たとえ陽が落ちても陽が傾きかけていく。もう少しで薄暗くなるだろう。そしてそろそろこの場を去らなければならないのをフェニックスは残念に思っていた。いつも半ば押しかけ気味にここを訪れているが、マーヴェリックはいつも快く受け入れてくれた。それが嬉しくて、次もまた、と欲張るのだ。昼間よりも涼しい風が吹く。それがまた今日の別れを急かしているようで小憎たらしく思った。
「……そろそろ」
「帰るのかい?」
そういうマーヴェリックの顔も残念そうに見えるのは、そう思いたいだけだからだろうか。フェニックスは尚更帰りたくなくなった。押しかけるとはいえ、その機会はそうそう多くは無い。日が登りかけ、日が落ちる前までのその時しかいられない場合がほとんどだ。陽は完全に落ちかけ暗くなりつつある。自分を置いて勝手に沈んでいく太陽を、フェニックスは憎んだ。
「えぇ」
「泊まっていけばいいのに」
「それは無理でしょう。明日の朝じゃ間に合いません」
「これで送ってくよ?」
なんなら迎えに行くのもいい、そう言ってマーヴェリックが親指で指したのはマスタング。確かにそれだとここへ訪れるのも早いだろうし、戻るのも間に合うとは思う。でもそれをしたらまたマーヴェリックがペナルティを負う。それこそ無理だとフェニックスは笑った。
「そこまでしなくても大丈夫ですよ」
「そうかい?残念だ」
「本当にそう思ってます?」
それはフェニックスの心からの疑問であった。マーヴェリックはよく残念だ、と言うがそれは本心なのか、いつも迷うのだ。どうとればいいのかと。
「思っているよ。……何も君だけが会いたいと思ってるわけじゃない。僕だって同じだよ」
「……え」
「だから、もう少し」
気づいた時にはフェニックスはマーヴェリックの腕の中にいた。彼の心音が聞こえ、体温が伝わる。それがとても心地よく、安心できた。この思いが自分だけのものでは無いのなら、何も気にするものはない。
「……えぇ、もう少し」
陽は完全に落ち、空には星が瞬いていた。明日遅れてもいい。今はまだ、こうしていたいとフェニックスは目を閉じた。