灰色と黄昏 廃工場の無骨な外階段を静かな足音を立て、セーラー服姿の少女が上る。否、女装した男子、沖野司である。スカートの折り目を乱すことなく、堂々と進む姿には一切の躊躇がない。ここは彼が半年以上の間、拠点として扱ってきた場所である。
階段を半ばまで上り、誘蛾灯の薄青い光に引き寄せられた虫が目につく頃、いつまで経っても後ろから聞こえてこない足音が気になって振り返った。
「どうしたんだい、比治山くん」
スカートの中身でも気になるのかいと揶揄おうとしたのだが、彼は何か真剣な顔つきで階段の下で周囲を見回して立ち止まっていたので飲み込んでおいた。
比治山は階段を背に再び辺りをよく確認し、特に暗がりにある廃車の中を睨むように見てからようやく口を開いた。
6263