冷たい左手霊幻新隆の経営している霊とか相談所には、表向きはお手伝いの小学生である弟子が唯一の従業員としている。霊幻は出会った当初「茂夫くん」と呼んでいたが、「モブ」というあだ名があることを知ってからは、モブと呼んでいる。
モブは本物の超能力者だ。霊幻はモブでなければ除霊できない案件は、モブを電話で呼び出したり、モブを連れて出張したりして、日々を過ごしていた。
出会ってからはじめてのとある冬の日。その日は寒い寒い日だった。昨日の天気予報では雪が降るかも……なんてキャスターが言っていた。
ホンモノでない案件だったことと、調味市から少し離れた現場だったため、休日のモブを連れていくことを迷った霊幻は、本人にどうするか聞いてみた。すると行きたいと言ったため、その日はモブを連れて行くことにした。
霊幻としてもこの案件は手があればあるほど良いと思っていたため、モブの同行はとても助かった。
無事に半年に一回の蔵(掃除)除霊が完了し、これから調味市に戻ろうとしていた。
「結構冷え込むな……モブ寒くないか」
「はい。大丈夫です」
時刻は夕方に差し掛かり、寒さがより一層強まってきた頃だった。霊幻はモブの小さな手が寒さで真っ赤になっていることに気付いた。
「モブ、手赤くなってるぞ。手袋はどうした。いつも赤いの持ってなかったか?」
「持ってたんですけど、片方なくしてしまってこれしかないんです」
モブはモコモコしたダウンのポケットの中から、片方の手袋を出して見せてくれた。
「あぁ〜右手だけあるってことか……まぁ手袋は失くしやすいからなぁ。仕方ないよな。とりあえず右手に手袋つけとけ 」
霊幻はそう言って、モブに手袋をつけさせた。そしてほらとモブに右手を差し出してくる。
モブはその差し出された大きな右手に、手袋のない真っ赤になったままの左手を重ねた。
「あったかい……」
「だろ……?」
霊幻がニヤッとする。
「こんなに寒いのに、なんで師匠の手はあったかいんですか?」
「そりゃお前、俺くらいの力があるとこんなことも朝飯前な訳よ 」
「はぁ……そうなんですか 」
霊幻はモブの小さな左手がだんだんと温まってくるのを感じてホッとした。
「新隆さん、今日はほんと寒いですね 」
鼻を赤くしながら隣を歩くモブは、今やもう目線がほとんど霊幻と一緒になっていた。
コンビニに行こうと、二人は暖かいぬくぬくした部屋から出てきたところである。
すぐ近くだからとサッと準備をして出てきてしまった。今日は思いの外冷え込んでいて、暖かい部屋に慣れた身体にはより一層寒さが身にしみる。
「あぁ、ほんとに寒いな。手袋持ってくればよかったな 」
そう言って両手を擦り合わせて、息を吹きかける。
「新隆さん手が真っ赤ですよ 」
モブが霊幻の赤くなってしまった手を包み込む。
「あれ? お前の手あったかいな 」
「僕の手は、新隆さんの手を温めるためにあるんですよ 」
「お前……よくそんな恥ずかしいこと言えるな。どこで覚えてくるんだよ。ほんと……」
寒さのせいなのか、はたまたそうじゃないのか、霊幻は顔を赤くして小言を並べた。
モブは霊幻の冷たい手を包み込みながら、その左手の薬指にある光輝くモノを撫でて、存在を確認をして微笑んだ。
おわり