Utopia,or the loss of sanity 大昔いつの代には、神様の眷属にするつもりで、神様の祭りの日に人を殺す風習があった。おそらくは最初は逃げてもすぐに捉まるように、その候補者の片目を潰し足を一本折っておいた。そうして非常にその人を優遇しかつ尊敬した。――引用:一つ目小僧その他 柳田国男
「その人に触らないでくれますか?」
龍門の街角にあるベンチ、そこに座っている人影は、精巧にできた人形のようだった。白磁の肌にひと目で上等とわかる炎国伝統の衣装、伸びた前髪が顔の半分を覆っており、目蓋は閉ざされている。たまたまベンチの前を通りかかった男は、惹かれるようにそれへと手を伸ばした。これは人形なのだろうか、それとも。
けれども指先が届くより前、背後から聞こえた声に肩を震わせる。三歩で男と並んだその声の主は、焦りとも怯えともつかない表情で固まっている男ににこりと微笑みかけた。しかしその鬱金色の瞳は欠片も笑っておらず、無慈悲に夜を統べる月を連想させる。男よりもずっと上背のある、龍族の男だった。
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