめた時にはもう「所長にもらったあの家で、いつか一緒に暮らしませんか」と提案されていた。自分もそうしたいと言ったはずだ。
今はわからないが「いつか」ならと思った。なんとなく、それは警官を辞めるか、勤務地が偶然あの家に近くなった時だと思った。
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑨遊戯「元気だった?」
「ええ。忙しかったですけど。どうぞ、昼食はできてます」
ジュウォンは宿直明けで、明日は非番。昼からドンシクが来た。
ドンシクは、珍しくテレビゲームをやっているジュウォンの隣に座った。
「あれ、あなたの分は?」
ジュウォンは最近、ベトナム料理に凝っているらしい。小洒落た器に盛られたフォーが湯気を立てている。
「僕は、ブランチを食べたのでまだ空腹ではありません。熱いので気を付けて」
ブランチ。ジョンジェといたせいで割とお坊ちゃんの暮らしには慣れているし、ドンシクも両親が元気だった頃は、西洋文化寄りの行事や習慣も経験していた。でも、ナム所長と過ごすことが増え、離れていた文化だ。
「俺のためだけにわざわざ作ってくれたの?」
4793「ええ。忙しかったですけど。どうぞ、昼食はできてます」
ジュウォンは宿直明けで、明日は非番。昼からドンシクが来た。
ドンシクは、珍しくテレビゲームをやっているジュウォンの隣に座った。
「あれ、あなたの分は?」
ジュウォンは最近、ベトナム料理に凝っているらしい。小洒落た器に盛られたフォーが湯気を立てている。
「僕は、ブランチを食べたのでまだ空腹ではありません。熱いので気を付けて」
ブランチ。ジョンジェといたせいで割とお坊ちゃんの暮らしには慣れているし、ドンシクも両親が元気だった頃は、西洋文化寄りの行事や習慣も経験していた。でも、ナム所長と過ごすことが増え、離れていた文化だ。
「俺のためだけにわざわざ作ってくれたの?」
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑥悪夢 彼女の指を発見した時
指を置いた時
彼女が自分の足の下で生きていたと知った時
彼はどんなに絶望し、悔いただろう
光の届かない暗闇で溺れもがいて
必死で燃やした自分の身体が光るのだけが頼りだった彼が
――呪いや殺意や復讐の念だと思っていたその炎は
愛する妹への愛を思い出す時だけ義憤で昇華され
彼の行く先を照らす道標となった
どうして僕は、あんなに彼を見張っていたのに、それに気付けなかったのだろう。
どうして彼の生きる世界はこんなにも、非情で残酷なのだろう。
――ハン・ジュウォン警部補
よく通る声で呼び掛けられた記憶がフラッシュバックし、意識を揺さぶられる。びくりと身体が震え、ハン・ジュウォンは目を覚ました。
6492指を置いた時
彼女が自分の足の下で生きていたと知った時
彼はどんなに絶望し、悔いただろう
光の届かない暗闇で溺れもがいて
必死で燃やした自分の身体が光るのだけが頼りだった彼が
――呪いや殺意や復讐の念だと思っていたその炎は
愛する妹への愛を思い出す時だけ義憤で昇華され
彼の行く先を照らす道標となった
どうして僕は、あんなに彼を見張っていたのに、それに気付けなかったのだろう。
どうして彼の生きる世界はこんなにも、非情で残酷なのだろう。
――ハン・ジュウォン警部補
よく通る声で呼び掛けられた記憶がフラッシュバックし、意識を揺さぶられる。びくりと身体が震え、ハン・ジュウォンは目を覚ました。
MASAKI_N
DONE怪物jwds③ヒョク「ヒョン、驚かないんだ」
「え?何に」
ハン・ジュウォンはほろ酔いの時――特に自分の前では――素直で融通の利かない、生意気な弟分のままだ。
「僕の好きな相手がドンシクさんでも」
あんな地獄を経験したのに案外けろりとしていて安心したら、恋愛相談なのか何なのかわからない報告をされている。ドンシクを表す言葉や、想いを伝えるべきかを悩む様は、古い時代のインテリが酔って詩を詠むようだった。
どれだけ焚き付けてもどの美女にも興味が無かった男が、まさか、執拗に調査して容疑をかけて、逮捕までした男に惚れるなんて。
そう思ったものの、ドンシクとジュウォンの間の空気は特別なものだと知っていたから、自分でも意外なくらいすんなり受け入れた。
5103「え?何に」
ハン・ジュウォンはほろ酔いの時――特に自分の前では――素直で融通の利かない、生意気な弟分のままだ。
「僕の好きな相手がドンシクさんでも」
あんな地獄を経験したのに案外けろりとしていて安心したら、恋愛相談なのか何なのかわからない報告をされている。ドンシクを表す言葉や、想いを伝えるべきかを悩む様は、古い時代のインテリが酔って詩を詠むようだった。
どれだけ焚き付けてもどの美女にも興味が無かった男が、まさか、執拗に調査して容疑をかけて、逮捕までした男に惚れるなんて。
そう思ったものの、ドンシクとジュウォンの間の空気は特別なものだと知っていたから、自分でも意外なくらいすんなり受け入れた。
MASAKI_N
DONE怪物jwds④再会「ジフンがこの前マニャンで会ったって――何だったの?」
ナム所長の命日。精肉店でプデチゲを食べてから、墓参り兼、散歩に付き合わされている。ジェイたち一行とは違う道にそれ、ジュウォンはドンシクと二人で話しながら歩いている。
顔を合わせたのは逮捕の件の後では初めてだが、電話やメッセージは何度かしていた。
「家出人がマニャン出身者だったので、ジフンさんに案内してもらいました。ジェイさんの店に近かったので裏に車を停めさせてもらって、お水をいただきました」
「ジフンは忙しかったから、ハン警部補が店に置き去りにされてたって、ジェイが言ってたよ。絡まれたでしょう」
「ええ。ドンシクさんに感謝しているんなら、今後も元パートナーとして恩返ししろとか、過ちを償うために頑張っていることを報告しろとか、人を挟んで伝言ゲームをしないで、直接ドンシクさんに電話しろとか、馬鹿だとか臆病だとか――散々、いじめられました」
1725ナム所長の命日。精肉店でプデチゲを食べてから、墓参り兼、散歩に付き合わされている。ジェイたち一行とは違う道にそれ、ジュウォンはドンシクと二人で話しながら歩いている。
顔を合わせたのは逮捕の件の後では初めてだが、電話やメッセージは何度かしていた。
「家出人がマニャン出身者だったので、ジフンさんに案内してもらいました。ジェイさんの店に近かったので裏に車を停めさせてもらって、お水をいただきました」
「ジフンは忙しかったから、ハン警部補が店に置き去りにされてたって、ジェイが言ってたよ。絡まれたでしょう」
「ええ。ドンシクさんに感謝しているんなら、今後も元パートナーとして恩返ししろとか、過ちを償うために頑張っていることを報告しろとか、人を挟んで伝言ゲームをしないで、直接ドンシクさんに電話しろとか、馬鹿だとか臆病だとか――散々、いじめられました」
MASAKI_N
DONE非常宣言✕怪物クロスオーバー②副✕元とjwds前提で、ヒョンスとジュウォンがお隣同士に住んでるアースの話です。
一応、片方を観てなくてもネタバレ過ぎることは踏まずに読めるようにはしましたが、両方観た人はあ~ってなるといいな。
友人「お隣に入って行った人、誰だったかなぁ」
パク・ジェヒョクはそう言いながら靴を脱ぎ、部屋の主であるチェ・ヒョンスを振り返った。
「ドンシクさん、ですかね」
ジェヒョクを迎え入れた時、隣家の方でも話し声が聞こえた。多分、彼だろう。
「ん。そう呼ばれてたな」
エレベーターから一緒だったなら、数分考えても思い出せず、もやもやしているのか。
「知り合いじゃなくて、ニュースか新聞で観たんじゃないですか?ほら、警察庁の――このマンションにもマスコミが来てたから。あなたが好きそうな事件だと思ってました。権力を恐れず汚職を暴く人が好きだったでしょう」
隣家に住むのは件の長官の息子、ハン・ジュウォン。その後の展開も含め、ドラマチックな事件だった。イ・ドンシクはこのところよく、ジュウォンを訪ねて来る。
4801パク・ジェヒョクはそう言いながら靴を脱ぎ、部屋の主であるチェ・ヒョンスを振り返った。
「ドンシクさん、ですかね」
ジェヒョクを迎え入れた時、隣家の方でも話し声が聞こえた。多分、彼だろう。
「ん。そう呼ばれてたな」
エレベーターから一緒だったなら、数分考えても思い出せず、もやもやしているのか。
「知り合いじゃなくて、ニュースか新聞で観たんじゃないですか?ほら、警察庁の――このマンションにもマスコミが来てたから。あなたが好きそうな事件だと思ってました。権力を恐れず汚職を暴く人が好きだったでしょう」
隣家に住むのは件の長官の息子、ハン・ジュウォン。その後の展開も含め、ドラマチックな事件だった。イ・ドンシクはこのところよく、ジュウォンを訪ねて来る。
MASAKI_N
DONE非常宣言✕怪物クロスオーバー①副✕元とjwds前提で、ヒョンスとジュウォンがお隣同士に住んでるアースの話です。
一応、片方を観てなくてもネタバレ過ぎることは踏まずに読めるようにはしましたが、両方観た人はあ~ってなるといいな。
隣人「ジュウォナ、今そこ通った人見た?パク・ジェヒョク氏に似てたね。あの、飛行機の」
ドンシクの言葉にジュウォンは軽く頷いてから、「本人ですよ」と返した。
「え、このマンションに住んでるの」
「いえ。お隣のチェ・ヒョンスさんの部屋に来たんでしょう。ヒョンスさんが、ジェヒョクさんの話をよくしてくれます」
二人とも、つい最近あった大きな事件の功労者の一人だ。
「お隣と仲がいいの?珍しい。どんな人?」
この部屋の主であり法であるジュウォンは、ドンシクが脱ぎかけた上着を奪うように預かる。
「いい人ですよ。年はあなたと近いです。越してきた頃から色々と気づかってくださって――僕が知る中で一番、まともな人かもしれません。ヒョンスさんが家を空ける時にたまに頼みごとをされるので、買ってきて欲しい物をお礼としていただきます」
4779ドンシクの言葉にジュウォンは軽く頷いてから、「本人ですよ」と返した。
「え、このマンションに住んでるの」
「いえ。お隣のチェ・ヒョンスさんの部屋に来たんでしょう。ヒョンスさんが、ジェヒョクさんの話をよくしてくれます」
二人とも、つい最近あった大きな事件の功労者の一人だ。
「お隣と仲がいいの?珍しい。どんな人?」
この部屋の主であり法であるジュウォンは、ドンシクが脱ぎかけた上着を奪うように預かる。
「いい人ですよ。年はあなたと近いです。越してきた頃から色々と気づかってくださって――僕が知る中で一番、まともな人かもしれません。ヒョンスさんが家を空ける時にたまに頼みごとをされるので、買ってきて欲しい物をお礼としていただきます」
MASAKI_N
DONE怪物jwds⑤約束『ハン・ジュウォン警部補、生きてますか?』
電話する日時を事前に確認していたので、ドンシクは電話に出てすぐに、そう囁いた。
人をからかうような言い回しに懐かしい気持ちになり、その後、何故か切なくなった。
「……はい。おかげさまで」
誰かに恋する感覚を知った自分に、まだ戸惑いがある。
これまでも、人間らしい感情が無かったわけではないが、ジュウォンにとっての感情は単に、自分の気分の話だった。人に対しての感情表現がより豊かになったのは明らかに、ドンシクやジェイのせいだ。
とはいえ、ドンシクのせい、などと責めればまた、あの妖しげな笑みと話術に弄ばれ、墓穴を掘る羽目になる。元々、ジュウォンが自ら首を突っ込んで追い回していたのだから。
8379電話する日時を事前に確認していたので、ドンシクは電話に出てすぐに、そう囁いた。
人をからかうような言い回しに懐かしい気持ちになり、その後、何故か切なくなった。
「……はい。おかげさまで」
誰かに恋する感覚を知った自分に、まだ戸惑いがある。
これまでも、人間らしい感情が無かったわけではないが、ジュウォンにとっての感情は単に、自分の気分の話だった。人に対しての感情表現がより豊かになったのは明らかに、ドンシクやジェイのせいだ。
とはいえ、ドンシクのせい、などと責めればまた、あの妖しげな笑みと話術に弄ばれ、墓穴を掘る羽目になる。元々、ジュウォンが自ら首を突っ込んで追い回していたのだから。
MASAKI_N
DONE怪物jwds②ジェイ「どうしてドンシクさんと会わないの?」
「は?」
ジェイはジュウォンの姿を認めると、開口一番そう質問した。
マニャン出身者について調べる必要があり出向いたら、ジフンに見つかった。見つかったも何も、派出所に行けば高確率で会うのは想定していた。事件関係者の家を訪ねるのに付き添ってもらい、そのまま、流れで精肉店に来てしまった。この界隈で邪魔にならない駐車スペースは、ここしかないからだ。当のジフンはさっさと仕事に戻って、ジュウォンは話すこともないのに、ジフンがご親切に二人分頼んだ水を、仕方なく飲んでいた。
「好きなんでしょ?」
あまりに迷いなくそう言い切って、答えを待っている。いや、答えではない。納得のいく説明をしてみろと、挑発されている。
3817「は?」
ジェイはジュウォンの姿を認めると、開口一番そう質問した。
マニャン出身者について調べる必要があり出向いたら、ジフンに見つかった。見つかったも何も、派出所に行けば高確率で会うのは想定していた。事件関係者の家を訪ねるのに付き添ってもらい、そのまま、流れで精肉店に来てしまった。この界隈で邪魔にならない駐車スペースは、ここしかないからだ。当のジフンはさっさと仕事に戻って、ジュウォンは話すこともないのに、ジフンがご親切に二人分頼んだ水を、仕方なく飲んでいた。
「好きなんでしょ?」
あまりに迷いなくそう言い切って、答えを待っている。いや、答えではない。納得のいく説明をしてみろと、挑発されている。
MASAKI_N
DONE怪物jwds①ジファ「ドンシク、ハン警部補の前ではちゃんと泣けるんだ」
ジファはそう、拗ねたように呟いた。二人で飲むのは久し振りだ。
裁判がやっと終わって、ドンシクは晴れて拘束を解かれた。ソウルの馴染みの店で、腹を満たし、酒を注ぎ合う。
「え?」
「所長は別として――なんでドンシクは、あたしの前では泣かないんだろうって思ってた」
ジュウォンがマニャン精肉店に集うあの輪に加わった頃は、ほぼ全員、人生最悪の時期だった。それからならどう変化しても、良くなるしかないのは幸いだ。
いつ会っても空気は変わらないが、不定期に集まっては、皆、少しずつはある変化を報告し合っている。
ドンシクの今の心配事は、母親の体調くらいだ。加齢に伴う不調は仕方ない。事件の解決が絶望的だった頃よりは、前向きでいられる。
6591ジファはそう、拗ねたように呟いた。二人で飲むのは久し振りだ。
裁判がやっと終わって、ドンシクは晴れて拘束を解かれた。ソウルの馴染みの店で、腹を満たし、酒を注ぎ合う。
「え?」
「所長は別として――なんでドンシクは、あたしの前では泣かないんだろうって思ってた」
ジュウォンがマニャン精肉店に集うあの輪に加わった頃は、ほぼ全員、人生最悪の時期だった。それからならどう変化しても、良くなるしかないのは幸いだ。
いつ会っても空気は変わらないが、不定期に集まっては、皆、少しずつはある変化を報告し合っている。
ドンシクの今の心配事は、母親の体調くらいだ。加齢に伴う不調は仕方ない。事件の解決が絶望的だった頃よりは、前向きでいられる。