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    シンヤノ

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    シンヤノ

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    Psyborg。まさかのまほ○くパロ(続きもの)
    ま○やくを知らなくても読める内容です。
    Not for meの場合静かに離脱をお願いします。
    ※熱が覚めなければ続きます。
    ※ま○やく本編の150年前設定。不明箇所は捏造しています。もし情報がどこかにあったらすみません。

    #PsyBorg

    「“…ですが、そこは世紀の大天才、稀代の知恵者ムル・ハート。男たちがえいやっと振りかぶった棍棒をひらりと避けて、逆さのまんま問いかけます。
    『以前、貴方は定義したのです。覚えていらっしゃいませんか』
    とんがり帽子が床に着く前にひょいと浮かせて地面に立つと、ゆっくりとこちらへ近づいてきます。
    小太りの男は尻餅をついたまま後退ります。覚えていないのかと言われても、脂汗が流れるばかりで何も思い当たらないのです。
    男の周りを囲っていた着飾った女たちは、いまや近寄るそぶりもありません。
    『そう怯えないで。俺は経過を観察しに来ただけです。それでは、なぞなぞを出しましょう』
    ムルは眉を下げながらそう言ったですが、男は震えるばかり。それもそのはず、どんなに優しげにして見せても、不敵で不遜な性根ばかりは隠しようがないのでした。
    『基本的に、それは目には見えません』『それは需要の高いものです』『時間があれば増えるもの。ただし貴方の定義ではですが』『よく形が変わります。ある1つを1人は是と言い、もう1人は否と言う』
    言いながら、ああ、何と言うことでしょう、ムルは一人、また一人と増えていき、ついには男の用意した用心棒と同じ数になったのです! 男も用心棒たちもびっくりぎょうてんして…“」

    敷布団の中に潜って暖かい胴に抱きつくと、読み聞かせていた声がぴたりと止まる。
    俺は怒ってるんだ。柔らかいブランケットの上からそんなふうに優しく頭を撫でられたって機嫌をとられたりしてやらないんだからね。
    「浮奇? やっぱり気に入らなかったか?」
    「……ふん」
    心地良い低音が揺らす胸にぐりぐり頭を擦り付ける。頭の上の方で紙の束を置く気配がして、ブランケットごと抱きしめられた。頭のてっぺんに尖った顎が当たってごつごつする。
    「浮奇〜、頼むよベイビー。説明してくれないと直しようがないじゃないか」
    弱りきった声が全身に響く。このむずむずする感じは嫌いじゃない。
    だけど、ふん、俺が不機嫌になることなんてわかってたくせに。新しいお話を書いたら1番に聞かせてってせがんだのは俺なんだけどさ。
    ぎゅっと抱き込まれると、布団の中に篭った熱にふーふーちゃんの体温と鼓動が加わって絆されてしまいそうになる。いけない、だって今俺は怒ってるんだから。
    ふん、ふん、と数回不機嫌をアピールしては宥めすかされ、ブランケット越しのつむじにキスをされたところで我慢できなくなって、もぞもぞと顔を出した。
    やあ、ベイビー、ご機嫌いかが? なんて言って心なしか嬉しそうにおでこにキスをしてくれるふーふーちゃんは、大概俺に甘すぎる。怒ったっていいのに。
    「……ラストの展開がトリッキーでワクワクしていいと思う。気になったのはさっきのとこかな。児童文学にしては問いかけが哲学的すぎない?」
    「なるほど、哲学的すぎるか。彼が出てきた時点で『意味深で凡人には理解不能なことを言わせたい』と思ってしまうからなあ」
    ニヤニヤ楽しそうにメモしちゃって。ふん。
    「大体それ、この間のスキャンダルをマイルドにして膨らませたやつでしょ。ムル・ハートを出した時点で東の国じゃ検閲に引っかかると思うけど?」
    「かの大天才だってそこまでじゃないさ! 保守的になりがちな東の王族だって、彼の素行はともかく研究の有用性自体は無視できないんだ。何せこの間の発明も首都の街灯に採用されて……」
    お気に入りの彼を悪く言ってやったのに大笑いして、それどころかファン魂に火をつけてしまったみたいだ。くそったれ。
    ムル・ハート、常に嵐を引き起こして、その一挙一動がエンターテインメントになる男!西の国に愛された世紀の智者!
    早口で語る彼の様子は無邪気な子供のようで可愛らしいけれど、いつまでも聴いていられると素直に言うには内容がとてもよろしくなかった。
    何が1000年に1人の天才だクソビッチ! 会ったこともないくせに、しょっちゅう新聞に顔を出して、ふーふーちゃんの視線と興味を奪い取っていく男。覚えてろ、もっと強い魔法が使えるようになったら真っ先に石にしてやるからな!
    こういうところが東の魔法使いらしくないって言われるんだろうな。

    ✳︎

    この世界には人間と、魔法使いがいる。
    魔法使いは職業ではなく、人間の中から偶発的に生まれる。
    1万人に1人の確率で生まれてくる変異体のようなもので、魔法が使えるだけでなく、人間より少しだけ頑丈だったり、不老長寿だったりする。

    ✳︎

    浮奇は魔法使いだ。1万分の1の確率のうちの1の方。
    生まれは人間が生きるには厳しすぎる北の国。雪に年中閉ざされる場所でただの人間たちが生きるには魔法使いの庇護を受けるのが1番手っ取り早く、浮奇が生まれた集落もそんなふうにして1人の魔法使いの元に人間が寄り集まってできていた。
    支配者の魔法使いはクズだったが、クズでも集落で最も強く、すなわちその集団のルールだった。浮奇は自分を産んだ親や兄弟、浮奇を使って反旗を翻そうとした人間たちが全て殺された後、そのクズの小間使いに志願することで生き延びた。
    やがて飽きられ中央の国のカルト教団に売られ、故あってファルガーの家に居候をしている。

    ふーふーちゃん−−ファルガー・オーヴィドは人間だ。1万分の1の確率のうちの9999の方。
    東の国の裕福な医者の家に生まれたが、支配的な親やルールだらけの窮屈な国に辟易して家を出た。流れ着いた西の国で下手を打ち、両手両足を失って死ぬところをムル・ハートが所長を務める魔道科学研究所に助けられた。
    ムル・ハートが人助けを? 実験台にされたの間違いじゃなくて?
    意地悪く聞けば、そうだろうな、あの人は実験台の名前なんていちいち覚えていないだろう、と愉快げにするのだから救えない。
    その上、魔法使いに懐疑的な東の国育ちの彼が浮奇を拾った理由の何割かはその経験に由来するのだから、全く腹の立つ天才である。
    今は研究協力を終え、定期的に体調の報告を入れながら、生まれ故郷の街の外れで本の修繕や翻訳を請け負い、時折売れない本を書いて暮らしている。




    浮奇とファルガーが出会ったのは、浮奇が17の頃。教団の地下牢をめちゃくちゃに破壊して、騒ぎに集まってきた中央の官吏に追い回されていた時のことだった。
    ゴミだめみたいな路地裏から這い出して、大通りの様子の見える物陰に隠れ、通り過ぎていく官吏たちを見送る。祭りでもあったのか片付け途中の屋台の木組があちこちに残っていて、隠れる場所には困らなかった。
    消費した魔力を一刻も早く回復しなければ。逃げている最中に手に入れたマナ石を片端から口の中に放り込む。そこに、敵意のない視線を感じて顔を上げた。
    驚いた顔でこちらを見つめる通行人がいた。
    銀の髪。金はかかっていないが生地のしっかりした上着と実用的な手袋。背に一人分と思われる大きな荷物を背負っていて、一眼で旅人だとわかる。色味の少ない身なりに左目の赤いタトゥーが目を引いた。
    大通りの死角になるこの場所に何の用があってきたのか、−−後で聞いたら本の構想のための取材の一環だったそうだ−−わざわざ物陰を覗き込み間抜け面を晒している。
    「……美味いのか?」
    第一声まで間抜けだったので、浮奇はつい警戒を忘れて吹き出した。
    「美味しいよ。綺麗なキャンディでしょ?」
    あーん。
    わざとたっぷり時間をかけて、最後のマナ石を舐めて見せる。別に味は美味しくないけれど。
    「……おにいさんも、欲しい?」
    釘付けになっている視線を意識しながらぺろりと舌で唇を濡らし、上目遣いで見上げてやると、男は赤面した。
    「いや、俺は……」
    「いらないの? 残念」
    返答を遮ってごくりと飲み込む。元からあげるつもりもない。
    浮奇は立ち上がって服の埃を払った。思った通り、男はいい衝立になった。細く見えるのに、案外上背がある。
    目線が近づけば髪や顔、手袋の先に埃がついていないことが分かった。水の使える宿から出てきた証拠だ。しめた。
    「おにいさん、街から外に出るところ?
    俺、街の外に住んでいるおじさんの家に行かなきゃいけないんだけど、さっき怖い人に殴られてお金を取られちゃったんだ。よかったら、送ってくれない? おじさんの家に着けばかかったお金は返せるからさ。おにいさんみたいな頼りになりそうな人が一緒に来てくれたら、怖くないんだけど」
    俺にできることなら、どんなお礼でもするから。ね?
    教団の信者たちやら官吏やらとやりあってできた傷をさすり、栄養不足で年齢より細くみえる白い脚に注目させる。目に涙を溜めて不安そうに縋るかわいそうな少年が、まさか相手を数十倍の暴力で叩きのめしたばかりだなんて想像もできないだろう。
    男は目を瞑り、スーーッと長く息を吐いた。
    「あーー、強盗なら官吏に……と言いたいところだが、さっきから官吏も忙しそうにしているな。1人で行かせるのも心配だし、あーー、うん。いいよ。おいで」
    「ありがとう、嬉しい!」
    無邪気な少年を演出しながら、浮奇は内心ほくそ笑んだ。ちょろい人間が見つかってよかった。このまま隠れ蓑にさせてもらって、人気のない所まできたら適当に脅して金と食料を奪ってやろう。
    大丈夫、このまま優しくしてくれれば殺すまではしないよ。
    にっこり笑う浮奇をわかりやすく意識しながら顔ごと視線を逸らす男−−この時のファルガーは、誰の目から見ても利用しやすい男だった。

    乗合馬車の中は、発着駅の手前で売られていた号外新聞の話題で持ちきりだった。
    ファルガーも購入した新聞に顔を近づけて熱心に読みこんでいる。なんて書いてあるのと問えば、路地裏に突如発生した小規模な地盤陥没事件を伝えるものだと教えてくれた。
    「魔法使いの関与が疑われる、だそうだ。怖いな」
    「ふぅん……」
    「本当にねえ! 悪い魔法使いが入り込んだんじゃないといいけど」
    「そういやあの賢者の魔法使いたちは何かしてくれないのかね。丁度パレードをしたばかりだろ、まだ街ん中にいるんじゃないのかい」
    「さあ、聞かないねえ。“大いなる厄災”との戦いだって終わって暇してんなら、ちょっとくらい手伝ってくれても良さそうなもんだけど」
    「まあ、魔法使いだからなあ。賢者様がいるとはいえ、働かせるのは骨なんじゃないかね」
    「違いねえや。でもきっと大丈夫さ。聖ファウスト様のお膝元で悪さをしたってんなら、すぐに天罰が下るとも」
    乗り合わせた人間たちが口々に言うのを聞きながら、浮奇は抱えた膝で隠した口元を皮肉げに歪めた。
    その聖なんたら様は、子供の魔法使いたちを飼って洗脳して利用しようとしてた人間たちには罰を下してくれないのかな?
    ひょっとして、破片みたいなマナ石に紛れ込んでた極上品がその聖人様のプレゼントだったりして。だとしたら、それを飲み込んで手に入れた魔力であの教団をぶっ壊した俺の行いは正しいってことになるね。
    思わずにやついてしまった浮奇は、ファルガーの視線に気づいて慌てて表情を繕った。しまった、気づかれたかな。

    「浮奇のおじさんの家は、駅から東に行った先だったよな」
    「そうそう。おにいさんは東の国に帰るんだよね? まだしばらく一緒に歩けるね」
    「分かれ道はこっちで合っているのか? この先は森しかないと思ったが」
    「うんうん、森の奥なんだ」
    乗合馬車を降りて、立て替えてもらった馬車代の支払いとお礼を理由に人のいない方へと誘導していく。
    もう少し。完全に助けを呼べない距離まで他の人間たちと離れたら、そこが狩場だ。
    「こんな山奥に1人で住んでいるってことは、おじさんは木こりでもしているのか?」
    「そうそう、1人でいるのが性に合うんだって」
    「大変だな。こんなとこじゃ、何かあった時に頼れる人もいないだろう」
    「うんうん、いつもぼやいてるよ」
    「ご両親も心配して浮奇を手伝いに寄越してるんだろうな。お駄賃ぐらいは貰えているのか?」
    「まあね。街の外に行けるのも楽しいし」
    「お小遣い? それとも手軽に甘めのエルダーフラワーシロップ?」
    「両方! 甘いのも好きだけどね」
    頭上の木の葉が正午に近い青空を隠し、あたりが影になっていく。薄暗くなるにつれ、ファルガーの口数が減っていった。
    1つ話題を振れば10は返してくれるおしゃべりなところが楽でやりやすいと思っていたのに、どうしたんだろう。機嫌を損ねたようなそぶりはなかった。欲望の気配もしないけど。
    「……なあ。恐らくこれは君にとって、恐ろしい提案だろうと思うんだが」
    やがて落ち葉と小石を踏む音しかしない時間に気まずさを感じ始めた頃、ファルガーが切り出した。
    浮奇より少し先を歩いて、前を向いたまま表情は見えない。ただ、硬い気配と迷い、慎重さが伝わってきた。なんだ?
    「誓って君に悪いようにはしない。本当のことを話してくれないか」
    浮奇は可愛い少年の微笑みを貼り付けたまま答えた。
    「本当のことって?」
    ファルガーは歩く速度を緩めず続ける。
    「この辺りに一人暮らしの木こりはいないよ。東の国との国境だから、余計な摩擦を生まないように国が管理をしているんだ。森の手入れをするにしてもまず1人では行動しない。エルダーフラワーシロップはここいらじゃ高級品だ。材料のガロン瓜が中央の国では採れないからな。よほどの金持ちでなければ子供の駄賃にはしないだろう。それに、この先は森じゃない」
    先を行くファルガーが道を遮る低い枝を手で除けると、急に視界がひらけた。平された地面。ずっと奥に高い壁。堀に掛かる橋。小さく見える見張りの騎士。関所だ。しまった!
    「待ってくれ!」
    ファルガーが振り返りかけたと同時にその右腕を強く引く。間髪入れずに逆の手で首を掴もうとしたが、もう片方の腕で阻まれた。でも、掴んでしまえば同じことだ。
    身体強化の魔法をかけてファルガーの両手首を締め上げる。使い込まれた手袋の下から骨の軋む鈍い音がした。
    「待ってくれ、話をしよう。君は魔法使いだろう」
    「だったら? 大声を出したら殺すよ」
    ギリギリと捻じ切るくらいの気持ちで力を加えているのに、男は涼しい顔で問いを続ける。
    「騒ぎになっていた陥没事件との関わりはあるか?」
    「分かってるくせに。あるに決まってるでしょ」
    「何か事情があったのなら話してほしい」
    「事情? そんなの……」
    事情? 事情だって?
    魔法使いは、人間に恐れられる存在だ。恐れられるし嫌悪される。差別の対象になるし利用される。見た目が人間だから、人間のふりをしてにこにこしていれば優しくしてもらえるけれど、魔法使いと分かれば途端に態度を翻す。
    その魔法使いに事情を話せだって?
    北の国で十数年、中央の国の地下で数年。魔法使いとして生きてきた場所でそんなことを聞いてくる奴はいなかった。誰だって魔法使いの言葉に耳を傾けたりしない。魔法使いは性悪で、怠け者で尊大で嘘つきで。
    気勢を削がれた浮奇に、ファルガーは畳み掛けた。
    「君の足首には擦れたような跡があった。まるで足枷をつけられていたような。ほぼ同じ場所に塞がった傷跡のようなものもあったな。色素が沈着するのは同じ箇所を何度も傷つけたか、処置が不適切だった時に起こる。それからその肌の色。いくらなんでも白すぎる。何年も光を浴びていないんじゃないかと思えるほどだ。細かい傷を治していないのは魔力を消耗しているからだろう? 中央の国は魔法使いを差別しないと公言しているが、政府の方針が全ての人民の心とイコールになるとは限らない。新聞の瓦礫の写真の中には壊れた鉄格子に見える箇所もあった。君は、あそこに幽閉されていたんじゃないのか」
    「…………」
    浮奇は何の言葉も思いつかず、迷った末に小さくこくりと頷いた。
    ファルガーが表情を和らげる。両腕を掴まれたままだと言うのに、わざわざ屈んで視線を合わせてくる。低い声が穏やかに語りかける。
    「人間の言うことは信じられないかもしれないが、俺に君に対する敵意はない。頭の中を覗く魔法が使えるなら覗いてくれていい。魔法使いに助けられたことがあるんだ」
    何だこのおかしな人間は。無意識に紡いだ魔法が彼の言葉に矛盾がないことを告げてくる。薄い色の瞳の優しさが浮奇を困惑させる。
    「なに、言ってるの……。何が言いたいの」
    「ここで俺の身包みを剥ぐより、もっと有益なものを俺は君に提供できると思わないか」
    「有益なものって?」
    自信満々に告げる男のペースに飲まれていく。締め上げていた手の力はいつの間にか抜けていた。
    「そうだな、まずは安全に関所を抜ける手伝い。その先の東の国の道案内。道中の名物料理の紹介。それからゆっくり眠れる寝床」
    「……代わりに何が欲しいの」
    「何も?」
    「そんなわけないだろ」
    「そうか。じゃあ、寂しい一人旅の話し相手になってくれないか。食糧の調達や野宿の準備も手伝ってくれるとありがたいな。期間はそうだな、君のその足の跡が治るまででどうだ? 契約を更新、もしくは終了したくなったらその都度話し合おう」
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