真ん中バースデーのはなし 10月13日 水曜日
それは渋谷での事件から一ヶ月と二十日程過ぎた中途半端な日だった。
伊月暁人は丑三つ時にもかかわらず夜道を歩いていた。
大学四年生、卒業論文、就職活動、両親を喪い妹と二人暮らし。普通の二十二歳より少しばかり苦労の多い立場だが不幸ではなかった。寧ろ半ば世界が輝いて見えていた。
「恋、してるねぇ」
ほんの数秒前まで誰もいなかったはずのマンションの入り口で声をかけられて叫ばなかったことを褒めてほしい。誰にと言われると言い難いのだが。
「たっ、祟り屋の……!?」
「良い宵ですねーなんちゃって」
恐らく言動が一番軽く一番若い弓使いが手を上げる。それにしても上機嫌だ。まるで酔っ払いのようだが彼らにアルコールは効くのだろうか。
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