☆シューティングスター☆真夏の夜の幻?!青木・井田・相多・橋下の4人は「今夜は流星群が凄い」というニュースを聞いて、レンタカーを借り、相多の運転で小高い丘に来ていた。
まだ明るさをほんの少しだけ保っている空を見上げて、青木が言った。
「ちょっと来るの早かったかなー。」
それを受けて相多が
「ダベってりゃ、すぐ暗くなるっしょ。楽しみだなー。」
と応えた。
4人とも車を降りたと同時に、いきなり眩しい光に照らされた。月や星の明るさの比ではない。更になんと、4人とも重力に逆らい、光の元へとふわふわ吸い寄せられていく!
「ぎゃああああ!何だこれ?!」
「オカルト話で出てくる、キャトルミューティレーションか?!」
「正確にはアブダクションだ。海外の牛のように内臓とか抜かれるのがキャトルミューティレーションで…それにならなければ良いが。」
「冷静に怖いこと言わないでー!!」
それぞれに地上に降りようと手足を懸命にバタつかせるが、吸い寄せられる力には敵いそうもない。
光の元に近付くに連れ眩しさは一段と増し、4人は目が眩んでいつの間にか気を失ってしまっていた…。
暫くして、4人は同時に目覚めた。
「ここ…何処だ?」
小高い丘ではあるが、流星群を見ようと来ていたあの丘とは、咲いている花や生えてる草が全然違う。当然のように車も無い。
「とりあえず、この丘を降りて人を探そう。」
井田が先頭を切って歩き出そうとすると、何故か体を動かしにくい事に気付く。
「井田、何だ?その格好。」
相多が聞いた。
言われてみれば何故か背中にはそこそこの重さのある剣を携え、服も変わっていた。
「お前の格好も、着てきた服じゃないよな…というか、他のみんなも…。」
「うわっ!本当だ!」
「えっ?!何この服??!」
全員が服に気を取られていると、目の前に突然砂嵐が吹き一瞬視界を遮られた。
砂嵐が晴れて元通りの景色になるとそこには…
「あれ、何だ?」
「動く…でっかい信玄餅?」
半透明の餅っぽいものがピョンピョン跳ねている。
「なんか気持ち悪い…生きてるの?」
「とりあえず様子を見てみよう。」
4人が相談していると、その信玄餅のようなものがいきなり井田に体当たりをしてきた。
「??!」
「井田、大丈夫か?!…ギャー!血ィィィィ!血が出てるー!!」
「大丈夫だ青木。不思議と痛みは無い。が、なんか少々体力が奪われたような感覚がある。」
「もしかしてこれ、ゲームのスライムみたいな感じの…つまり、敵?」
こういう時の相多の勘はよく働くようだ。
「え?でも戦い方なんて知らないよー!」
「井田、とりあえず背中に差してあるその剣、振るってみれば?」
「えっと…こうか?」
信玄餅には素早く避けられてしまった。
「いきなりは流石に当たらないか…。」
「ちょっと、あいつ、何か持ってねぇ?」
「この角度からじゃ見えないよあっくん。」
「こっちもー。」
「あれ盗ったら奴が消える…なんてこと無いかな?とりあえずやってみる。」
「はやとくん、気を付けてね。」
相多が素早く敵の持ち物を持ち去る…が、敵は消える事は無かった。
「この盗ったやつ、何だろ?説明みたいの書いてあるっぽいけど何語?読めねぇ…。」
「あっくん、見せてみて。」
「俺も読めないのに青木に読めるわけが…」
「回復…20%、傷を負っている者に飲ませよ。」
「へ?!」
「青木くん、読めるの?」
「うん…、読めるってよりは何でかスラスラ頭に入ってくる…。井田、ちょっと怖いけど…飲んでみる?」
「痛みは無いと言えど、仲間内に怪我人が居るのは不利だろ。試しに一口…」
「ちょっとでも違和感あったらすぐに吐き出せよ?」
青木が震えた手で渡す。
まずはほんの一口。口内で感触を確かめ、ゴクリと嚥下した。
「ど、どう?」
「味も匂いもこれといって特徴は無いな。刺激も無い。ミネラルウォーターでも飲んでる感じだ。」
「あれ、井田の傷、さっきより浅くなってね?」
「本当だ。」
恐る恐るながらも容器内の液体を飲み干すと、傷はすっかり塞がった。
「体力も戻ったみたいだ。」
「あっくん、まださっきの瓶、敵持ってそう?」
「いや、1個だけみたいだな。」
「それにしてもどうするか…。あいつを倒さないと、先に進めそうに無い。剣なんて振るった事すら無い未経験者に当てるのなんて無理難題だ…。」
「ごめんなさい…私、さっきから何の役にも立ってない。」
「みおちゃんが謝ること無いよ、目が覚めたらいきなりこんな状況で、敵?まで現れるしでさー。」
「うん、でも…。」
橋下の瞳から溢れた涙が手に落ちたかと思うと、手の上にポウッと光の球体が現れた。
「え?!なにこれ?!!」
「とりあえず敵に投げてみれば?」
「あっくんてきとー。」
「だって、やってみるしかなくね?」
「うん…はやとくん、私、頑張る!」
橋下は意を決して敵にその球体を投げ付けた。
敵は一瞬で凍り、粉砕した。
シン…と辺りが静まる。
「おー!みおちゃんすげー!!」
「勝ったの?これ…勝ったの?!やったー、はやとくん!!」
とりあえず一番近い街のような場所に着くまで、ほぼこの敵か、同レベル程度の強さの敵しか現れなかったのは幸いだ。だんだん井田の剣も当たるようになり、相多は時々回復率40%の瓶やら攻撃アイテムやらを盗めるようになった。本当に稀なのが難点だが…。
橋下の魔法のようなものは、涙が流れれば敵を氷結後粉砕、怒りに燃えると炎で焼き尽くす。とりあえず今使えるのはこの2つらしい。
街に入り、まずは休もうとホテルを探した。これからこの世界でのお金がどんなに必要になるか分からない。今後の相談も兼ねて、少しだけ広さのある部屋を4人で取った。
青木はぶつぶつ言いながら、何故か自分だけ読めるこの世界の文字で書かれた本に倣いながらすり鉢で薬草を練っている。
「へぇー、これとこれ混ぜると毒消しが出来るのか。」
「…それにしても、男なのにほぼ戦力外で回復薬とか戦闘時のみのスキルアップ薬作りとかさー…。」
「でもそれもとても大事な役割だ。戦闘の度に助かってるよ、ありがとう青木。」
「井田ぁ…💘(サクッ)」
「はいそこー、4人パーティっつーの忘れてません?」
「何でこんなに露出度高いのー?上着のボタンの意味ーーー!!」
何故か橋下の上着はボタンとボタンホールの大きさが合っておらず、羽織ることしか出来ない。とはいっても露出度は昨今のゲームとしては全然隠れている方だろう。
男性陣は気にも止めていなかった。
「だいたいさ、経験値配分がおかしいだろ。俺が魔法レベル上げても意味ないのにさー。それより防御固めてーんだけど。」
この世界では街に入る度に、入り口で門番から獲得した金額と各々のステータスの通信簿みたいなものが配られるようだ。
「あっくん、ごめん。もうこれ99個数溜まりそうだからなるべく次から他の、盗れない?」
どうやらどの道具も所持数が決まっていて、99個までが限度らしい。
「無理だよー。レアアイテムはなかなか出ないからレアなんだからさー。それに、同じ敵ばっかりと戦ってたら同じの溜まるの当たり前じゃん。もっと強い敵出る所でも行かないと…」
「強い…敵。。」
青木は青ざめながらゴクリと喉を鳴らした。
「それよりも服ー!!もしかして雪山とかもこの服のままなの?!」
「そういえば俺たち、どうやったら元の世界に戻れるんだろうな?」
井田の疑問に、場が静まり返る。
「んー、………。ラスボス倒したらじゃない?」
明らかに作り笑顔で相多が言った。
「まだ敵が弱小ってことは多分、序盤の序盤だ…ラスボス対戦なんていつになることやら…。」
更に場の空気が重苦しくなる。
「あ、あのさ、それよりも楽しい事考えねぇ?これからどんな街の人に出会うんだろう?とか、でっかい飛行船、乗れるようになるのかな?とかさ。」
「だよな。沈んでたって、事態が向上するわけじゃない。ありがとう、青木。」
「うん…。」
青木と井田は手を固く握り合った。
「ゴホッ、ゴッホン!!」
相多がわざとらしく咳払いをする。
パッと手を離し、赤面する青木と対照にムスッと不機嫌顔になる井田。
いつもの4人のようになった雰囲気に、ようやく場が和んだ。
「明日は手始めにまずこの街巡ってみようか。何かアイテムあったり、武器屋とか防具屋とかもあんのかな?」
「とりあえず今日は皆、突然のことで疲れてると思う。今夜はもう睡眠に充てて、明日また行動を考えよう。」
「そうだな。とにかく眠い。睡眠は大事だよなー。」
「そうだね。」
各々自分をなんとか納得させ、ベッドに入り込む。
不安はどうしても拭えないが4人とも体力消耗も心労も酷く、気付けばすっかり寝入っていた。
ようやく目が覚めた頃にはもう窓から眩しい光が差していた。
ホテルを出て、とりあえず街を巡る。そして、街で会う人会う人に片っ端から話しかけてみた。無言の人・街の名前しか答えてくれない人・質問を続けるとヒントをくれる人…いろいろ居る。
とりあえず一番大きい建物に住む、この街の長に聞けばいろいろ教えてくれるという情報をやっと手にして、4人は長の所へと向かった。
『街以外で休憩を取りたいときは道具屋で変えるテントが必要。全滅するとその前に寄った街のホテルかテントを設置した場所からやり直し。相多の魔法レベルが上がればレアを盗める確率も増える。アイテムは敵からだけではなく、街にも沢山ある。とりあえず見えた家や倉庫に入り、棚を開けたり壺を割ってみたりすると良い。』
有力情報はこれくらいか。
それ以降は長の武勇伝語りしか答えなくなってしまったため、4人は建物を出た。
「こういったゲームの仕様上、仕方ないのは分かるが…やっぱり他人の家に勝手に上がり込んで色々漁るのは心が痛むな。これは正義に反してないのか?」
「井田は相変わらず固いなー。そういうところは仕様で割り切っていくしか無いっしょ。」
心苦しいながらも『家』らしき所では珍しいアイテムが手に入る事も多く、井田もやっと割り切ることにしたようだった。
粗方探し尽くすと武器屋と防具屋に寄り、購入した新しい武器や装備に変える。
「井田…カッコいい。」
「最初に着ていたのよりは動きやすいな。」
「俺、「ホームズ」バージョンにすると敵のステータス見破れるんだってさ、凄くね?」
「なんか私、変わってないような気がするんだけど…」
「橋下さん、俺もだよ…。」
とりあえずこの街から一番近い街へはほぼ真っ直ぐ東へ向かうと良いと聞き、4人は門を出た。
「また信玄餅か。いい加減飽きたなこいつ。」
相多がぶつくさ言いながらアイテムを盗むが、もう99個溜まっている為に捨てるしかない。
「あー、せっかく盗ったのに。」
地面にポイッと投げると、アイテムは一瞬で消失した。
レアも持っていないと分かると井田が剣を振るい、一太刀で勝利した。このレベルに関してはもう手慣れたようだ。
更に東へ向かい暫く歩いていると、また目の前が砂嵐で覆われた。
「また信玄餅かー?」
砂嵐が晴れる。
「…………………?!?!」
皆、言葉が出なかった。
暫くの沈黙の後、青木がやっとのことで言葉を発する。
「ここで…このレベルの敵って出る…?」
「みおちゃんの魔法でも100発くらい当てないとムリなんじゃね?」
「その前に気力尽きちゃうよー。」
4人の目の前には、ジュラシッ○パークで見るような、身丈10メートルはあるであろう怪物が現れたのだ。
「俺の攻撃でも、あの筋肉の塊相手じゃ擦り傷程度しかダメージ与えられないだろうな…。到底今のレベルで倒せるとはとても…」
「あのさ、もしかして負けてストーリー進むパターン…とか?」
「え?戦いを放棄するのは…私、なんか納得出来ない。」
「みおちゃん、ここで御両親譲りの正義感は一旦捨てよっか…。」
「………!あのさあっくん、ここでこそ「ホームズ」じゃね?」
「ナイス青木!」
茶色が基調の帽子とマントを身に付け、敵を観察する。
「………、ダメだ。レベル違いすぎてると見破れないっぽい。」
「えー?ってか、レベルが違いすぎってことは、やっぱり負けゲー?」
「アイテムや魔法使いきってでも全力で倒すか、どうせ負けると思って端から諦めるか…なかなか究極に難しい選択だな。」
「勝ってもアイテムまたイチから集めんの?勘弁してよー。」
先ほどまで雄叫びを上げながら火を吹いていた怪物は4人の長話にとうとう痺れを切らせたらしく、ドシンドシンと地響きをさせて近寄ってきた。
そして、勢いよく振り返り、4人を尻尾で全体攻撃!!
『嗚呼、俺等…終わる。。』
3人とも諦めの表情になった途端、橋下の全体バリア&カウンターのビンタが突如飛び出した!
敵は一瞬で空の彼方へと消えていった…。
「すげえ…。」
「橋下さん、どうやってやったの?!」
「わ、分からないの。気が付いたら体が動いてて…」
「これ、お金も経験値も爆上がりじゃね?次の街で貰える通信簿楽しみだなー。」
「で、でもまたあの敵が現れたとき、同じ行動出来るかな?」
「なぁ、あれ、街じゃない?敵が現れる前にダッシュで向かおう!」
青木の言葉に皆走り出す…と、空から太陽とは別の光が現れた。
「この世界、太陽ふたつあんの?」
「いや、太陽の光と違って、自然の光ではない感じがしないか?」
「ってかこの光、見覚えがあるような…。」
「私たち、もしかして…」
橋下の言葉が合図だったように、また4人の体がふわりと浮いた。
「もしかして…戻れる?!」
「いや、楽観視するのはまだ早い。」
不安は過るものの吸い上げられる力に為す術も無く、また全員光の強さに目が眩み、気が遠退いた…。
4人同時に目が覚めた。
と、そこはもう全員見慣れた青木の部屋で…。
「あれ?私たち、いつの間にか寝ちゃってた?」
「なんか、とてつもなく変な夢見たな…。」
「俺も。なんかでっかい信玄餅みたいのが動いてて攻撃までしてくんの!」
「一撃で倒すようになった井田、サマになってたなー。」
「……………もしかして私たちって、、」
「同じ夢、見てた?」
「えええええ?!」
あまりの驚きに静まり返ると、点けられていたままのテレビからアナウンサーの声が殊更大きく聞こえた。
「今夜は流星群が見られる貴重な夜です。雲もスッキリ晴れて、よく見えるでしょう。」
「……………………。」
「りゅ、流星群は見たいけど…どうする?みんな。」
「いくらなんでも夢は夢だろ。」
「そ、そうだよねー。」
「行くにしても、不安要素は取り除いて行かないか?車では向かわず徒歩で、丘ではなく何処か広場みたいな所でも星は見えるだろ。」
「4人行動なんだしもっと深い時間になってから出掛けたり…服も着替える?」
「でも、橋下さんは…」
「俺が井田か青木の借りるから、みおちゃんは俺のシャツ着なよ。」
「ありがとう。はやとくん。」
星がよく見える暗さになってから、4人は出発した。暫く歩くと、4人は物静かな小さい公園に辿り着いた。周りに人工的な光りも無く、星が一段と綺麗に見える。
「うわぁ…。」
「すげーな、こんなの初めて見た。」
「来て良かった。」
「俺もだ。」
井田と青木、相多と橋下はお互いに自然と手を握り合い、星降る夜空をただただ見上げていた…。
暫く会話も無いままに時間も忘れ眺めていると、突如星空に似つかわしくない光源が現れた…!
「え?ヤバくね?!」
「えー?雰囲気台無しー!」
「とにかくまずは逃げねぇ?」
「逃げるっつっても、どこに?」
「家に戻ろう、ヤツも建物の中じゃ手も出せないだろ!」
井田と相多がそれぞれに青木と橋下の手を恋人繋ぎから共に走りやすい手のひら繋ぎにがっしりと繋ぎ直し、ダッシュで青木の家へ向かう。
「俺が引っ張っていくから、絶対に大丈夫だ!!」
井田と相多の声が揃う。
この手は絶対に離さない。例え、何があったとしても!手汗で滑りそうになる手を更に強く握りしめて、危機を感じつつも4人は幸せな気持ちで夜道を走り続けた。
━━━おわり━━━
◇◇◇あとがき◇◇◇
4人がRPGの世界に入り込んだら面白そうだなと思って書きました。敵はけっこう待ってくれる設定ですw