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    くろりん

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    トラブルだろうと解決します/クロリン
    前回の続き/霊力に関して独自解釈があります。
    「それで、そんな姿になってしまったと」
     クロウの膝に抱き上げてもらったリィンは、周りから見下ろされている窮屈さに肩を落とした。
     心配させてしまっている。これから先の不安も相まって滲んできた涙を袖で拭った。後ろからハンカチを手渡され、宥めてくれる大きな手にほうとため息をつく。
    「そうなんだ。こまったことに、かんじょうがようじのからだにひっぱられてしまう」
    「それはそれは。精霊窟を出ても元の姿に戻らないのは気になりますね。先だって調査させて戴きましたが、おそらく今のリィンさんは霊力を一時的に失っている状態に近いと思われます」
     眼鏡を外して見つめてきた瞳を、固唾の呑んで見守る。
    「霊窟の最奥には主がいなかったようですし、霊力が十分に補充できれば元の姿に戻りますよ」
    「ありがとう、えま。それで! それでほじゅうのしかたはどうすればいいのか、おしえてほしい」
     ふたたび眼鏡をかけたエマが微笑んでくれた。興奮のあまり彼女に抱きつこうとした身体をクロウが抱きとめてくれて助かった。
    「それは、ですね……」
     ちら、と背後にいるクロウへ視線を投げた意味をリィンはまだ知らなかった。
     エマが提案して 863

    甘味。/konpeito

    TRAINING恋人が見せ場を作ってきて困ります
    捏造未来/クロリン/リ視点/翌朝しこたま後悔する
    「アルフィン皇太女殿下、お久しぶりです」
     略式の礼をしたリィン・シュバルツァーはゆっくり頭をあげる。眼前には豊かな金髪を背に流した女性が朗らかに微笑んでいた。エレボニア帝国唯一の皇位継承権を持つ皇太女、アルフィン・ライゼ・アルノールその人だ。
    「まあリィンさんそう畏まらないで? 今日もたくさんお話聞かせて頂けたら嬉しいわ」
     初めて会った頃の幼い面影を漂わせる微笑に困ってしまう。
    「できれば、お手柔らかにお願いします」
    「兄様、お久しぶりです」
     アルフィンの後ろに控えてきた女性が前に歩み出る。妹、エリゼ・シュバルツァーだ。女学院卒業後は殿下を残してユミルには戻れない、とそのまま補佐官の地位についていた。
     久方ぶりの再会についつい目尻が和らぐ。
    「エリゼ。久しぶり。どうだ、殿下の補佐は」
    「それは食事の席についてからお話しましょう。クロウさんもお久しぶりです」
     エリゼに促されるまま食事の席につく。
    「相変わらずきっついなあ」
     揃いのテールコートを見にまとったクロウが苦笑いしていた。彼は前髪を後ろへ流すように撫でつけ、秀でた額を晒している。
     普段と異なる恋人の凛々しい風貌にリィ 1639

    甘味。/konpeito

    TRAINING見せ場は自分で作るものです/ふたりとも教官しています。捏造未来
    本日の800文字チャレンジ/クロリン
    「クロウ、食べるときぐらい書類はしまうよういつも言っているだろう」
     ミルクの入ったグラスが視界に入る。書類から顔をあげ、咀嚼していたパンを思わず飲み込んだ。眉間に皺を寄せた恋人、リィン・シュバルツァーが不機嫌そうにこちらを見ていた。
     彼の機嫌を損ねるのは得策ではない。
     慌てて書類をテーブルのうえに放り、クロウ・アームブラストはリィンお手製の朝食に集中した。エプロンを外して向かいに腰掛けた彼も朝食に手をつけはじめ、これ以上の雷はなさそうだとそっと胸を撫で下ろす。
    「それ、今度の特別演習に関する書類か」
     焼きたての食パンにジャムを塗りたくったリィンがジャムナイフでクロウの読んでいた紙を指してみせる。それに頷き、サラダを頬張った。大きめに千切られたレタスをどうにか口のなかへ納める。元来そうなのか、意外と大雑把な一面をときおりクロウに披露してくれた。
    「ああ。一応、俺も教官だしなあ。書類くらい目を通しておかないと」
     数日後に予定されている第二分校での特別演習には、当然リィンとともに分校で教官を勤めているクロウも参加する。
     今度の演習では帝都内で数班に分かれ、それぞれ依頼をこなしてい 1008

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    好きだと伝えたい/Ⅳ最終決戦前夜クロリン
    「ただ、聞いてくれるだけでいいんだ」
     好きだと告げたはずのリィン・シュバルツァーは控えめな笑みを浮かべていた。世界大戦前夜、ミシュラムでのことだった。
    「返事が欲しいとか、先を望んでいるとか、そういうのではないんだ。どうしても、今夜伝えないと後悔しそうだなと思ったら、ついな」
     クロウ・アームブラストは、リィンの眷属としてこの世に繋ぎ止められているだけにすぎない。彼の想いに答える権利なんてなかった。
     取り繕った笑顔から目を逸らした。強ばる頬に伸びそうな手を制した。それでも行き場のない想いが彼の名前になってこぼれる。
    「リィン……」
     一度きつく目をつむったリィンは話題を変えるでもなく話を続けた。
    「好き、なんだ。好きで好きで、なんでこんなに好きになってしまったのか、いつから好きになっていたのかもう分からないくらいなんだ」
     酒の入ったコップへあふれるほどの好きを注いだリィンは、最後に微笑んで最終決戦へ挑んだ。
    「で、あんだけ人に熱烈な告白しておいて今さら逃げるなんてどういう了見だ。おい」
     散々追いかけっこを繰り返したリィンを木の下へ追い詰めたクロウは、彼の両腕を木に縫いつけていた 850

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    寝坊するのは誰のせい/クロリン
    午前五時。
     薄暗がりにうっすら朝日が差した頃、目覚まし時計が鳴った。手を伸ばしてそれを止める。
     腕のなかで身じろぐリィンをぎゅうと抱きしめ、そのつむじに鼻先を埋めた。リィンの匂いだ。ともに生活しはじめてずいぶん経つが、同じシャンプーを使用しているのに彼らしさを残す香りを肺いっぱいに吸い込む。
    「クロウ、吸うな」
     振り払いたいのだろう、寝起きで威力の落ちたリィンの腕を受け止める。毎朝、鍛錬に勤しむ彼は意外と目覚めが悪い。
    「先に降りてるからな。水置いとくから飲めよ」
     近くに置いておいた水瓶からコップに一杯汲み、一気に飲み干した。そのままリィンの分も汲んでおく。
    「リィンおはようの挨拶な」
    「ん……おはよ」
     頬に口付け、リィンにも催促する。普段ならリィンからの口付けなんて本人が恥ずかしがって抵抗するのだが、この時間だけはされるがままだ。寝ぼけて少し舌ったらずになるところもいい。
     ベッドのうえで起き上がったものの、ぼんやりしているままのリィンを残して手早く着替えを済ませたクロウは先に階下へ降りた。
    「クロウ、おはよう」
    「おー。おはようさん」
     朝食用のスープを仕込み終えた頃、ほ 861

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    やさしい贄の育て方/ノマ√クロリン
    お前はあの方の生け贄として産まれたのだ、と両親は心の底から愛おしそうに笑った。
     生け贄。生きたまま神に供える物。なにかの目的のために支払われる犠牲。
     今年で十歳になったばかりのクロウ・アームブラストは、村長宅で特別に読ませてもらった辞書を閉じる。
     クロウの待遇は、生け贄にしては良くもなく、かといって悪くもない。まるで普通の子どものように育てられてきた。着るものには困らないし、三食しっかり与えられ、家も古めかしいくらいで不満はない。過度な体罰もなく、両親はほどほどの愛情を注いでくれている。本当に極々一般的な教育を受けてきた。
    「明日、あの方のところへ連れて行くからね」
     家族が揃った朝食でのことだった。なんでもない調子で放たれた母の言葉に衝撃を受けた。
     曖昧に頷いたクロウをおいて、両親はいつも通りにその日一日を過ごしていた。
    「クロウみたいな、きれいな銀髪の子か、赤目の子が生け贄に選ばれるの。両方揃っているなんて珍しいんだから」
     明るい調子で母が続ける。
    「あの方は、もうずいぶん昔からここに住んでいるそうでね。この村や、近くでなにかあると助けてくれたそうよ。クロウ、あの方はね。 1114

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字
    unluckyday?付き合っていないクロリン
    この日のクロウ・アームブラストは、朝からついてなかった。
     まずはじめに導力バイクの調子が悪くなった。足が無ければ旅は続けられない。クロウは仕方なく列車に導力バイクごと乗り込み、近場にあったリーヴスへ向かった。
     目的地に到着して早々、第二分校の校舎奥にある格納庫へ導力バイクを運び込んだ。格納庫内は人っ子ひとり居なかったが、この時間なら授業中なのだろうとひとりで納得する。
     その後、ついでだからとここで教官をしているリィン・シュバルツァーの顔でも拝んでいくかと居場所を聞くも、朝から特別演習のためリィンはおろか、生徒全員が出払っていると用務員のフランキーから聞きかされて肩を落とした。
    「もしかして、ツイてない……?」
     人気のない校舎をうろつくわけにもいかず、しかも肝心の修理を依頼したかったティータ・ラッセルも当然、特別演習のため不在。近場での演習だから明日には帰ってくるらしいが、結局それまで手持ち無沙汰なのには変わりなかった。
    「よし、ここまでついてなけりゃ、いっそ当たるだろ。運試しだ、運試し」
     落ち込むなんて柄ではない。気を取り直したクロウは新調したばかりのライダースジャケットを翻 852

    甘味。/konpeito

    TRAINING武器交換続きクロリン
    モブ視点/交わるふたつの絆
    「なぜだ、なぜだ。なぜだ!」
     監視カメラから目を逸らせないまま机を叩く。部下の肩がびくりと跳ねたが、そんな瑣末なことを気にかけている余裕などなかった。
    「四班、五班。ともにBルート、クロウ・アームブラストを潰せ。七班八班はAだ。リィン・シュバルツァーをそれ以上先へ進めるな。いいな、ふたりを絶対合流させるんじゃない。分かったな」
     無線を切り、ふたたび机を叩き、奥歯を噛みしめる。目の前で起こっている現実を受け入れられなかった。
     データ上では双刃剣と二丁拳銃しか扱っていなかった男は慣れた手付きで太刀を操り、太刀一辺倒だったはずの男は拳銃二丁を鮮やかに使いこなしてみせている。まるで、お互いの戦い方を熟知しているような練度に背筋が凍った。
    「最終手段に出る。アレを動かせ」
     向かうは合流地点。
     大型人形兵器を従え、一掃するしかない。もう、彼らを止められるものはこれしかなかった。



    「どうしてこんなことに。私の計画は完璧だったはずだ。ふたり揃うと厄介だからと分断してやった。武器も奪った。なのになぜだ。なぜ止まらない。どうして倒れない」
     静寂のなかに悲痛な声だけが響いた。
     従えてい 1229

    甘味。/konpeito

    TRAINING寝るまでは略本日の800文字チャレンジ「教官、今日はずいぶんおしゃれなシャツ着てますね?」無意識彼シャツクロリンARCUSが着信を知らせる。目覚ましのアラームではないそれに出るため、背中に張りついたままのクロウをどうにか押し退けたリィンはやっとの思いで通信に応答した。
     床に落ちた下着や服を拾い、身につけていく。シャツを羽織った肩口にARCUSを挟んで、話を聞きながらスラックスにベルトを通した。
    「ああ。分かりました。ええ。ええ。……そうですね、二十分後に合流でどうでしょうか。こちらは構いません」
     靴を履くためベッドに腰掛けるとクロウの手が伸びてくる。まだ通話の続いているARCUSが支えられ、急いでシャツのボタンを留めた。クロウの耳元に小声で礼を述べて彼の手からARCUSを受け取る。
    「ええ、……ええ。そうしてくれると助かります。ええ、それじゃあまたあとで」
     通信を終わらせてそのまま懐にしまった。
    「仕事か。自由行動日だろ。今日」
     欠伸を隠さないクロウは、カーテンからこぼれる朝日の下に蠱惑的な裸体を晒していた。思わず足元に絡まっていたシーツを彼の上にかける。
    「呼び出しだ。クロウは寝てていいぞ。久々にこっちに来てるんだ。たまには休め」
     ベルトに帯刀し、革手袋を嵌めて最後にコートを羽織る。 803

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ/Promise of reunion
    クロリン武器交換/11.30加筆
    「くっ!」
    「しまった……!」
     ほぼ同時にリィンは太刀を、クロウは二丁拳銃を弾き飛ばされた。互いの武器が相手の手元に向かって床を滑っていく。滑ってきたそれを手にとった瞬間、ふたりのあいだに見えない壁が現れた。
     声は向こう側に届いても触れたところですり抜けず、リィンの無手の型でも歯が立たない。
    「クロウ、借りるぞ」
     見えない壁の向こう側にいる彼が拳銃を構える。この程度で壊れてくれるなら幸いと、壊れた場合に飛んできた破片を被らないよう数歩下がった。
    「おー。遠慮なくやってくれ」
     タンッ、タンッ、タンッ。
     銃弾が軽快なリズムで放たれるも、それらが一発とて壁を貫通することはなかった。
    「だよなー。こっちも試すか?」
     念のため、手元にあったリィンの刀を振るって斬るような動作をしてみせる。壁の向こう側で真剣な顔をした彼が頭を振っていた。
    「近距離での銃撃に傷ひとつついていない。太刀でも厳しいと思う。それぞれ先に進める通路がある。どこかで合流できる場所があるはずだ」
    「まっ、そうなるよな。そんじゃ、俺の相棒はそれまで預けておくわ」
    「分かった。クロウも、くれぐれも大事に扱ってくれ。――絶 942

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ「願いを灯りに代えて」
    Ⅳ最終相克前。ミシュラムにて/付き合っていないクロリン
    「もしも黄昏を終わらせて、それでも生き残っちまったら。――お前ならどうする」
     ミシュラムでの最後の一夜、リィンとともに酒の入ったグラスを傾けているときだった。話すならばこれが最後の機会だろうと彼へ水を向ける。
    「クロウ、」
     咎められても撤回するつもりはなかった。
     顔を顰めるリィンの言いたいことくらい、クロウは分かっている。互いに生き残ることの難しさなんてとっくに理解していた。なんせ、クロウはすでに死んでいる身だ。彼の眷属として、かろうじてこの世に留まっているだけの存在。リィンもまた、相克の果てに待ち受けるものを知ってしまった今、先を考えるのは難しいだろう。
     それでも、彼には未来の話をしてほしかった。
     迷子みたいな顔をした彼はしばらく押し黙って、酒で唇を湿らせるとようやく口をひらいた。
    「クロウと、酒が飲みたい」
     静かに願いを吐き出すリィンは、目を細めている。まるで夜空に瞬く小さな星を探しているようだった。
    「クロウ、と、酒が飲みたいんだ。また、ふたりで。こうやって、酒が……飲みたい」
     彼の握ったグラスのなかで琥珀がきらりと波立つ。
    「だめ、なのかなあ」
    「いいんじゃねえか 790

    甘味。/konpeito

    TRAINING800文字チャレンジ!俺の相棒が世界一かわいい/クロリン
    寝るまでは本日の法則
    ちょうどクラブハウス内にあるシャワールームで汗を流し終えたところだった。
    「クロウ! よかった、まだ帰っていなくて」
     ここまで走ってきた様子のリィンが息を切らせて駆け寄ってくる。クロウは濡れた髪を拭きながらリィンの息が整うのを待った。
    「どうした、そんな慌てて。なんか用でもあったか」
    「ミュゼ、から聞いて。クロウが、来てるって」
     リィンの言葉でようやく合点がいった。どうやら先ほどまで訓練に付き合っていた彼の生徒から連絡がいったのだろう。それにしても、常日頃から鍛錬を怠らない彼にしては珍しい姿だ。つい、しげしげと眺めてしまう。
    「ミュゼの遠距離狙撃訓練、スタークの射撃訓練、アッシュとクルトには実戦訓練。ユウナには接近戦と射撃を混ぜた実戦訓練。それからアルティナには現場の状況解析のアドバイス。おかしいな。いつからクロウはここの教官になったんだ」
     呼吸が落ち着いたらしいリィンの激しい詰問にへらりと笑った。
    「いやー、ねだられると断れなくてなあ。教え甲斐があってなかなか楽しかったぞ」
     リィンの生徒とは過去に幾度も共闘していたこともあり、かたや相棒の生徒、かたや教官の相棒としてそれなりに 828

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/いとしいとしい/リ失踪もの
    リィンにとって、幸せとは脆く儚いものだった。平穏とは、常に脅かされるものだった。
    「ごめん、クロウ……」
     昨夜、互いの熱を分け合ったクロウの頬を指の背で撫でた。深い眠りに誘う魔女の秘薬を飲ませた彼は、どんな夢を見ているのだろうか。
     気持ちよさそうに寝息を立てるその唇をなぞり、口付けた。一度では足りず、クロウの感触を刻むようにもう一度口付ける。
    「ごめん……」
     震える声で懺悔し、ふたりで競うように脱がし合い、ベッドの周りに散りばめた衣服を拾い上げて身なりを整える。シャワーは浴びなかった。まだ、クロウに触れられた感覚を流したくはない。薄い腹のなかに吐き出された彼の欲でさえ、このまま己の血肉になればいいと願った。
     そうしてリィンは軋む身体を引きずり、クロウの前から姿を消した。
     さよならは言えなかった。たとえ相手が寝ていたとしても、終わりの言葉は使えない。
     ――そろそろ付き合わないか、俺たち。
     馴染みのバーでいつものようにふたりで飲んでいたときだった。お互いいい歳なんだしと続けたクロウは、静かにロックグラスのなかの琥珀を眺めている。先月のことだ。嬉しかった。でも、それ以上に怖かっ 745

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ/ロマンティックが聴こえる
    リの心の声が聞こえるク/クロリン
    ――好きだ。
    「えっ」
     つよい声だった。頭をがつんと殴られたような衝撃に思わずそこをさする。目の前にいる相棒、リィンが心配なのか眉を下げてこちらを見上げていた。
     背後や周囲に人はいない。ここはリィンの部屋だ。
    「どうしたんだクロウ」
    「あー、いや。なんでもねえ」
     安心させるためにへらりと笑ってみせれば、今度は眉間にぐぐっと皺が寄った。
    ――心配だ。どうしたんだろう。言えないのかな。クロウ、クロウ、クロウ。
     また、頭のなかに声が響く。よくよく聞けばリィンの声だった。表情からそんなことを言いそうな顔はしているが、彼の口は一リジュも動いていない。
    「んー……」
     指で己の顎を撫で、今の状況を分析する。そのうえで、いくつか試してみることにした。
    「リィン、」
     わざと耳朶を舌で嬲り、情事を連想させるような甘い声で囁く。
    「ぅ、……あ……」
    ――び、びっくりした、びっくりした。クロウ、の声。夜の声。
     夜、というのはセックスを指すのだろうか。リィンらしい慎ましい表現に頬が緩んだ。耳への愛撫を続けながら彼の身体を弄っていく。
    ――キス、したい、のに。どうしよう、恥ずかしい。言えない。キス、 857

    甘味。/konpeito

    TRAINING寝るまでは本日の法則で800文字
    誕生日の前日譚。クロリン、ク視点
    同居一年目は、釣り好きなリィンのために新作の釣り竿を。二年目にはクロウが彼の服をトータルコーディネートした。三年目にはふたりで温泉地巡りをして、四年目は、手作りの豪華な夕食をプレゼント。そして五年目の今年、いよいよリィンの誕生日が来週に迫っているにも関わらず、クロウはまだなにをプレゼントするか悩んでいた。
    「欲しい、もの?」
    「そうそ。そろそろ誕生日だろお前」
     トールズの同窓会から帰ってきたリィンに水を渡しながらさり気なく声をかけた。
     強かに酔ったリィンの記憶が怪しくなることを利用するのは多少気が引けたが、背に腹は変えられない。
    「クロウ」
     水の入ったコップを両手で包んだリィンがぼんやりこちらを見上げていた。呼ばれたと思い、彼に顔を寄せる。
    「ん? なんだ」
    「クロウ。クロウがほしい」
     ほしいってなんだ俺はものじゃねえと危うくつっこみそうになり、それを喉の奥に押し留めた。
    「いやな、誕生日プレゼントの話してんだよ」
    「分かってるぞ。だから、クロウが欲しいんだ」
    「分かってねえから。この酔っ払いめ」
     もう一度クロウが質問の趣旨を説明しても、きょとりと瞬いたリィンは同じことしか口 809

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    同居クロリン「誕生日」12本のバラの花言葉はわたしと付き合ってください
    「なあリィン、誕生日プレゼント欲しいもんあるか」
     行きたいところでもいいけど。あんまり軽い話し口にリィンは目を白黒させた。夕食の献立を聞いてきたのを、聞き間違えたのだろうか。
    「クロウ、その。もう一回言ってくれるか」
    「だから、誕生日プレゼント。なにがいい」
     聞き返したリィンの徒労も虚しく、クロウは先ほどと同じことを口にした。誕生日、なにがいい。それを理解するまでふたたび硬直してしまったリィンはジャムのたっぷり塗られたパンをクロウに口のなかへ放り込まれてようやく現実に帰ってきた。
     同居をはじめてはや五年目。
     最初は凝ったサプライズを仕掛けてきていたクロウが今年は直接聞いてきた。つまり、もう考えるのも面倒になってしまったのだろう。そのうち一緒に住むのも面倒になって、また旅に出てしまったら――。
    「リィン教官?」
     伺うような生徒の声で我に帰った。今は勤務中だ。胸のなかのわだかまりをどうにか抑えて授業に集中した。
     結局、誕生日当日までクロウの問いに答えは見つけられなかった。昨日も聞かれたリィンは、今年は何もいらないから。もう祝うような歳でもないし、ケーキもプレゼントはもう要らない 807

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ尋ね人は佳人を求める
    Ⅳノマ√後、クロリン。ク転生
    東方には、不思議な話が伝わっている。
     砂漠で迷うと火の化身、不知火が出るというものだ。不知火は白い毛に赤い目をしていて、迷い人を人里まで案内してくれる心根の優しいものなのだと言われていた。
     不知火にはかならずお供がそばに描かれている。猫のようであったり、鳥のようであったり、はたまた人のようでもあった。不知火はそれを生涯ただ唯一の相棒だと呼んでいた。その話をする不知火はアムリタの涙を流したという。



     ようやく辿り着いた家の扉をノックした。
    「どなたです……、か」
     恐る恐るひらいただろう扉の向こうから探し求めた愛しい人の顔が現れる。こちらを認識した瞬間、彼の瞳が揺れた。真っ赤な目から頬を伝い落ちる雫を指で拭う。あたたかい涙だった。
    「久しぶりだな。リィン」
    「ク、……ロウ」
     リィンは目の前に突然現れた俺の姿形を確かめるように頬を両手で包んでいる。しばらくそうしてからぎゅうぎゅう抱きついてきた。
    「いやあ、ここに辿り着くまで三回も生まれ変わったわ。まあでも、お前が変わらずお人好しで助かった。お前、伝承になってるぞ」
     案内された家のなかで当たり前のように紅茶を出されて曖昧に笑 823