泥濘の味 ここはエ・フランデミューズ学園の学生食堂。一本の缶コーヒーを、男子高校生を装った四人の夭聖たちが凝視している。
「ウツボのヌルヌル成分配合のコーヒー……ウツボ成分1%配合…」
蘭丸は心ここにあらずといった風に成分表を読み上げている。
「うちの学食、ここかどうかしてんじゃねえか?」
と焔。授業のサボり、かつせっかちな焔はもう昼食を済ませてしまったらしい。
「飲み物というのは飲めればよいというものでもないと思うが、これは冒険心に富みすぎるとでもいうべきか……」
冷やしたぬきを啜る合間にうるうが感想を述べる。
「うるうさあ、生徒会長の権力を使ってニンジンジュースとか青汁とか入れてよ」
樹果が自分のぶんのカレーうどんを席まで運んで来ながら言った。
「構わないが、それは共食い行為に値しないのか?」
「地味に幼稚園児扱いよりひどくない? それ」
「異種族間の交流は難しいな」
「難しいのはうるうくんの機嫌だよ……」
焔が樹果をチラリと見る。樹果が視線でそれに応える。
「クライアントを助けても、別に会社はどうにもならなかったんだね。まだ倒産もせずに続いてる」
蘭丸が呟く。
「いいじゃねえか。おれたちの仕事はクライアントの心をお助けすることで、会社を倒産させることじゃねえんだからよ」
焔の雑さは、ときにありがたい。
「繊細で有能な人間こそ傷つきやすいのさ。君のシンプルな頭脳が時々妬ましいよ」
いつものうるうの皮肉だ。
「ケンカするなら、これ買ってきて飲ますよ」
樹果が焔とうるうの間に割って入る。
「それは遠慮願いたい」
「そこだけはこいつと意見が合うな」
蘭丸は無言で缶コーヒーを引き寄せ、飲んだ。とっくに冷め切っていたコーヒーは苦く、泥水のような味がした。