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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    47都道府県グルメ曦澄企画
    北海道、ちゃんちゃん焼き

    #曦澄

     いらっしゃいませ、と落ち着いた調子の店員の声に促され、江澄と藍曦臣は店の奥へと足を運んだ。店内は鉄板焼きの香ばしい匂いで満ちている。
     江澄と藍曦臣が向かい合って席に着くと、すかさず店員が水を持ってやってきた。
    「お飲み物をおうかがいいたします」
    「地ビールで」
    「烏龍茶をお願いします」
    「かしこまりました」
     店員は注文を受けると、まずテーブルの脇のつまみをひねって鉄板に火を入れた。それから、江澄の前にメニューを置いて去っていった。
    「ちゃんちゃん焼きは予約してある。ほかに食べたいものはあるか?」
    「そうですね……」
     江澄の手からメニューを受け取り、藍曦臣はページをめくった。
     鉄板焼きの店である。肉でも、魚介でも、おいしそうではあるけれど、とりあえずは今夜のメインをいただいてからでないと食指が動きそうにない。サラダ、とも考えたが、ちゃんちゃん焼きは野菜もたっぷり入る。
    「後で考えましょう」
     江澄はうなずいて、藍曦臣から戻ってきたメニューをぱらぱらとながめた。あとでとうもろこしを頼んでもいいかもしれない。
    「失礼します」
     江澄の前にはビールのグラス、藍曦臣には烏龍茶が置かれ、店員は続けて「もう、ご用意してよろしいですか」と尋ねた。
     すでに鉄板からは熱を感じる。
     江澄が「お願いします」と頼むと、店員はカウンターの向こうから大皿を二枚持ってきた。一枚にははみ出すほど大きな鮭の切り身が載り、もう一枚にはキャベツやたまねぎ、ニンジンが山盛りになっている。
     鮭は切り身とはいえ身が厚い。半身の三分の一ほどもあるだろうか。
     店員はさらにバターと、たれの入った器をテーブルの端に置いた。
    「こちらでお焼きしてよろしいですか」
    「はい、お願いします」
     まず、バターが鉄板の上をすべった。五センチほども厚みのあった黄色いかたまりは、返しに操られてあっという間に溶けていく。
     じゅうぶんにバターがいきわたったところで、店員は鮭を鉄板に載せた。
     ジュウウウという音が響く。
     藍曦臣がふと顔を上げると、江澄が食い入るように店員の手元を見ていた。
     今夜のちゃんちゃん焼きをリクエストしたのは江澄だった。北海道旅行の話が出たときに、一番に決まったのはホテルではなくて、このレストランでの食事だった。
     札幌から石狩まで、わざわざ足をのばすことになるのを承知で、江澄はこの店を予約したのだった。
     鮭の切り身は店員の手で空を舞い、裏返って再び鉄板に戻った。
     焦げ目がついた鮭の身は白い湯気を立て、江澄と藍曦臣の胃を刺激した。
     その鮭を囲うようにキャベツが敷かれ、ニンジンとたまねぎも後に続く。最後にきのこがちりばめられた。
    「たれが飛ぶことがあるのでご注意ください」
    「あ、はい」
     江澄はわずかに身を引いたが、その視線はやはり鉄板にくぎ付けだった。
     店員は手早くみそだれをかき混ぜ、さっと鮭と野菜の上に回しかけると、ジュウジュウと音を立てる食材たちを蓋で隠した。
     さっそくみその焦げる香ばしい匂いが立ちのぼる。
    「少々、お待ちください」
     店員が去っても、江澄は鉄板を見つめたままだった。
     藍曦臣はふと、十何年も前のことを思い出した。聶家で遊んでいたときに、みんなで昼食をいただいたことがあった。ホットプレートを前にして、蓋が開くのをじっと待つ江澄はまさにこんな顔をしていなかっただろうか。
     あのとき、昼食を作ってくれたのは年長の聶明玦だった。彼はたしか、ホットプレートの蓋を開けた後、中身を鮮やかな手つきで混ぜていた。
     あれはもしや——
     店員が戻ってくると、江澄は腰を浮かして言った。
    「あの、この後、自分でやってもいいですか」
    「ええ、どうぞ。やけどなさらないように、お気を付けください」
     ふたを開けると、白い湯気がむわりとふくらんだ。みそだれをまとった鮭と野菜は、蒸されてつやつやとしている。
     そこに、江澄は返しを突き立てた。大雑把に鮭を切り分け、野菜と一緒に返しで混ぜる。金属と金属のぶつかる音が小気味いい。
    「皿、出してくれ」
     藍曦臣が取り皿を差し出すと、江澄はそこにたっぷりとちゃんちゃん焼きを載せた。そうして、よし、と満足げに笑う。
    「おいしそうです」
    「だろう?」
     江澄は自分の分を取り分けて、ようやく藍曦臣を見た。
     二人で「いただきます」と言い、箸を取る。
     鮭はほろほろと口の中でほぐれ、キャベツはしゃきしゃきと噛み応えがあり甘い。
     バターとみその香りが鼻を抜けていく。
    「うまいな」
    「ええ、おいしいですね」
    「ごはんがほしい」
    「そういえば」
     江澄は追加で二人分のごはんと、とうもろこしを注文した。
     とうもろこしは鉄板の端でじっくり焼くことにして、江澄はその間にちゃんちゃん焼きをおかわりした。
     ごはんの上に鮭をのせて口に入れる。
     ビールも飲む。
     ニンジンとたまねぎを食べる。
     また、ごはんが食べたくなる。
    「ふふ……」
    「なんだ?」
    「いえ、来てよかったなと」
     藍曦臣もおかわりを皿によそって、ごはんと交互に口に運ぶ。
    「俺も、来られてよかった」
    「おいしいですものね」
     江澄は返しで残っていたちゃんちゃん焼きを二人分に分けた。これだけでもうだいぶお腹がいっぱいになった。
    「追加します?」
    「……いや」
    「ラムもあるみたいですが」
    「ラム……」
    「はい」
     それはそれでなかなか食べる機会はない食材である。
     江澄はメニューを開いた。ビールももう残り少ない。
     次はなにを頼もうか。
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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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    DOODLE攻め強ガチャより
    「澄を苦しませたい訳ではないけれど、その心に引っ掻き傷を付けて、いついかなる時もじくじくと苛みたいとどこかで願っている曦」

    阿瑶の代わりだと思い詰めている澄
    vs
    いつまで経っても心を開いてくれないから先に体だけ頂いちゃった兄上
    「また」と言って別れたのは、まだ色づく前の、青の濃い葉の下でのこと。
     今や裸になった枝には白い影が積もっている。
     藍曦臣は牀榻に横になると、素肌の肩を抱き寄せた。
     さっきまではたしかに熱かったはずの肌が、もうひやりと冷たい。
    「寒くありませんか」
     掛布を引いて、体を包む。江澄は「熱い」と言いつつ、身をすり寄せてくる。
     藍曦臣は微笑んで、乱れたままの髪に口付けた。
    「ずっと、お会いしたかった」
     今日は寒室の戸を閉めるなり、互いに抱きしめて、唇を重ねて、言葉も交わさず牀榻に倒れ込んだ。
     数えてみると三月ぶりになる。
     藍曦臣はわかりやすく飢えていた。江澄も同じように応えてくれてほっとした。
     つまり、油断していた。
    「私は会いたくなかった」
     藍曦臣は久々の拒絶に瞬いた。
    (そういえばそうでした。あなたは必ずそうおっしゃる)
     どれほど最中に求めてくれても、必ず江澄は藍曦臣に背を向ける。
     今も、腕の中でごそごそと動いて、体の向きを変えてしまった。
    「何故でしょう」
     藍曦臣は耳の後ろに口付けた。
     江澄は逃げていかない。背を向けるだけで逃れようとしないことは知っている。
    1112

    takami180

    PROGRESS続長編曦澄5
    あなたに言えないことがある
     机上に広げられているのは文である。藤色の料紙に麗しい手跡が映える。
     江澄はその文をひっくり返し、また表に返す。
     何度見ても、藍曦臣からの文である。
     ——正月が明けたら、忙しくなる前に、一度そちらにうかがいます。あなたがお忙しいようなら半刻でもかまいません。一目、お会いしたい。
     江澄はもう一度文を伏せた。手を組んで額を乗せる。頭が痛い。
     会いたい、とは思う。嬉しくもある。それと同じだけ、会いたくない。
     会ったら言わねばならない。先日の言葉を撤回して、謝罪をして、そうしたら。
     きっと二度と会えなくなる。
     江澄にはそれが正しい道筋に見えた。誰だって、自分を騙した人物には会いたくないに決まっている。
     江澄は袷のあたりをぎゅっとつかんだ。
     痛かった。痛くて今にも血が吹き出してきそうだ。
     だが、現実に鮮血はなく、江澄の目の前には文がある。
     いっそ、書いてしまおうか。いや、文に書いてはそれこそ二度と会えなくなる。もう一度くらいは会いたい。
     自分がこれほど厚顔無恥とは知らなかった。
     江澄は文を片付けると、料紙を広げた。ともかくも返事を送って日取りを決めよう。
     まだ、日は 1610

    sgm

    DONEお野菜AU。
    雲夢はれんこんの国だけど、江澄はお芋を育てる力が強くてそれがコンプレックスでっていう設定。
    お野菜AU:出会い 藍渙が初めてその踊りを見たのは彼が九つの年だ。叔父に連れられ蓮茎の国である雲夢へと訪れた時だった。ちょうど暑くなり始め、雲夢自慢の蓮池に緑の立葉が増え始めた五月の終わり頃だ。蓮茎の植え付けがひと段落し、今年の豊作を願って雲夢の幼い公主と公子が蓮花湖の真ん中に作られた四角い舞台の上で踊る。南瓜の国である姑蘇でも豊作を願うが、舞ではなくて楽であったため、知見を広げるためにも、と藍渙は叔父に連れてこられた。
     舞台の上で軽快な音楽に合わせて自分とさほど年の変わらない江公主と弟と同じ年か一つか二つ下に見える江公子がヒラリヒラリと舞う姿に目を奪われた。特に幼い藍渙の心を奪ったのは公主ではなく公子だった。
     江公主は蓮茎の葉や花を現した衣を着て、江公子は甘藷の葉や花を金糸で刺繍された紫の衣を着ていた。蓮茎の国では代々江家の子は蓮茎を司るが、なぜか江公子は蓮茎を育てる力よりも甘藷を育てる力が強いと聞く。故に、甘藷を模した衣なのだろう。その紫の衣は江公子によく似合っていた。床すれすれの長さで背中で蝶結びにされた黄色い帯は小さく跳ねるのにあわせてふわりふわりと可憐に揺れる。胸元を彩る赤い帯もやはり蝶のようで、甘藷の花の蜜を求めにやってきた蝶にも見えた。紫色をした甘藷の花は実を結ぶことが出来なくなった際に咲くというから、藍渙は実物をまだ見たことないが、きっと公子のように可憐なのだろうと幼心に思った。
    2006