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    斑猫ゆき

    MAIKING精神科の患者タンジロと医者タミオチャンの炭魘⑤です。今回長いので1章を半分に分けています。相変わらずなんでも許せる人向け。
    ジョハリの箱庭・Ⅴ『盲点』(1/2)

    『たみおくん』

     誰かが呼んでいる。

    『民尾くん』

     懐かしい声。

    『ねえ、また聞かせてよ。列車の話』

     柔らかい笑顔が、民尾の隣に咲いた。
     気づけば、また民尾は夢の中にいる。あの、幼い頃の記憶を継ぎ接いだ世界に。
     普段はそれを認識した途端に意識が現実を指向し始めるのだけれど、今日は勝手が違った。隣にいる幼い友人が呼んでいるから。その声が、微笑みが、民尾のたましいを優しく掴んで、留め置いてくれている。あどけない面立ちの後ろで、鉄道模型が無限の轍を巡り続け、車体がレールを引っ掻く軽い音だけが、子供部屋には満ちていた。
    『しょうがないなぁ』
     勿体ぶってみるけれど、緩む口元は抑えられない。
     本当は、こうやって友人と時間を共有できることが、嬉しくてたまらないのだから。背伸びをして、わざと冷淡に振る舞ってみせても、彼はそれを嫌味と取ることもない。いつでも心から驚嘆し、素直な歓声を上げてくれる。それを確かめたいからこそ、民尾はいつも無理に彼へすげない態度を取っていた。
    10206

    斑猫ゆき

    MAIKING精神科の患者タンジロと医者タミオチャンの炭魘②です。なんでも許せる人向け。
    ※精神疾患やその治療などに関する記述がありますが、あくまでフィクションであり現実に精神疾患を患った方を揶揄する意図はありません。
    ジョハリの箱庭・Ⅱ『解放』

     四十五分丁度に四〇一号病室へと足を踏み入れた民尾を、彼は柔らかい笑みで迎えた。昼間は眠っていることが多い彼にしては珍しい。そんな考えをおくびにも出さず、民尾は穏やかな微笑みを作って返した。
     開け放たれた窓からは新緑の匂いが風に乗って、薄いカーテンを揺らしている。目の粗い生地を突き抜けた淡い光が、ベッドの上に落ちては揺れ、かたちを変えていく。そうして砕かれた影が、壁の翡翠色を含んで少年の額にある大きな痣にかかっていた。
    「あ、民尾先生。こんにちは」
    「こんにちは、起きてたんだね」
    「はい、最近はこの時間もあまり眠くならなくなってきて」
     少年の診断名はナルコレプシーだった。
     嗜眠症の一種であるそれは、一般的には日中の強い眠気や睡眠発作、脱力症状が主な症状とされている。少年はそれに加えて入眠及び覚醒時の幻覚が酷く、やっと眠りについたと思えば叫びながら起き出すのが少し前までは日常茶飯事だった。こちらに転院して間もなくは民尾を罵りながら掴みかかってきたことすらある。それを思えば、大分落ち着いたものだろう。民尾は満足げにうなずく。
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