My little 川面はまるで浮かれた花畑のようだった。日除けのパラソルがすし詰めになって咲いている。水の中に根を張る花達は、これが絵本の中の話であれば密やかな囁き声を交わしていたのだろうが、実際は真逆だった。その可憐な姿からは思いもよらぬ力強い快活な呼び声をそれぞれに発して客を呼び込んでいた。まんまとそれに釣られた客が浮かぶ小舟に近づくと、傘の陰の中からぬっと浅黒い手が伸びて、指が何かしらのジェスチャーを取る。細い川を大きく跨ぐアーチ状の橋の上から、ドクターはその様子を物珍しそうに観察していた。地上も水上もそれなりに混んでいたが観光地特有のぎらぎらとした騒がしさは感じられない。市場は利用者の殆どが地元民で占められるローカルなものだ。いったいどこからそういった情報を仕入れて来るのか、ドクターを誘ってここまで連れてきたのはエリジウムだった。
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