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    くろりん

    さらさ

    DONEクロリンwebオンリーのエア小話より「内容指定無しの更紗が書いたクロリン」です。
    12月に不安定になっちゃうリィンが今年はしっかりしなきゃと思いながらクロウにメールすることから始まるシリアスクロリン。



    ランディが出てくるのは私の趣味です(書き分け難しかったけど楽しかった)
    慣れぬくらいならその腕に ――冬、か。リィンは仕事が一段落した寮のベッドで、バタリと倒れながらそう思う。《黄昏》が終結してから三度目になるその季節に、そろそろ拭えていい筈の不安がまだ心の奥底で突き刺さっていた。

    「流石に通信は女々しいかな」

    流石に三度目ともなれば慣れなくてはならないと、彼は思う。今は異国を巡りながら情報収集やら遊撃士協会の協力者やらで忙しい悪友を、年末には必ず帰ってくる優しい人を心配させない為に。開いたり、閉じたりしてどうも定まらない思考をなんとか纏めようとする。

    「今年は帰ってこなくても大丈夫だって、言おうかな……」

    移動距離だってそんなに短くないのだ、忙しい時間を自分に割かせるには余りにも勿体無さすぎる。そもそも、帰ってくるという表現さえ正しいのかは分からないが。導力メールで今年は帰ってこなくても大丈夫だという旨だけ書いて送信して、そのまま目を閉じる。通信を告げる着信音がやけに遠く感じながら、リィンはそのまま眠りについた。
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    さらさ

    SPUR ME12月12日に出す予定の展示品を尻叩きとサンプルを兼ねて一章丸々アップ。こんな感じのクロリンの話が五感分連続していく感じです。シリアスが続きますがハピエン(にしてみせる!)

    ちなみにタイトルは全て「五感に関する部位のことわざ」を当てはめています。変わるかも。
    医者と味噌は古いほどよい リィンは《黒の工房》から救出されて以来、違和感に気付いた。《巨イナル黄昏》より前に感じ取れていた味が、分からなくなっていたのだ。一か月近く食事をしていなかったこともあり気付かなかったが、しばらく食べているうちにようやくその違和感に辿り着いた。原因は分からないが、相克に向かうこの状況で他の心配事を出来ればリィンは作りたくなかった。だから、黙っている事にした。――目に見えて減っている食事量を前に、既に全員が気が付いているだなんて思わないまま。

    「そういうワケでクロウ、よろしく」
    「いや待て、どうしてそうなる」

    セリーヌとデュバリィに足止めさせて始まる新旧Ⅶ組大会議。答えは出ているも同然だったが、それでも認識の擦り合わせが必要だと集まったのだが。驚く程分かりやすいリィンの事だ、擦り合わせる間でもなかったが。それが分かれば押し付ける先は一つしかない。フィーの直球な言葉にクロウは予想もしていなかった為狼狽えた。リィンは無自覚ではあるが彼に甘える。そしてクロウは彼が甘えてくる自覚はあれど甘えさせているという自覚はなかった。何も自分に持ってくることはないだろうに、それがクロウの言い分だがそれに呆れている様子もまた感じ取っている事もあって困っている。
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    さらさ

    DONEリクエストより「クロリンで指輪交換」でした。指輪を交換した勢いで誓ってもらいました。場所が場所だけどね!

    リクエストありがとうございました!
    誓いの環をその指に「買って、しまった……」

     十二月もまだ初旬、たまたま帝都に出たという理由だけで散策して見つけたシンプルな指環。ああ、あいつに似合いそうだと思ってうっかり買ってしまった物だったがこれを渡せる程の関係でもないという事は彼――リィンも分かり切っていた。一応、お付き合いしている関係ではある。だが余りにも空白の時間が長すぎた事、戦後の事後処理に追われて時間が取れない事が相まってしまい未だ実感が湧かないのが現実であった。だからこれは余りにも早すぎるというもので。そっとコートのポケットへと仕舞ったのだった。

    「やべぇ、買っちまった……」

     同時期、別の男もまた同じ事をしていた。たまたま見つけた最低限の装飾しか施されていない指輪。ああ、あいつの指にはめてしまいたいだなんて思っているうちに買ってしまった代物である。お付き合いを始めてそろそろ三か月、今度こそ手を離さないと誓ったものの状況がそれを許さなかった。彼らは別々の場所で必要とされ、帝国内を東奔西走するような日々である。言ってしまえば魔が差したようなものだと、彼――クロウは思う。なんせ相手は天性の朴念仁で人タラシ、所有痕の一つや二つ残しておかねば相手が近寄ってくる始末だ。その状況に頭を抱えていたのは事実だが、かといってここまでするつもりはまだ毛頭なかった。
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    さらさ

    MOURNING「何かあって不機嫌そうなクロリンが戦闘では息ピッタリな話」の続き。やっとくっつきます。
    付き合ってないのに痴話喧嘩は犬も食わない リィンとクロウの不仲騒動から数時間。第五階層の最奥まで回って《円庭》に戻ってきた面々は二人を除いて疲れ切った表情をしていた。余りにも不毛な痴話喧嘩、それでいて付き合っていないというのだから手に負えない。瞬く間にそれは広がり、新旧Ⅶ組は総出で溜息をつき、他の面々も事情を察したように苦笑いをしていた。一部生温かい目で見る者もいたようだが。

    「全く、本当にいいのかい?リィン君だって同じ気持ちを持っているのだろう?」
    「……あいつには悪いが、応えられるほど真っ直ぐじゃねぇんだ」

    テーブルを囲って、かつて試験班だった面々がクロウに詰め寄る。アンゼリカの言葉に彼は首を振った後、真剣に迫ってきたリィンの事を思い出す。構えば構う程、愛情と執着心そして独占欲が生まれ、その度にクロウは己を律してきた。果たしてそれは必要か、と。必要であるならばいくらでも利用できる。だと言うのに彼の場合はどうだ、根も真っ直ぐでたくさんの人から慕われている。そんな彼を利用するだなんて出来ないし、したくもなかった、これはフェイクでも何でもない本音であった。未だに《C》だったころの話も出してネタにするのは正直言ってやめて欲しいのだが。
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    さらさ

    DONEエア小話 リクエストが指定なしとの事だったので
    「何かで互いに対して不機嫌そうにしてるクロリンが戦闘でも息ピッタリな話」
    です。リクエストありがとうございました。
    「……なんか、今日のクロウ機嫌悪くない?」
    「心なしか、リィンさんの機嫌も悪いような気がしますね」

     真・夢幻回廊、第五階層。最前線で戦うクロウとリィンを遠目に、後方支援役のエマとエリオットはそんな話をしていた。いつもだったらベタベタと言っていい程に距離が近いのが、二人ではありえないほどの常識的な距離だったし先程から二人で一度もリンクを繋いでいないのだ。一体何があったというのか、二人の様子を観察するにしても普段は砂糖を吐きたくなるほどドロドロに甘く見ていられないというのが新旧Ⅶ組どころか特務支援課他遊撃士等々の面子が出した結論だった。下手をしたら馬に蹴られかねない。そんな甘さを微塵も感じさせないまま、次から次へと魔獣を伸していく二人には最早感心せざるを得なかった。

    「なんというか、喧嘩したのか?」
    「それはあり得るかもしれないわね。でも……」

    サブメンバーとしてついてきているガイウスとエステルの視線は少し離れたところで戦闘を仕掛ける二人に向けられる。リンクはエマがリィンと繋ぎ、クロウはエリオットと繋いでいる。ダメージを受けることなく終わらせてしまうので、あまり意味がないのだが。
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    甘味。/konpeito

    MAIKINGクロリン/恋のエチュード/書きかけ売り言葉に買い言葉だった。
     あの日はふたりで酒瓶を五本開けていて、お互いにずいぶん酔っていたのは自覚していた。
    「相変わらず色恋の噂一つ聞かないが、そんなんでいざというとき大丈夫なのかよ」
    「大丈夫ってなにが」
     強かに酔った頭でどうにか聞き返す。ハイボールの入ったグラスを傾けたクロウ・アームブラストが器用に片眉をあげた。こんなときだって惚れ惚れするほどいい男だ。ふん、と鼻で笑われてリィン・シュバルツァーの眉間に皺が寄った。
    「そんなんじゃ、いざ本命ができたときにデートのひとつもスマートにできなくて恥かくぞ」
    「本気じゃない相手とデートするなんて、相手に失礼じゃないか」
    「真面目」
    「そんなに言うくらいだ、もちろんクロウはデートのひとつやふたつスマートにできるんだろうな」
     妙に棘のある言い方をしてしまう。呆れたようなその眼差しが、彼は本命でない相手ともデートできるといっているようだった。
    「へえ。そんじゃあいっちょ試してみるか?」
    「ああ。クロウのお手並み拝見といこうか」
     そのまま話の流れでお互いの休日の摺り合わせをおこない、結局二週間後にある第二分校の休養日にクロウが合わせる形 1612

    甘味。/konpeito

    TRAININGクロリン/綻ぶ笑顔は花のよう薄暗い倉庫のなか、無造作に積まれたコンテナに囲まれたクロウは、両手を後ろで縛られていた。
    「ってー。口んなか切れてるなこりゃ」
     動かすだけで口のなかに広がる鉄の味に眉をしかめた。尋問された際に切れたのだろう。拘束されているせいで頬についた汚れでさえ、ぬぐうこともできない。
     痛む唇をもごもごさせていると、見張りの厳しい視線が刺さる。えへらと笑みを浮かべてごまかした。
     最近帝都で暗躍している組織の本拠地を調査するためこうして敵にわざと捕まったクロウは、あらかじめブーツのなかに仕込んでおいたナイフを袖の内側へ移動させ、脱出する機会を窺っていた。
    「さてと。腹も減ったし、そろそろ帰るとしますかね」
     複数ついていた見張りが無線で呼び出されていった頃だった。拘束を解くためにかかる時間。見張りを無力化する時間。この場から脱出する時間を計算したうえでいよいよ動き出した。
     脱出前に雇い主の情報を聞き出したり、メインシステムへ侵入していくらか情報をせしめていこうと、ひとり取り残された見張りを視界に納めながら袖の内側に隠していたナイフで縄に切れ目を入れていく。あともう少しで切れる。そのときだった。 845

    さらさ

    MOURNING『瞳の交換』

    Q.何日遅れましたか?
    A.三日です(大遅刻)
    バレンタインデーの続編のつもりで書いたクロリン。ホワイトデーの昼から夜にかけた二人の話。
    「よっす、トワ。リィンいるか?」

     三月十四日、世間ではホワイトデーと呼ばれる日。バレンタインデーのお返しをする日と言われる今日は、当然のごとくクロウは先月から晴れてお付き合いを始めた恋人の所に顔を出す――つもりでいた。しかし、尋ね人はどうやら不在らしく。

    「今日は自由行動日だし買いたいものがあるからって、帝都に行ったみたいだよ。珍しいよねぇ」

    トワの言葉にクロウは同意する。何せ、自由行動日ともなれば率先して依頼を引き受けては忙しなく動く性分なのだから。だからこそ、これは珍しい。

    「今日はホワイトデーだし、クロウ君が来るのは予想してると思うけど……。先月の事、まだ気にしてるのかなぁ?」
    「ああ、あの赤飯事件な……」

    東方に伝わるという不思議な風習に倣って、勘のいい生徒の一部が赤飯を炊いた事件があった。勿論、ある程度東方由来の文化に通じている当事者がその意味を知らない筈もなく。その場で倒れてしまい大騒ぎになってしまった。分校中に広まってしまったそれは彼にとっては勿論羞恥以外何もなく。主導者が彼の教え子だった事もあり、新Ⅶ組を中心にその話題は御法度となった。ただ、そうなる前にクロ 3650

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ100day
    クロリン/創から数年後
    想い出をめくる
    「またアルバム見てたのか」
     マグカップを手渡され、革張りのずっしり重いアルバムをひらいたままローテーブルに下ろした。ソファに座るリィンの隣へ腰掛けたクロウはからかいながらも優しい目でそれを眺めている。
    「ああ。先月、ユウナたちの同窓会へ行っただろう。そのときに撮った写真がアルティナから送られてきたから」
    「全員が揃ったのは卒業してから初めてだったな」
     彼らが第二分校を卒業してはや数年。それぞれの立場や事情もあり、毎年同窓会の話題が登るものの実現には至っていなかった。
     飲み干したマグカップをアルバムの隣においた彼が、ほかのページに貼られた写真に目を走らせているのを寄りかかって見つめた。卒業式に撮ったものや、彼らが家族と撮ったものもある。卒業後、リィンと再会したときに撮った写真も収められていた。
    「寂しいか」
     肩に預けていた頭を持ち上げる。クロウの目を見返すと、そういう顔してたぞと額を小突かれた。
    「そうだな。教え子が卒業していくのは寂しい。でも、巣立っていく人たちだけじゃないから。クロウが俺の隣にいてくれるから、寂しいけれど笑顔で見送れるんだ」
    「そっか」
     ふと、ARCUSを取 837

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/創、夢幻回廊にて
    ねこねこerror
    ――空間移送の際に異常を感知しました。
     意識が浮上する直前、抑揚のない音が流れてくる。目蓋をあげれば創まりの円庭が広がっていた。
    「つまり、ここへ連れてくるときに起こった異常とやらのせいでみんなに猫の耳と尻尾が生えちゃったってこと?」
     エステルが地毛とよく似た色の、自身の頭頂部を占拠する猫耳をつつく。ロイドは目を閉じて同様に生えた猫耳が動かせるのか試しているようだった。リィンの頭の上にも黒い猫耳がついている。ゆったり揺れる黒い尾が視界の端をよぎった。
    「ああ。戻るときには影響しないそうだ」
     それなら問題ないわね、と笑ったエステルは仲間と階層へ向かい、苦い顔で笑ったロイドも支援課の面々とともに星霊樹の方角へ去っていくのを見送る。
    「ということで、今回はこのまま訓練に出ようと思う」
     Ⅶ組の生徒らのところへ話し合いの結果を持ち帰ったリィンは、生徒を引き連れ千年宝庫で装備を整えていた。
    「あの人も行くんですか」
     アルティナの指差す先には、石盤の前でクロチルダたちと談笑しているクロウがいた。彼にも銀色の猫耳がついていて、その光景についつい眦が下がる。
    「強敵の出る階層を攻略するからクロ 855

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/創後日談時空
    a secret in the gift
    「そういえばクロウさん、リィン教官からお返しもう受け取りました?」
     頼んでいた釘を持ってきたユウナに問われ、受け取る手が止まった。
     急遽、学院祭で演劇をする運びになったⅦ組に例外として大道具係を買って出たクロウは、舞台に飾る背景をペンキで描いていた。
    「だから、先月一緒にチョコ作ったじゃないですか。アレのお返しですよ」
    「いや、リィンには俺が作ったなんて言ってねえし」
    「でも、クロウさんのチョコを食べた教官、本当に嬉しそうだったから気がついてると思いますよ? それに、貰いっぱなしにするような人でもないですし」
     納得のいっていない彼女はそのまま劇の予行練習のため、退室していった。
    「なあ、休憩しないか」
     まだ温かい缶コーヒーを持ってきたリィンとプルタブをあける。
    「もしかしなくてもお前、飲み物配り歩いてんのか」
    「生徒の自主性に任せたいとかで、教官は手伝えないんだ。これくらいはしてやりたくて」
    「ったく、お前らしいよ」
     肩を小突いたクロウに照れているらしいリィンとしばしの休息をとった。
    「その、クロウ」
     飲みかけの缶を揺らしていたリィンが顔をあげる。
    「先月のお返しだ。クロウ 847

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/Ⅳ後/兄貴分と教官と俺
    「今度はあの屋台の串焼きが食べたい」
    「おい待て。あの長蛇の列に並べってことか?」
     クロウの指差した先には長々とした列があった。最近ジュライで話題になっている屋台だ。串に刺さった肉にシーソルトがよく合う。
     スタークは笑みを深めて頷いた。
    「敗者は勝者の言うことを聞く、だよね。クロウ兄ちゃん」
     歯噛みしつつ屋台へ向かったクロウを心配そうに見送るリィンと近場のベンチに腰掛けた。遠くに見える港からの雑音や、カモメの声が聞こえる。
    「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、リィン教官。それよりどうでした。ジュライは」
    「ああ。クロウの育った街に来ているんだと思うとなんだか不思議な感覚だよ」
    「今はもう、昔の面影なんてほとんどないですけどね」
     眉を下げた彼は何も言わなかった。
    「――今でも、あのときクロウ兄ちゃんを引き止めていたら何かが変わったんじゃないかって思うんです。教官が陽霊窟で引き留めたみたいに」
     分かりやすく驚いている彼に、兄貴分の絆されてしまった理由を見つけた。
    「ユウナたちから聞きました。俺もあの日行かないでって言っていたらなんて、今さらですけど」
    「どうだろうな」
     ゆった 847

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/創後
    側にいるからできること
    「うん、やっぱりクロウのフィッシュバーガーは美味しいな」
     両手で包んだバーガーを頬張ったリィンが破顔する。フライドポテトを齧っていたクロウはその幸せそうな顔を眺めながら、自身もバーガーへ手を伸ばした。こうして彼と食卓を囲むようになって随分経つ。
     休養日の昼下がり。恋人と向かい合い、久方ぶりの故郷の味に舌鼓を打つのだった。
    「魚以外の材料、用意してくれてありがとう」
     使った皿を洗うリィンは上機嫌だった。彼から受け取った皿の水気を拭き取り、棚へ戻していく。料理をしなかったほうが皿を洗う、いつのまにか決まった分担だ。
    「そりゃあ、ルセットのリーザさんが今日はまたフィッシュバーガー作られるんですってね、なんてパンを届けにきたら察しないほうが難しいだろ。だから昨日の夜、入念に釣具の点検していたわけね」
    「ああ。ジョゼットさんに頼んで海釣りに。ルセット、クロウの教えたレシピが人気メニューになっているらしいぞ。如水庵から魚を卸してもらうようになったって」
    「らしいな。ラドーのじいさんも言ってたわ。だいたいお前にも教えてやっただろ。ジュライ特製フィッシュバーガーの作り方。自分で作りゃあいいじゃね 844

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/いつかの未来
    不意打ちラブサイン
    「おはよう。さて、ホームルームをはじめようか」
     扉をあけ、Ⅶ組の教室に入ったリィンは当たり前な顔で机に座る銀髪に目を見開いた。
    「おはようございます、リィン教官」
     伊達眼鏡をかけ、生徒らに混じって着席しているクロウがにこやかな笑顔を向けてくる。入り口で固まっているリィンへ手を振ってくる余裕さも見せられ、つい顔をしかめた。
    「なんでクロウがここにいるんだ」
     どうにか無事にホームルームを終え、クロウを廊下へ引っ張り出す。無抵抗についてきた彼は整っていた髪を手櫛で乱した。
    「今日はこっちで頼まれ事があったんだよ。そのついで」
     眼鏡を外してリィンにかけさせたクロウは満足そうな顔をしている。そっちのほうが似合うぜ、なんて口角をあげる男に苛立ちが募った。
    「だとしても、昨日連絡してきたときに教えてくれてもよかっただろう」
    「あのな、察しろ」
    「なにを」
     素直に疑問をぶつけると、渋い紅茶を飲んだような顔になる。長い長いため息を吐き出す彼に毒気が抜かれた。
    「昨日話してたら、お前の顔が見たくなったんだよ。察しろっていうのはそういうこと。それと、明日休みなんだろ。そう言ってたもんな。帝都に宿と 831

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/いつかの未来
    回避不能の会心の一撃
    「クロウ、出たぞ」
     降ってきた声に読んでいた雑誌から目をあげると、ほのかに湯気を纏ったリィンがこちらを見下ろしていた。風呂上がりの湿った髪をしきりにタオルで拭っている。
    「お、リィン今日は風呂長かったな。さてと、俺も入ってくるかね」
     石鹸の香りを腕のなかに閉じ込め、胸一杯に吸い込みそうなところをどうにか思い留まる。伸ばしかけた手で頭を掻き、重い腰をあげた。
    「その、クロウ……」
     くん、と袖を引かれ、風呂場へ向かう足が止められた。クロウの袖を掴んだまま視線を彷徨わせているリィンは、口をひらいては閉じてを繰り返している。
     普段は外に跳ねている横髪は濡れて大人しく、赤く色付いた頬にまつ毛の影が落ちて妙に色気がある。
     シャツから覗く、無防備な喉仏から視線を逸らしているとふたたび袖を引かれた。
    「クロウ、待ってる、から」
     言葉を絞り出すたび頬に赤みが増し、のぼせたような顔になっていく。
     遅々とした思考で、これがリィンからのお誘いだと理解するまですっかり硬直してしまったうえ、渇いて張り付いた喉からは上手く言葉が出てこない。
     くぐり抜けてきた修羅場の数が霞んだ。
     そうこうしているう 818

    甘味。/konpeito

    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/ティナ視点/創、後日談の前
    わたしも貴方も彼の相棒
    「ブリューナク、照射」
    「おっと、今の当たってたらヤバかったな」
     黒の戦術殻から照射された光線を難なく避ける男にふたたび構える。
    「……クラウ=ソラス」
     訓練で精も根も尽きたアルティナはカレイジャスⅡ艦内、総合訓練所の天井を眺めさせられていた。同じく先ほどまで動き回っていたはずのクロウは床にゆったり座っている。
    「貴方は、帝国へ戻ったら、また教官の前からいなくなるんでしょう」
     上がった息が整わないまま言葉を振り絞った。隣に並びたいリィンにも、彼に並ぶこの男にも力が及ばない。悔しさが目尻に浮かんだ。
    「いなくなるって」
    「そうじゃないですか。貴方が一度いなくなって、どれだけあの人が悲しい思いをしたのか、分からない貴方ではないでしょう」
    「そうだよな。お前はずっと、あいつを見てきたんだもんな」
     追憶に浸っているらしい彼が目を細めた。どうにか起き上がり、その顔をじっと睨む。
    「あの人の相棒だというのなら、なぜ側を離れるんですか」
    「なあ知ってるか。あいつ、黄昏が終わった今も、お前さんが直したネックレス大事に持ってるんだよ。お守りみたいにさ」
    「エリン、の、」
    「そ。大事な生徒からもら 812

    さらさ

    MOURNING遅刻大魔王によるすったもんだクロリンがバレンタインデーにくっついて分校全体に知られるまで。ポイピク練習も兼ねてる舌先の魅惑


    「え、え~!?クロウくんにチョコレートあげてないの!?」

     トワの素っ頓狂な声が、第Ⅱ分校の食堂に響き渡った。七耀歴1208年、2月。もうすぐバレンタインデーだ、食堂やら寮のキッチンを貸し切っての菓子作りに女子生徒たちが浮足立っている。去年の同時期と言えばクロスベル解放作戦当日だ、直接参加した訳ではないとは言えど親しみある教官と生徒が参加するともなればムードもそれどころではなかった。実質、今年が初めてのトールズ第Ⅱ分校バレンタインデーである。男子生徒も一部落ち着かない様子ではあるが、それも今更と言ってしまえばそれまでなのだが。ともあれ、青春では割とお約束のイベントが差し迫ったことを踏まえ、生徒たちの押しに負けて食堂にやってきたリィンなのだが。

    「えっと、俺はクロウとは何もないですしチョコレートもあげてませんよ?」

    という言葉で冒頭に戻る。指し手であるミュゼでさえ予想外だったその回答に、誰もが頭を抱えた。この朴念仁め、は共通の認識であるが故に誰も口には出さないが。

    「で、でもでも!リィン教官はクロウさんのこととても好きですよね!?」

    ここでもユウナから容赦ない一 4406