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    07tee_

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    bllの無い世界線の幼馴染みseis♀。過去捏造しまくい。seさんが比較的マイルド。受けが息するように女体化してる。krくん編。ごめんよkrくん。嫌な奴にしてしまって。あと個人的に同じ"日本"と"宝"の異名貰ってるけど圧倒的上位互換のseさんにぼこぼこにされるのが見たかっただけ。ほんとごめんね。

    #seis
    stop
    #seis♀

    冴が来た(5) 東京での仕事は土曜日で区切りがつくので、そのなんちゃらと対峙するのなら日曜日になる。
     日曜日になるまで吉良からの連絡は激減したので、一応功を奏してはいるようだ。世一も心穏やかであった。
     当日、朝から世一と一緒に出掛けた。道中ずっと周りからの視線がちらちらと冴に向いていたが一切無視した。隣を歩いていた世一は居心地悪そうにしている。指定のファミレスに入った時も店内の視線を掻っ攫った。
     お相手は(冴は名前を完全に記憶から消去した)まだ来ていないので、先に席を占めて待ち構えていると、隣に座った世一が小さな声で耳打ちする。
    「あのさ、冴……ずっと思ってたんだけど、それ、なに?」
     世一が指摘しているのは、冴の顔を隠す黒帽子とグラサンとマスクである。
    「目立つことはすんなってマネージャーが」
     もう既に目立ってる。どこからどう見ても不審者の格好だ。
     時間五分前に、例のストーカー野郎……もとい吉良涼介が現れた。
    「あ、吉良君、こっち」
    「やあ、潔さ、ん」
     爽やかな高校生が世一の横を見て、かちんと固まった。
    「…その人が、付き合ってる人?」
    「うん、そう…」
     笑顔で取り繕っているが、冴に向けているのは完全に不審者を見る目である。
     こいつが世一を困らせてる有望なサッカー選手か。世一に地元新聞に掲載されていた奴の写真を拝見し、こうして目の前にしたとしても……凛の方がましな面をしてるというのが冴の感想である。
    「名前を訊いても?」
    「あ~と、え~と…」
     目を泳がせて冴に視線を送る世一を傍目に、冴は両腕を組みながら言い放つ。
    「…………山田、笑太」
     断じて名前をどうするかを全く考えていなかったという訳ではない。
    「へえ、ヤマダショウタ、さんていうんですか…ちょっと変っていうか、名前と雰囲気が…」
    「あ?てめえ、山田くん馬鹿にすんじゃねえぞ。てめえに山田くんの何がわかんだ?相模湾に沈められてえのか?」
     吉良君はただ反応を返しただけなのに、返しがかなり理不尽な上に物騒である。それもその筈。咄嗟に出たその名前は、冴が渡西した後もずっと見続けて来た日本代表の長寿アニメのキャラクターであるからだ。同じ番組を愛してきた世一はそれだと直ぐに解ったし、初っ端から喧嘩腰の冴の態度に、失敗したかもと後悔し始めた。
    「はあ…」
    「はあじゃねえよ。こっちは貴重な時間潰してわざわざ出向いてやってんだ。時間を無駄にすんじゃねえタコ」
     今日に限って磨きのかかった口の悪さに吉良涼介は絶句するが、素早く切り替えて人受けの良い笑顔を浮かべた。
    「えーっと……まず何か頼みます?」
    「飲み物だけで結構だ。さっさと終わらせろ。この俺に無駄な時間を使わせるんじゃねえ」
     十分後、地獄のような静けさの中で、それぞれが注文した飲み物が並べられた。
     かなりしんどい空気の中で、強張った笑顔をする吉良が、世一と冴に向かって質問を始める。
    「…えと。この前、潔さん、付き合ってる人はいないって言ってたと思うけど、いつから付き合ってたの?」
    「え、と…」
     世一が嘘も誤魔化しも苦手だと知っていたので、冴がふんぞり返りながら言い放った。
    「こいつが0歳で、俺が一歳からの付き合いだ」
     虚偽ではなく正真正銘の事実を、冴は言った。
     吉良は笑顔のまま固まり、世一は口半開きで冴を凝視した。
    「…………そう、ですか。長いお付き合い、なんですね」
     吉良は笑顔のまま吊り上がった口の端を器用に痙攣させた。
    「まさかそんな小さいころから彼氏と彼女だって言うんじゃ…」
    「んな訳ねえだろ、お前頭いかれてんのか、クソポンチ野郎」
    「で、ですよね…じゃあ、彼氏と彼女になったのは最近ってこと?」
     こんな奴相手にしてられないとばかりに吉良の視線が世一に向く。世一は冴に呆気に取られていたせいで、反応が一瞬遅れた。
    「えっあ、そうそう!」
    「それっていつから?俺が聞いた時は付き合ってる人はいないって言ってたよね?」
    「そ、その後に、付き合いだした…」
    「じゃあ、潔さんの好きな人って、この人のこと?」
    「う、うん…」
     吉良からの質疑に世一は硬い態度で答える。へえ、と答えながら吉良はじろじろと冴を不審に眺めている。
    「山田さん、だっけ。山田さんもサッカーやってる人?」
    「ああ。で?」
    「で?って…俺もサッカーやってるんだけど、あまり見ない顔だよね?どこのチーム?」
    「海の向こう」
     冴は嘘をついていない。本当のことを言っている。ただ言葉選びを外しただけである。ピッチでは正確無比な豪速球パスを繰り出す天才MFであるが、対人となると言葉選びが不正確になる。
    「海外ってことでいいんだよね?そりゃ知らないのも無理ないかも……で、二人ってどういう切っ掛けで付き合うことになったの?」
    「野暮なことに首を突っ込むんじゃねえ」
     なんで今日初めて会った野郎なんかに世一との思い出を聞かせねばならんのか意味わからん。容赦なくぶった切ると吉良は怯んだ。
    「幼馴染なんですよね?小さいころから一緒だと、家族同然とも思いませんか?」
    「偉そうにテメエの次元で語るんじゃねえヘボ」
     負けじと意固地になる吉良を、冴は頬杖を突きながら一刀両断した。吉良が笑顔のままこめかみをぴくりと痙攣させたのを見逃さない。
    「付き合ってるのなら、恋人らしいことやってるんですよね?デートとかキスとか」
    「キっ…」
     隣の世一が反応してしまった。慌てふためくが、世一の反応を吉良はしっかりと捉えた。
     冴は平然と答えた。
    「キスはもうしたな」
    「――――っ」
    「…………へえ」
    「デートもした。海やら遊園地やらいろいろな」
     デートの前には(親と凛同伴)が付加される。無論幼少の頃のお出かけのことを言っている。しかし世一は息を大げさに呑み、吉良は間の抜けた息を漏らした。
    「ちょ、冴どういうこと」
    「何が?」
    「キスだよ初耳なんだけど」
    「あ?お前覚えてねえのか?」
    「覚えてないって何が」
    「お前が泣きすぎて過呼吸起こしたから、見様見真似で人工呼吸してお前を救ったんだよ。俺に感謝しろ」
    「知らねえよそんなこと今初めて知ったよてか、ファーストキスが人口呼吸……」
     知りたくなかったと世一は項垂れた。冴はふんぞり返っている。実はそれよりももっと小さかった頃…一歳児の冴がキスという行為を覚えたての頃、赤ん坊の世一にたくさんキスをしていた事実があるのだが、流石に記憶してない。
    「キスもしたしデートもしたし結婚の約束もした。これで満足かヘボ野郎。さっさと帰って球蹴りでもしてやがれ」
     いつにも増してキレッキレな暴言の羅列に、世一までもが血の気を引かせて口を噤む程である。初対面である吉良は衝撃すぎて頭が真っ白になり、口を半開きにして硬直していた。
     ここまで言えばもう付きまとわないだろうと判断して、コーヒーを一気に飲み干すと、世一の腕を引っ張った。
    「じゃあな、好青年君。二度と潔の前に現れるんじゃねえぞ」
    「さ、冴…」
    「行くぞ、潔」
    「うん…ごめんね、吉良君!こういうことだから」
     世一を引っ張って店を出て、ついでだから鬱憤晴らしに観光でも行くかと考えた。
     だが、我に帰った吉良が反射神経で立ち上がり、冴が掴んでいるのとは反対の腕を掴んだことで、引き止められた。
    「吉良、君…?」
     世一越しに、眉間に皺を寄せた吉良の顔を見た。剣呑な目つきで睨んでいたのが、ふと唐突に和らいだ。気持ち悪いぐらいの変貌ぶりであった。
    「…………潔さんさ。こんなことして楽しいの?俺を弄んで気持ちいい?」
     冴では敵わないと思って、世一に矛先を変えたのだ。世一を自分よりも格下に見ている…目を見れば一目瞭然だ。
    「確かに俺、潔さんにしつこかったかもしれないけど。でも、最初から付き合う気が無いって言ってくれても良かったんじゃない?そしたら俺だって引き下がってたよ」
    「いや、最初から言ったけど…」
    「だったらもっとはっきりと振ってくれた方が良かったよ。でなかったら、こんな惨めな思いをしないで済んだんだよ?」
     こいつ。責任転嫁しやがる。己の不当だと認めずに他者に非が向くように仕掛ける。救いようのない雑魚がすることだ。吉良と世一のやり取りで周りの視線が集中し出して、修羅場を期待する野次馬に見られていると知りながら、世一に一切の余裕を与えずに力技で押し込もうとしている。
    「それとも、潔さんって期待させるのが好きな系?相手に期待を持たせて捨てるのが好きなの?そういう女だったの?持て囃されたい系なの?」
     クソ野郎が世一に触れているだけでもクソ胸糞悪いというのに、世一に悪意の言葉を投げつけるこの男の全歯をへし折りたいぐらいに胸糞悪い。
    「男子に混じってサッカーしてるのも持て囃されたいから?モテたいからサッカーやってるんだ?へえ。そんな子だとは思わなかったよ。潔さんにはサッカーをやる権利は無いよ。ちょっとパスが上手いだけで才能無いしね。サッカー辞めたら――――」
     冴は知っている。潔がどんな想いでサッカーをやってるのか。誰よりも早くに練習を始めて、誰よりも遅くまで自主練をしている。性差という障害の中で、死に物狂いでプレーをしている。男よりも狭い女子サッカープロの登竜門を潜る為だ。
     だけどそれは夢への一歩に過ぎない。世一はずっと追いかけている。
    ――――世界一のストライカーになって、W杯で優勝する。その夢を。
     冴の手は吉良の胸倉を掴んでいた。
    「冴っ」
    「は…?何…?喧嘩する?一応言っておくけど、俺、日本サッカー界の宝って呼ばれてんだけど。俺の顔に傷つけたら一生サッカーできなくなるけど良いの?」
     冴にとって、世一は妹のような存在だ。大切な家族に等しい存在だ。それはずっと変わらない。
     冴は世一のことを大事にしている。凛とは違う意味で、世一が大事だ。大切だ。だから世一がこんな男になぶられているのを、黙ってみていられない。
    「――――だったら、サッカーでけりをつけるか?日本サッカー界のお宝君とやら」
     感情を露わにするのはプロ失格。プロである冴は込みあがる熱い衝動を鉄の理性で抑え込んで、鋭利な眼光で吉良を射抜く。
    「相手してやるから来い、秀才凡人」
    「…へえ。良いよ。大した自信なの意味わからないけど」
     吉良は簡単に誘いに乗った。世一は突然の流れに動揺している。
     近くのサッカー場へと移動して、一対一で対峙した。
     急ごしらえで誂えたサッカーボールを、ウォーミングアップする吉良に渡す。
    「来いよ、弱小国」
    「…後悔してもしらないよ」
    「冴…」
     世一が冴に心配そうな表情を向けているが、『冴が吉良に惜敗する』心配――――ではなく、『冴が吉良を潰して二度とサッカーをできなくさせる』心配である。これに気付いていないのは、この場でただ一人、吉良のみだ。
    「安心して、潔さん。俺はまだプロじゃないけど、素人相手に本気を出すなんて大人げない真似はしないし」
    「へえ。じゃあ、見せてみろ。こんなヘボい国で持て囃された自称天才くんとやら」
     戦闘開始(マッチアップ)。吉良の先制。鋭いカットで冴の裏をかいて、ゴールへと距離を詰める。吉良のプレーは確かに高校生とは思えない技巧的な動きである。だが――――所詮はやはり同年代よりも多少上手な程度でしかない。
    「ぬりいんだよ」
     抜いたと思ったのが真隣に接近していて、ボールをカットされた。一瞬で殺すような冴の動きに完全に虚を突かれた吉良は息を呑む。
     吉良からボールを奪った冴は、マイボールにせず、吉良に返した。
     冴の挑発に、吉良は頭に血を登らせた。
    「この……なめるな」
     二度目の吉良のボール。素早く、絶妙なタッチで冴の視界を翻弄し、旋回しながら抜いて見せた――――が、またしてもシュートコースの位置を冴が塞ぐように立ち回った。吉良の動きを、性能を、冴は完全に見抜いている。
    「この程度の性能でサッカー界の宝なんざ、この国は完全に終わってんな」
     反応が遅れた隙をついて、吉良からボールを奪う。吉良が反転した時には既にセンターラインからペナルティエリアに到達しており、その位置のまま左足を大きく振りかぶった。ライン際からの長距離蹴撃。美しい弧を描きながらボールはゴールへと吸い込まれるように入った。
    「な…はっ」
     吉良は動転を隠せないでいたが、最後まで冴にかじりついた。吉良のマイボールから始まった二回戦目、股抜きで抜こうとするが、無情な一動作でボールを蹴り出された。冴がボールを奪い、吉良は素早く防御態勢に入る。冴も同技を仕掛けた。吉良よりも高速の動き。吉良の目と反応を狂わせて軽やかに抜いてみせる。またしても中距離蹴撃が決まった。
    「くそっ、くそっ、くっそ」
     爽やかな相好が崩れ、憎悪にも似た表情で冴に食らいつくも、簡単に抜かれ、ゴールを決められる。吉良の完全敗北にして、冴の圧倒的勝利で幕を閉じた。
    「冴」
     対決をずっと傍観していた世一が吉良と冴のところまで駆けだす。
    「潔、さん…」
     自分を心配してくれるのだと、縋るように世一に手を伸ばす。世一は吉良の脇を通り過ぎていき、吉良の手は宙に浮いたまま行き場を失った。世一は全く汗をかいていない冴に一直線に向かった。
    「ずりいよもしかして、私の時はずっと手を抜いてたのかよ」
    「当たり前だろ。お前が俺の相手になれるわけねえだろ」
    「な…言ったな?」
    「あ?」
    「じゃあ私が勝ったら前言撤回しろよ」
    「お前が勝てたらな。『泣き虫世っちゃん』」
    「やめろよそれ」
     二人でいきなり盛り上がって1on1が始まった。心と膝が折れて地面に這いつくばる吉良の存在を無視して。完全に二人の世界が始まっていて、吉良は眼中から外れている。この状況に一番困惑したのは吉良である。
     え、えええええええええ……。吉良は声なき声を上げた。
     冴にしてみたら、今の世一はまだ弱い。世界には程遠いレベルだ。冴が評価しているのは視野の広さとサッカーIQである。もしその才能を伸ばせる指導者か、環境か、それらが揃っていたなら、世一は世界一に近づけたであろう。生まれる国を間違えたのだ。世一も。自分も。
     何度も冴に抜かれて負けても、悔しいと吠えながらも、世一は顔をきらきらさせている。心からサッカーが好きだと全身で表現している。その姿が、冴の心を躍らせる。叶えるべき夢を叶わぬ夢だと決めつける前の、平和だった頃の……一番サッカーが楽しかった時の自分に戻れる。
    「はあ。邪魔」
     いい加減鬱陶しくなって、マスクとグラサンを外した。ピッチの外に追いやられていた吉良が冴の顔を見て、目玉が飛び出すぐらいに瞠目した。
     そこでようやく自分が相手にしていたのが、日本の至宝と呼ばれる天才であることを知った。格下だと決めつけていた世一が彼とサッカーをしている状況に愕然とした。
     吉良が耐えきれずに逃げ出した後も、冴と世一の1on1はずっと続いた。
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