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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    現代転生⬜️🐜(⬜️記憶なし)の見守る側の人たち👀👅🟥

    #死瘴

    幸せに名前なんてなかったから5 麗らかな日曜日。晴天に恵まれた庭で、タオルを広げる瘴奸の背を、貞宗は静かに見つめていた。四人分の洗濯物は青空の下で風に揺れている。瘴奸は空になった籠を持つと居間へと戻ってきた。
    「新三郎殿、夕方に取り込みをお願いします」
     呼ばれた新三郎は、半分目を閉じてトーストをかじっていた。少し前に常興に叩き起こされたばかりで、まだ眠気が抜けていないらしい。
     休日の朝、誰よりも早く物音を立てていたのは瘴奸だった。洗濯機の音が止むころには、もう掃除機の低い唸り声が居間に響いていた。家事はそれぞれに分担されているが、新三郎は雑用や頼まれ仕事をこなしている。もっとも、それをよくサボっては常興から叱られていた。
     洗濯籠を抱えて居間を横切る瘴奸の横顔を、貞宗は目で追った。いつもと何かが違う。違和感の正体を探るように目を凝らすが、それはすぐには掴めなかった。
     少し前、突然現れた死蝋に心をかき乱された瘴奸は、言葉数も減り、考え込むことが多くなっていた。前世での記憶を持つ者は多かれ少なかれ、その記憶について問題を抱えるが、瘴奸の場合はそれが顕著であった。
     ところがここ数日、瘴奸の様子が変わった。どこか落ち着かない様子で、出かける回数も増えている。
     すると瘴奸が上着を羽織って居間に姿を見せた。
    「貞宗さん、今日は外で食べてくるので、夕食は結構です」
     食事担当は貞宗と常興であるため、食事がいらないときは報告することになっている。だが、瘴奸が外で食事を済ませるというのは珍しいことだった。
    「そうか。帰りは遅くなるのか?」
    「いえ、さほどでは……ないと思います」
     視線を泳がせながらそう答えた瘴奸は、そそくさと玄関へ向かった。彼の足音が遠ざかってから、貞宗は新三郎に目を向けた。
    「何かあると思わんか」
     新三郎は唇についたパン屑を舌で舐め取り、わざとらしく一拍置いてから頷いた。その顔には、皮肉と諦めが入り混じっている。
    「どうせまた顔だけで選んだ奴を引っ掛けたんでしょう」
    「それとは少し様子が違うように思うのだが」
     瘴奸が誰かと関係を持った話は何度か耳にしたことがあるが、そういうときの彼は、靴音ひとつにも苛立ちが滲んでいた。今日はむしろ、平静を装っているように見える。
    「……尾けますか?」
     突然目を覚ましたように言った新三郎に、貞宗は少し迷ってから頷いた。プライベートには踏み込みたくないが、ここしばらくの瘴奸の不安定さを考えれば、目を離すべきではないと判断した。
    「問題がないとわかればその場で離れてよい。カードは好きに使えい」
     新三郎は即答すると、貞宗からカードを受け取って大急ぎで着替えに行った。これが雑用係たる彼の役割に含まれるかどうかはともかく、新三郎は機敏で、要領も良い。
     貞宗は手の中の湯呑みに視線を落とした。今日は夜まで晴れるという予報だった。何事もなければいい。そう思いながら吐いた息は、静かに裏切られることになる。

    夕方、帰宅した新三郎は明らかに機嫌を損ねていた。洗濯物を畳んでいた貞宗は手を止め、新三郎の表情に目をやる。彼は貞宗の前に正座し、頭を下げた。その動作はまるで前世の武士のようで、何かあったのだとすぐに悟らせた。
    「瘴奸は死蝋と会っていました」
     新三郎は順を追って見てきたことを話し始めた。
     瘴奸は駅で死蝋と落ち合い、そのまま映画館へ向かった。観たのは流行りのアクション映画。その後、定食屋で昼食をとり、街をぶらついてから、とあるマンションに入っていったという。
    「問題があるのか?」
     休日に遊ぶ友人同士としての行動として見ることもできる。しかし新三郎は嫌そうに口元を歪めた。
    「二人がマンションに入って暫くしてから、瘴奸に電話をかけましたが、出ませんでした」
    「気付かなかった可能性もあるだろう」
    「何をしてて気付かなかったんでしょうね」
     確かに、普段の瘴奸であれば、貞宗たちからの連絡を無視するようなことはしない。だが、それを詮索するのは躊躇われた。
    「瘴奸が望んだ関係であるなら儂らが口を出すことではあるまい」
    「死蝋に記憶があるなら、俺だって何も言いません。でも覚えているのが瘴奸だけなら、遅かれ早かれ、関係は壊れますよ」
    「それも、やってみなければわからぬだろう」
    「だったら、どうして俺に様子を見てこいなんて言ってんです。またあいつが塞ぎ込むようなことを避けるためじゃないんですか」
     新三郎の言葉に、貞宗は目を閉じ、深く息をついた。言い返せないのは、彼の指摘が的を射ていたからだ。瘴奸の精神的な不安定さが何より気がかりだった。
     貞宗の視線は、居間の棚へ向かう。救急箱の横に並ぶ幾つもの処方薬。瘴奸は定期的に通院し、服薬も欠かしていない。そうして、ようやくこの時代を生きている。
    「とにかく、瘴奸と死蝋を」
     新三郎の言葉を遮るように、スマートフォンの着信音が鳴った。新三郎がポケットから取り出して画面を見る。表示されていたのは瘴奸からの着信だった。不在着信に気づいて、折り返してきたのだろう。
    「もしもし」
     新三郎はわざと大きな声で応答する。貞宗には電話越しの瘴奸の声は聞こえないが、新三郎は注意深く声色に耳を澄ませていた。
    「いやあ、何時に帰ってくるかなって思って。今夜のロードショーを貞宗さんが観ようって言ってたから」
     新三郎はちらりと貞宗に視線を送る。これは瘴奸の様子を探るための嘘であり、それを黙認してくれという無言の合図だった。
     しばらくの沈黙のあと、新三郎は口元を歪めた。
    「……あっそ。じゃあいいけどさ。どこの誰か知らないけど、どうせ長続きしないんだろ」
     そう吐き捨てて通話を切ると、新三郎は顔をしかめた。
    「確定でしょ、これ。声、かすれてましたよ」
     みなまで言うなと貞宗は手を上げて制したが、新三郎は鬱憤を晴らすように、小学生のような悪口をぶつぶつと並べ始めた。その姿は、まるで友達を取られた子供のようで、貞宗は思わず新三郎の頭に手を置き、優しく撫でた。
    「儂らは見守ってやればいい。ここへ帰ってくる気があるのだからな」
    「つまんねぇ」
     新三郎は頭を揺らされながら、ぶつぶつと呟いた。貞宗もまた、内心のざらついた不安を振り払えずにいた。
     そこへ、玄関の開く音がした。帰ってきたのは常興だった。常興は頭を撫でられている新三郎を見て狐目を見開いた。
    「何かありましたか」
     休日出勤を終えた常興に、貞宗はこれまでの経緯をかいつまんで説明した。話を聞き終えた常興は、呆れたようにため息をつく。
    「あいつは子供じゃないんですから、新三郎も貞宗さんも、干渉しすぎでは?」
     そう言いながら台所に向かい、冷蔵庫を開けると、缶ビールを取り出す。プシュと音を立てて開け、一気に飲み干す。握りつぶした缶を脇に置きながら、口元を手の甲で拭った。
    「あいつなりに、考えていることもあるでしょう。それより、寿司でも食べに行きませんか」
    「寿司?」
    「ええ。夕食はいらないって言われたんでしょう?だったら、たまには贅沢して、気分転換でも」
     その一言に、新三郎は途端に機嫌を直して喜んだ。常興はちらりと貞宗に目をやる。常興は貞宗の不安を感じ取ったらしい。
     貞宗は洗濯物を抱えて立ち上がり、常興の背に軽く手を置いた。その温もりが、ひどく頼もしく感じられた。
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