イマジナリーブラザー　目が痛い。うたたねから目覚めた椎菜が真っ先に思ったのはそのことだった。ネーム切るときくらい、ライトボックスから離れるべきだった。顔をくっつけて寝てしまったせいか、目の奥が熱く、鼻がぐずぐずする。嫌だな。睡眠不足にネーム提出が重なって、変なことで涙ぐんじゃったのかもしれない。どうしよう。いくら絵面がキレイだからといって、闇に落ちた妖精の剣で焔を刺しちゃうのは、やりすぎだったのかも。それとも私、自分で作ったキャラなのに、焔くんに感情移入しすぎかな。感情移入とは少し違うかもしれない。私が焔くんの気持ちになる、というより、私の理想のおにいさんのような。
　引っ込み思案で、そう明るい性格でもなかったから、ひとりで鉛筆にぎって絵を描く方向にいった。一枚絵を描くだけではもの足りず、お話をつけたくなった。このキャラクターがどれほどかっこいいか、かわいいか、はらただしいか。
　見ていてくれたような気がする。私が描いたキャラだけど、私より強く、私よりやさしい。そう、私は焔くんを描く前から、焔くんのことを知っていた。名前もない、妖精かどうかもわからない、私の中に確かにいた、私の大事なひと。
　焔くんが、その名前を持つ前から私を見ていてくれたのなら、私は焔くんを蘇らせることだってできるはず。
　椎菜は洗面所に向かう。
　さあ、顔を洗ってもう一仕事。焔くんをできるだけかっこよく見せる話を考えるんだ。いつも反目していた水の妖精が助けに来る、ってのはどうかな。それが終わったら、闇に落ちた妖精を救う方法を考えよう。このシリーズが無事に終えられたら、学園スピンオフも描いてみたいな。たとえば、闇に落ちた妖精がいきなり転校生として現れるみたいな。