信頼の形キャラ界。それは地獄にある修行プログラムのひとつで、その人物の中へと入り、基礎の能力を上げるという場所だ。
プリニー教育係であり、政拳奪取を目指すヴァルバトーゼとその一行。
目的を成すために更なる力を求める彼らは、現在キャラ界へと潜っていた。
そこはブロックが積み上げられ、そのブロックを崩しながら進んでいくというものでもあった。進んでいくと、たまに“心の保守派”というものが現れる。
保守派は潜っている人物と同じ見た目の者。
現在潜っているのはヴァルバトーゼのキャラ界。つまりは、保守派の見た目はヴァルバトーゼそのものなのだ。
向かってくる保守派に、フーカが苦戦していた。
(うぅ、やり辛い…!)
何度かキャラ界に潜ってはいるが、フーカは未だに保守派というものが苦手だ。
これまでまともに戦ったことはないのだが、今回は彼女の目の前に降りてきたために相手せざるを得なくなった。
防戦一方。そこに出来た一瞬の隙に、フーカの武器が弾かれる。
「あ…!」
やられる。
そう思って目を瞑ったが、代わりに聞こえてきたのはグシャッという何かが潰れる音。
来ない衝撃を不思議に思い目を開けると、目の前に見えたのは長い銀髪。
もうすでに保守派は消えていた。同時に鋭い真鍮の目に睨まれる。
「何ボーッとしてやがる、小娘!別にお前が死のうが構わんが、この場所で死ぬのは許さんぞ」
「う、うるさいわね!…保守派、フェンリっちがやっちゃったの?」
「だったらなんだ。お前が突っ立ってるのが悪い」
「…やり辛くないの?」
「あ?」
「だって、見た目はあんたの主でしょ!?」
そう訴えるフーカに、フェンリッヒはため息を返す。
「…はぁ。お前、救いようのないアホだな」
「なによ!?」
「ヴァル様の見た目だからやりにくいと?ふざけるなよ。
─我が主が、こんなに弱いワケあるか」
「……!」
「実力もなにもない、ただ見た目を似せることしか出来ないクズに我が主の姿を取られてイライラするんだよ。所詮紛い物は紛い物。お前もつまらん感情はとっとと捨てるんだな」
優しさかイラつき故か、フェンリッヒはいつもより喋ると颯爽と敵に向かっていく。
フーカは少しの間止まって、「ただアタシにムカついただけよね」と、よく喋ったのは優しさではないと決定付け、呆れるように鼻で笑った。
「フーカさん!大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、アルティナちゃん。アタシ、ちょっとデスコの所手伝って来るわね!」
「はい、お気を付けて」
吹っ切れたようにバットを握り直すと、フーカは少し遠くに見える妹の援護に向かうべく、力強く地面を蹴った。
「よし、ご苦労だったな。では休憩にしよう」
キャラ界を無事に潜り終わり、拠点に帰ってくるとヴァルバトーゼがそう言った。
疲れた仲間たちは散開していく。
「ねぇ、ヴァルっち」
「ん、どうした小娘」
「キャラ界に保守派っているじゃん?姿がフェンリっちの時とか、やり辛いなぁって思うことある?」
「小娘…」
その質問に怒りを含んだ声でフェンリッヒが口を挟もうとするが、それをヴァルバトーゼが制す。
「下らぬ質問だな、小娘よ。それが敵ならば倒すべきだ。それにな、
─我がシモベはあのように弱くない」
得意気にそう言ったセリフに、フーカが堪えきれない笑いを漏らした。
「なんだ?何が可笑しい?」
「ふ、ふふ…いや、なんでもないわ。ただやっぱりさ、アンタたちって似てるわね」
「む…?」
「それだけ。じゃ、また後でね」
不思議そうな顔をするヴァルバトーゼを横目に、フーカと後ろからついてきたデスコはその場を去る。
残されたヴァルバトーゼは、隣にいるシモベを見上げた。
「何があったと言うのだ?」
「…さぁ。ただ、あんな小娘に知った顔をされるのは心底腹が立ちますよ」
去っていく少女の背に舌打ちと不機嫌な視線を浴びせながら、人狼は吐き捨てるようにそう言ったのだった。