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    ことざき

    @KotozakiKaname

    GW:TのK暁に今は夢中。
    Xと支部に生息しています。

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    ことざき

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    独占欲について。K暁。とんちき?

    #K暁

    穴があったら入りたい 指先が触れたのは、隣に座る彼の手の甲だった。
     肌理は年齢相応に荒くかさついていて、暁人が何気なく指をすべらせると、人肌特有の滑らかさとともに、はっきりとしたざらつきを感じた。力をこめるとわずかにへこむ皮膚は分厚く硬い。熱い緑茶の入った湯呑みを平然とわしづかみにしていた彼の姿を思いだし、なるほどこの樹皮のように厚い皮膚があるから平気だったのかと、改めて深く納得した。
     新たな発見にすっかり気を良くした暁人は、血管が浮いた手の甲をさらに先へとたどり、がっしりとした太い指を撫でた。彼がこなしてきた力仕事の数々を思わせる、ごつごつと存在感のある関節の山をふたつ越え、真冬でもないのにちくちくと目立つ逆剥けを通りすぎれば、これまでとは違うつるりとした感触に行き当たった。爪だ。しかし、やはりそこも完全に滑らかとはいえず、わずかなでこぼこを指先に感じた。
     暁人は指先での探検を終わらせると、てのひらを大きく広げ、彼の指を四本まとめて握りこんだ。ほどよく暖かな室温にもかかわらず、てのひら全体で感じる彼の指先は、ひんやりと冷たかった。
     そんなふう感じるのは、自分の体温が高いからだろうか。それとも、実際に彼の手の温度が低いからだろうか。握る力を強めたり弱めたりしながら暁人は考えた。
     そういえば、彼はこの冬に「指の感覚がねえ」とよくぼやいていたのだった。しかし、手袋をすすめてみても、「動きが制限されるのが好きじゃねえ」と返されるばかりで、まともに取りあってもらえなかった。プレゼントすることも考えたものの、彼がこんな調子ではタンスに仕舞いこまれることが目に見えている。数日悩んだすえ、暁人は結局、クリスマスプレゼントの候補から手袋を外した。しかし、梅雨入りが間近に迫った今になっても、まだこれだけ指先が冷たいのであれば、着けてもらえないことを覚悟で贈ってしまったほうが良かったかもしれない。
     まだひんやりとしたままの彼の指をぎゅうぎゅうと握りしめながら、暁人はふうと小さなため息を吐いた。
     数年前から彼を知るチームの皆によれば、どうやら彼が吸う煙草の本数は、あの夜以前に比べてかなり減っているらしい。全員が口を揃えて言うのだから、相当な減煙なのだろう。が、だからと言って、彼が二十数年間にわたって煙草を吸いつづけてきた事実までもが消えることはない。
     彼の生きてきた年月が彼の皮膚を厚く硬くしているように、彼の肺や血管には、きっと彼がこれまで吸ってきた煙草の煙がしみついている。文字通りに一度死んでふたたび生き返った今でも、彼の身体には、彼のこれまでの生き様が、まさに年輪のごとく刻まれているのだ。
     そう。今、暁人の隣には彼がいた。あの夜に出会ったときにはすでに死んでいた彼が、あの夜を越えた今を生きていた。彼がこれまで生きてきた証を携えて。今ここに。手と手が触れあうほどの距離で。
     もう一度、今度は肺の空気すべてをゆっくりと吐きだした暁人は、改めて彼の手を意識した。
     大きくて武骨で冷たく、あまり触り心地の良くない彼の手は、けれど、これ以上ないほどしっくりと暁人のてのひらに馴染んでいた。少なくとも、暁人にはそう思えた。
     自然と頬がゆるみ、口角があがった。彼の指を握る手に少しずつ力がこもってゆく。暁人はふわふわと夢見心地のまま、好きだなあとつぶいた。
     彼の健康面はもちろん心配だったが、こうして心配できることが嬉しかった。それに、これまでの生活で彼の身体ができているのであれば、同じように、これからの生活で彼の身体を整えてゆくこともできるはずなのだ。その一端を暁人は担いたかった。せっかく家事とバイトで培った料理スキルがあるのだから、活かさない手はない。
     彼の身体を、これからは暁人が作っていくのだ。彼と一緒に。二人で。

    ――暁人くんは大胆だねえ。素面のときでも、このくらい積極的になってほしいもんだ。

     暁人の右の耳元でくつくつと喉を鳴らす音がした。握りしめている指を通して、暁人のてのひらにも、ささやかな振動が伝わってくる。満足した猫のゴロゴロ音にも引けを取らない、鼓膜をふるわせる楽しげな低音だった。
     彼が機嫌良く笑っていると、暁人の胸には小さな火が灯る。耳にするだけで胸が温かくなる彼の笑い声が、暁人は大好きだった。

    「おう。熱烈な告白をありがとよ。それを素面のときにもぜひ言ってくれ」

     先ほどよりもはっきりとした声を耳に流しこまれて、暁人はぱっと目を見開いた。その瞬間、視界に飛びこんできたのは、肉が大盛りになった何枚もの小皿だった。肉の焼ける香ばしい匂いと、甘辛いタレの匂い。そして、かすかな煙草のにおい。視界がわずかに白んでいるのは、テーブル中央から立ちのぼる煙によるものだ。そこからコンマ数秒遅れて、じゅうじゅうと熱された脂の弾ける音と、大小高低様々な人のざわめきを暁人は認識した。
     ……ざわめき? 人の?
     暁人の酔いは、そこでいっきに醒めた。いつの間にかKKの肩にのせていた頭を起こし、呆然と周囲を見渡す。勢いのあまり彼の頬に頭突きを食らわせてしまったが、それを気にかけるだけの余裕はなかった。
    「え、え?」 
    「あ、やっと起きた」
     テーブルを挟んで正面に座っている麻里が、弾んだ声をあげた。面白がるような声音から想像できるとおり、彼女の目は三日月の形に細められている。
    「え、は? 麻里?」
    「お兄ちゃんってば、ホントにKKさんが好きなんだねえ」
     状況を把握できずにいる暁人の言葉など、麻里はまったく聞いていない。
     そんな彼女の隣では、顔を赤くした絵梨佳が居心地悪そうにもじもじしていた。うつむきがちな顔からちらちらと寄越される視線は、暁人とKKのあいだを忙しなく往復している。
     麻里の言葉と笑い声、そして、絵梨佳の表情と視線。じわじわと状況を理解するにつれ、居たたまれなさもまた急加速して、暁人の全身に激しく火がついた。頬が焼けるように熱い。今まさに網の上で焦げつきはじめているカルビ肉にでもなったような心地で、暁人は肩を縮こまらせながらうつむいた。
     そこに、落ち着いた女性の声がかけられた。
    「起きたならちょうどいい。暁人くん、貴方タンは食べる? 食べるなら貴方の分も注文するけど」
     絵梨佳のさらに隣に座り、手にしたデジタルメニューに目を落としている凛子の姿は平静そのものだった。声も態度も表情も、普段となにひとつ変わらない。
     それが、ますます暁人を追いつめた。言葉は耳に届いても言葉の中身までは頭に届かず、なんと返事をしていいか分からないまま押し黙っているうちに、暁人の状態を察したらしい麻里が代わりに答えた。
    「あ、注文お願いします。お兄ちゃん、タン大好きなんで。二人前でも三人前でもイケると思います」
    「そう。なら、六人前頼むわね」
     身動きすらできずにいる暁人をよそに、話はとんとん拍子にまとまってゆく。
    『しかし意外だね』
     どうして平然としていられるのかとますます背中を丸める暁人の耳に、録音機越しの声が飛びこんできた。
    『ああいった言葉を積極的に言うのも、求めるのも、てっきり暁人のほうだとばかり思っていたよ』
     同僚に対してなんて想像をしているのかと暁人は涙目になって頭を抱えた。目から耳から口から火を噴きそうになりながら、今すぐこの場から逃げだすために立ちあがりかける。が、それより一瞬早く、ようやく頬と顎の痛みから解放されたらしいKKが口を挟んでしまった。
    「そうでもないぜ」
     頭突きの腹いせなのかなんなのか、KKはとんでもないことをさらりと暴露した。
    「コイツ、酔ったらだいたいこんな感じだが、それ以外はさっぱりだぞ」
    「えー、KKさん可哀そう。ダメだよお兄ちゃん。思いはちゃんと言葉にして伝えないと」
     いやいや、あんたはいつでも言ってくれないじゃん。僕だけを責めるようなこと言うなよ。っていうか、なんでバラすんだよ。麻里もなんでKKの味方なんだ。身内のこういう場面を見たら普通は気まずくなるものだろ。ああ絵梨佳ちゃん、変なところを見せてしまってごめんなさい。エドさんはそのおかしな想像を頭から消してください、今すぐに。
     ようやく回りだした頭の片隅で、暁人は盛大に叫んだ。が、まともな声にはならなかった。
     金魚のようにぱくぱくと口を開け閉めしつづける暁人に、凛子の冷静な声がかかった。
    「そこまで恥ずかしがるなら、いい加減その手を離したら? まだ繋いだままでいるんでしょ。そろそろ店員がタンを持ってくる頃よ」
     凛子に目顔で示され、暁人はぎこちない動作で右隣を見下ろした。KKの四本の指を上からぎゅっと固く握りしめている、自分の手を。
    『まあ、すでに店員には四回見られているけどね。より正確に言うと、二人の店員にそれぞれ二回ずつだ。ちなみに、そのうちの一人には君の〝KKが大好き〟という発言も聞かれているよ』
     次の瞬間、暁人は声なき叫びをあげて弾かれたように右手を離した。無意識のうちに、開いた両てのひらを胸の前に掲げて激しく首をふる。が、今更そんなことをしたところで、数十分にわたってKKに寄りかかり、手を繋いで惚気続けてきたという過去の事実までもが消えることはない。チームの皆や馴染みの焼肉店の店員に見られてしまったという現実も。
    「なんだよ。もう甘えたの時間は終わりか? 好き勝手に触ってきておいて、自分の都合が悪くなったとたんに振りほどくとは、また随分な態度だなあ? 暁人くん?」
    「やっぱりKKさん可哀そう。ダメだよお兄ちゃん。ちゃんと相手の気持ちを考えないと」
    「け、KKも麻里ちゃんも、あんまり暁人さんをいじめるのは……」
    「放っておけばいいのよ、絵梨佳。馬に蹴られるだけだから」
    「え?」
    『ボクが意外だと言った一番の理由はそこなんだよ。KKの先程の発言から、暁人が酒を過ごせばどうなるかをKKは理解していて、あえて止めずに飲ませていたと推測できる。つまり……』
     とうとうと続くエドの言葉を、暁人はそれ以上聞いていられなかった。かといって、立ちあがって逃げ出せるほどの力を身体に入れられない。
     唯一の救いは、誕生日席に座るデイルが我関せずでひたすらコロッケを食べつづけていることだろうか。彼の記憶には残らないに違いない。せめてそうであってほしい。
     暁人は目を見開いたまま、意識だけを虚空に飛ばした。
     穴があったら入りたかった。
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