newredwine
REHABILI味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)③味覚を失っている。そう告げると、藍曦臣はすっと表情を『藍宗主』のものへと変え、仔細を、と促してきた。下手に同情するような顔の一つでも見せるのであれば、馬鹿にするなと嘲笑を向けて部屋を辞そうと思っていたのに、と江澄は目を伏せて「言葉のとおりだ」と短く返す。
「気付いたら何の味もしなくなっていた。それ以外に不調はない。医生に見せたが特段理由が見つからないという。挙げ句の果てには休みを長く取れと言われてな。無理だと笑い飛ばして帰した」
「江宗主」
「そうだろう、継ぐものを定めていない以上俺が立つしかないんだ」
そちらとは事情が違う、横目で見やると藍曦臣が目を伏せるのが見える。嫌味をそのまま素直に受け止めるそのさまにまた少しばかり苛立って杯に酒を満たした。
2790「気付いたら何の味もしなくなっていた。それ以外に不調はない。医生に見せたが特段理由が見つからないという。挙げ句の果てには休みを長く取れと言われてな。無理だと笑い飛ばして帰した」
「江宗主」
「そうだろう、継ぐものを定めていない以上俺が立つしかないんだ」
そちらとは事情が違う、横目で見やると藍曦臣が目を伏せるのが見える。嫌味をそのまま素直に受け止めるそのさまにまた少しばかり苛立って杯に酒を満たした。
takami180
DONE曦澄_嫉妬_続き1ワンライで書いた曦澄の続きその1
唇にやわらかく触れるものを感じて、江澄は思わず胸を押し返した。
いきなりで驚いた。まだ、動揺がおさまらないのに、さらに混乱がかぶさってくる。
しかし、「なぜ?」とのぞき込んでくる瞳に正直なところは言えなかった。
「ここでは……」
口をついて出たごまかしに、藍曦臣はうなずいた。
「そうですね。こちらへ」
手を引かれて外廊を行く。
宴の明かりも遠く、星明かりだけでは足元にも届かない。
江澄は向かう先も知らぬまま、ただ男について歩いた。白い背中とひるがえる抹額だけが進むべき目印である。
藍曦臣は客棟のひとつに入ると、暗いままの室内を迷いのない足取りで進んだ。そこが藍曦臣の客室だと江澄が気がついたときには、再びその腕にからめとられていた。
2123いきなりで驚いた。まだ、動揺がおさまらないのに、さらに混乱がかぶさってくる。
しかし、「なぜ?」とのぞき込んでくる瞳に正直なところは言えなかった。
「ここでは……」
口をついて出たごまかしに、藍曦臣はうなずいた。
「そうですね。こちらへ」
手を引かれて外廊を行く。
宴の明かりも遠く、星明かりだけでは足元にも届かない。
江澄は向かう先も知らぬまま、ただ男について歩いた。白い背中とひるがえる抹額だけが進むべき目印である。
藍曦臣は客棟のひとつに入ると、暗いままの室内を迷いのない足取りで進んだ。そこが藍曦臣の客室だと江澄が気がついたときには、再びその腕にからめとられていた。
yuno
SPUR MEMDZS曦澄ネタメモ。バツイチ同士が道侶になる話の覚書。曦はお見合い結婚するも子が生まれず離縁、澄は恋い慕われての縁談結婚で二児(姉弟)に恵まれるも最愛の妻を邪宗の呪いで失い、という経緯。
江澄に幸せになってほしくて、何も諦めてほしくないなと思ったらこうなりました。
双方の妻となった仙子やお子さんは名無しのままで押し通す所存ですが、特に娘ちゃんがキャラ立ちしている気がする。 3638
takami180
DONE曦澄ワンドロワンライ第十回お題「嫉妬」
本編終了後、付き合ってない曦澄。
兄上閉関明け数年後のことです。
(モブが出ます)
その年、清談会は金鱗台で開かれた。
各世家の宗主たちが集まり、交流を深める中、江澄はひとり杯をかたむける。視線の先にあるのは沢蕪君の姿である。
藍家宗主は二人の宗主とその娘に囲まれて、にこやかに話を交わしている。その手には杯があるが、彼が金丹で酒精を消していることは知っていた。
いまや四大世家の宗主で妻帯している者はいない。金家宗主は若年に過ぎ、見合いに失敗続きの江家宗主と、そも見合いに応じない聶家宗主となれば、己の娘を売り込む先は自然としぼられる。沢蕪君と称される彼の人には気後れしそうなものではあるが、閉閑を経て、彼はふしぎと気安くなっていた。
江澄は盃を重ねた。
人に囲まれる沢蕪君をながめていても具合が悪くなるだけであるとわかっていたが、ちらちらと様子をうかがうことをやめられない。
2862各世家の宗主たちが集まり、交流を深める中、江澄はひとり杯をかたむける。視線の先にあるのは沢蕪君の姿である。
藍家宗主は二人の宗主とその娘に囲まれて、にこやかに話を交わしている。その手には杯があるが、彼が金丹で酒精を消していることは知っていた。
いまや四大世家の宗主で妻帯している者はいない。金家宗主は若年に過ぎ、見合いに失敗続きの江家宗主と、そも見合いに応じない聶家宗主となれば、己の娘を売り込む先は自然としぼられる。沢蕪君と称される彼の人には気後れしそうなものではあるが、閉閑を経て、彼はふしぎと気安くなっていた。
江澄は盃を重ねた。
人に囲まれる沢蕪君をながめていても具合が悪くなるだけであるとわかっていたが、ちらちらと様子をうかがうことをやめられない。
澪標(みおつくし)
DONEひとりで先にいってしまった江澄を、魏無羨が見送る話 ④※死ネタです
※魏無羨目線
※根底は曦澄だけど曦に妻子がいます(名前はありません)
※魏無羨がやっと江澄を理解する話でもある
※もうちょっと続く 6
澪標(みおつくし)
DONEひとりで先にいってしまった江澄を、魏無羨が見送る話 ③※死ネタです
※魏無羨目線
※根底に曦澄、しかしハッピーではいられなかった時空
※江澄の死に際の描写があります、痛そうなのが苦手な方はご注意を
※まだまだ続くよ 7
newredwine
REHABILI味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)②辿り着いた先は程々に栄えている様子の店構えで、藍曦臣の後について足を踏み入れた江澄は宿の主人に二階部分の人払いと口止めを命じた。階下は地元の者や商いで訪れた者が多いようで賑わっている。彼らの盛り上がりに水を刺さぬよう、せいぜい飲ませて正当な対価を得ろ、と口端を上げれば、宿の主人もからりと笑って心得たと頷いた。二家の師弟達にもそれぞれの部屋を用意し、酒や肴を並べ、一番奥の角の部屋を藍曦臣と江澄の為に素早く整え、深く一礼する。
「御用がありましたらお声掛けください、それまでは控えさせていただきます」
それだけ口にして戸を閉めた主人に、藍曦臣が微笑んだ。
「物分かりの良い主人だね」
江澄の吐いた血で汚れた衣を脱ぎ、常よりは軽装を纏っている藍曦臣が見慣れなくて、江澄は視線を逸らせた。卓に並んだ酒と肴は江澄にとって見慣れたものが多かったが、もとより藍氏の滞在を知らされていたからか、そのうちのいくつかは青菜を塩で炒めただけのものやあっさりと煮ただけの野菜が並べられていた。茶の瓶は素朴ではあるが手入れがされていて、配慮も行き届いている。確かに良い店だなと鼻を鳴らしながら江澄が卓の前に座ろうとすると、何故か藍曦臣にそれを制された。
2924「御用がありましたらお声掛けください、それまでは控えさせていただきます」
それだけ口にして戸を閉めた主人に、藍曦臣が微笑んだ。
「物分かりの良い主人だね」
江澄の吐いた血で汚れた衣を脱ぎ、常よりは軽装を纏っている藍曦臣が見慣れなくて、江澄は視線を逸らせた。卓に並んだ酒と肴は江澄にとって見慣れたものが多かったが、もとより藍氏の滞在を知らされていたからか、そのうちのいくつかは青菜を塩で炒めただけのものやあっさりと煮ただけの野菜が並べられていた。茶の瓶は素朴ではあるが手入れがされていて、配慮も行き届いている。確かに良い店だなと鼻を鳴らしながら江澄が卓の前に座ろうとすると、何故か藍曦臣にそれを制された。
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PROGRESS半獣パロ曦澄交流会で公開予定だけど進まない~~~~
今日この日。江澄は顔も知らない相手のところへ嫁ぎに行く。
真っ赤な花嫁衣装に身を包み、漆黒の髪を金で出来た赤い宝石のついた簪で飾り立て、江澄は生まれ育った蓮花塢を出ていく 。
嫁ぎ先は、姑蘇。
深雲不知処。
お相手は、最も誉れ高い龍の一族、姑蘇藍氏。
その若宗主、藍曦臣に、今日この日をもって、江澄は嫁に行く。
事の始まりは数カ月前、一通の文が届いたことだった。
***
その日、いつものように門弟達と鍛錬に励んでいた江澄は、急に宗主である父、江楓眠に呼び出された。
普段より温厚で、怒ることなど滅多にない父ではあるが、急な呼び出しに江澄は何事かと緊張していた。急ぎ足で廊下を進み、父の執務室の前に立つ。一度深呼吸してから扉を二度ほど叩いた。
5709真っ赤な花嫁衣装に身を包み、漆黒の髪を金で出来た赤い宝石のついた簪で飾り立て、江澄は生まれ育った蓮花塢を出ていく 。
嫁ぎ先は、姑蘇。
深雲不知処。
お相手は、最も誉れ高い龍の一族、姑蘇藍氏。
その若宗主、藍曦臣に、今日この日をもって、江澄は嫁に行く。
事の始まりは数カ月前、一通の文が届いたことだった。
***
その日、いつものように門弟達と鍛錬に励んでいた江澄は、急に宗主である父、江楓眠に呼び出された。
普段より温厚で、怒ることなど滅多にない父ではあるが、急な呼び出しに江澄は何事かと緊張していた。急ぎ足で廊下を進み、父の執務室の前に立つ。一度深呼吸してから扉を二度ほど叩いた。
takami180
DONE曦澄ワンドロワンライ第九回お題「盛夏」(全10ページ)(1/3)
+5min
本編終了後、付き合ってる曦澄。
マロにいただいたお題「イチャつく忘羨を羨ましく思う、本当はイチャつきたい澄」も一緒に。
江澄はうんざりとして、目の前の二人をながめた。
藍忘機は魏無羨を膝に乗せ、彼の背を支えつつ、匙を片手にしている。机上には果物を盛りつけた器がいくつも並んで、これを用意したのが藍忘機だというだけでもめまいがしそうである。
「んー、冷やした瓜はおいしいな」
「よかった」
「なあ、藍湛。次は西瓜が食べたい」
「うん」
藍忘機が匙で西瓜を運ぶ。魏無羨はそれをぱくりと食べる。
見ているだけで胸やけがしそうだ。
「この暑苦しい中、よくそんなことをやっていられるな」
夏、真っ盛り。しかも、ここ三日ほど日照りが続く中で、信じられない光景である。
「えー? 藍湛とくっついているのは暑くないし?」
「ああ」
藍忘機から、文句があるならさっさと出ていけと言わんばかりの視線を向けられて、江澄は静室に
2970藍忘機は魏無羨を膝に乗せ、彼の背を支えつつ、匙を片手にしている。机上には果物を盛りつけた器がいくつも並んで、これを用意したのが藍忘機だというだけでもめまいがしそうである。
「んー、冷やした瓜はおいしいな」
「よかった」
「なあ、藍湛。次は西瓜が食べたい」
「うん」
藍忘機が匙で西瓜を運ぶ。魏無羨はそれをぱくりと食べる。
見ているだけで胸やけがしそうだ。
「この暑苦しい中、よくそんなことをやっていられるな」
夏、真っ盛り。しかも、ここ三日ほど日照りが続く中で、信じられない光景である。
「えー? 藍湛とくっついているのは暑くないし?」
「ああ」
藍忘機から、文句があるならさっさと出ていけと言わんばかりの視線を向けられて、江澄は静室に
takami180
DONE曦澄_微衷マロにいただいたお題四つで書きました。
「口づけで歯が当たっちゃう曦澄」
「振られたと思う澄と逃すつもりはない兄上」
「素直になる術をかけられる澄」
「嫉妬した兄上の袖に隠される澄」
暗い湖面が、満月から落ちる光に輝いている。
風が、影となった蓮のつぼみを揺らす。
江澄は露台に座り込み、酒の甕をかたわらに盃を傾けた。
その隣には白い校服の男が座る。彼は盆から茶碗を取り、蒸した茶を口にする。
こんなふうに、藍曦臣となにをするでもなく過ごすようになったのはいつからだろう。
思い返せば、きっかけは自分だったと江澄は笑みをこぼした。
一年よりも前のこと。寒室で宗主としての語らいを終えた後、少しばかり休みたくなって、常の倍以上の時間をかけて茶を飲んだ。藍曦臣はそんな江澄をなにも問わずに受け入れてくれた。
江澄はちらりと隣の男を盗み見た。
背筋を伸ばし、湖をながめる姿は美しい。
それから機会があると、こうして二人で過ごすようになった。この時を江澄は好ましく感じていたし、できるだけ長く続けたかった。
8500風が、影となった蓮のつぼみを揺らす。
江澄は露台に座り込み、酒の甕をかたわらに盃を傾けた。
その隣には白い校服の男が座る。彼は盆から茶碗を取り、蒸した茶を口にする。
こんなふうに、藍曦臣となにをするでもなく過ごすようになったのはいつからだろう。
思い返せば、きっかけは自分だったと江澄は笑みをこぼした。
一年よりも前のこと。寒室で宗主としての語らいを終えた後、少しばかり休みたくなって、常の倍以上の時間をかけて茶を飲んだ。藍曦臣はそんな江澄をなにも問わずに受け入れてくれた。
江澄はちらりと隣の男を盗み見た。
背筋を伸ばし、湖をながめる姿は美しい。
それから機会があると、こうして二人で過ごすようになった。この時を江澄は好ましく感じていたし、できるだけ長く続けたかった。
sgm
DONEpixivに掲載しているR18有版は一時的に非公開にしているので、交流会時に公開してた全年齢版を再公開。当時のままなので微修正前。本編終了後。Qネタ込み。ネタバレ配慮なし。
夜狩で怪我してプチ諍い曦澄。藍曦臣が父に似ているのでは?と悩む江澄。 36
不知火 螢。
DONE曦澄ワンドロのお題を借りました。すごく遅刻だし、なんなら4時間くらい書いてたし色々アウトですが、せっかくなので。
久しぶりに文章を書く時間が取れたので良かった。
難産だったけど。
悲しめな感じかもしれませんが、最後は光だと信じてるので。 12
takami180
PROGRESS恋綴4-8おや、江澄の様子が……?
藍曦臣は指先で江澄の前髪に触れた。
はっきりと影の差した顔色は、よりいっそう悪くなったように見える。
求められて拒否ができなかった自分を心中で呪う。まったく情けない。
江澄の言動には不可解なことが多かった。普段であれば照れて言わないようなことでも平然と口に出していた。
あの日の因果とは思ったが、それでも彼が明日の仕事を「平気だから」と言うだろうか。
藍曦臣は身なりを整えると、外廊へ出た。
ここは蓮花塢である。まだ、家僕も起きている時刻であった。藍曦臣を見た家僕はひっくり返りそうになりながらも、素直に藍曦臣の求めに応じて江澄のための湯を用意してくれた。それから、気をつかってか夜食にと包子まで持ってきてくれた。
3903はっきりと影の差した顔色は、よりいっそう悪くなったように見える。
求められて拒否ができなかった自分を心中で呪う。まったく情けない。
江澄の言動には不可解なことが多かった。普段であれば照れて言わないようなことでも平然と口に出していた。
あの日の因果とは思ったが、それでも彼が明日の仕事を「平気だから」と言うだろうか。
藍曦臣は身なりを整えると、外廊へ出た。
ここは蓮花塢である。まだ、家僕も起きている時刻であった。藍曦臣を見た家僕はひっくり返りそうになりながらも、素直に藍曦臣の求めに応じて江澄のための湯を用意してくれた。それから、気をつかってか夜食にと包子まで持ってきてくれた。
takami180
PROGRESS恋綴4-6兄上のターン。
藍啓仁は長く、それはもう抹額ほどの長さもあるのではないかと思うほど長く、息を吐いた。沈鬱な表情で目を閉じる様は、まるで嵐の後の柳である。
藍曦臣はこの叔父に道侶を迎えたいと申し出たところであった。相手の名前も伝えていないが、藍啓仁はその正体を承知しているかのように首を振った。
「とても承知していただける方とは思えぬが、返事はいただいたのか」
藍曦臣は軽い驚きとともに答えた。
「まだです。ですが、叔父上は私の気持ちをご存知でいらっしゃるのですか」
「見ていればわかる。江宗主であろう」
そういうものかと背後に控える藍忘機と魏無羨を振り返ると、二人ともがうなずいた。どうやらそういうものであるらしい。
「それで、お前はどうするつもりだ」
2717藍曦臣はこの叔父に道侶を迎えたいと申し出たところであった。相手の名前も伝えていないが、藍啓仁はその正体を承知しているかのように首を振った。
「とても承知していただける方とは思えぬが、返事はいただいたのか」
藍曦臣は軽い驚きとともに答えた。
「まだです。ですが、叔父上は私の気持ちをご存知でいらっしゃるのですか」
「見ていればわかる。江宗主であろう」
そういうものかと背後に控える藍忘機と魏無羨を振り返ると、二人ともがうなずいた。どうやらそういうものであるらしい。
「それで、お前はどうするつもりだ」
sono_39anomd
MOURNINGpixiv非公開中なのでせっかくなのでこっちでも。曦澄現代AUでDom/sub小説(r18)です。社会人×社会人
どうしてもスケベさせたいけど、まだ原作読み終えてないし、当時ドラマ見ながら
もだもだしながら、現パロならいいかな?と書いていたお話。
書きたいとこだけ!と思ったら長くなった。そんなどむさぶしてなかった。反省
もしよければ
18歳以上ですか? yes/no 17796
newredwine
REHABILI正確には【味覚を失った江澄が藍曦臣の唾液を介してのみ味を復活させられるのでそれをどうにかこうにかしてリハビリしていこうとする話】です。途中で終わってるやつ。味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)①味がしない、と江澄が気付いたのは違和感を覚えてから二月ほど経った頃だった。
はじめは熱さと冷たさ以外を感じないとふと思ったのがきっかけだった。けれど仕事に追われてかき込むように食事を済ませるかいっそ食べずにいるかという状況が立て続いていたせいだと思っていた。
次に夜狩に出た先で姑蘇藍氏の師弟を率いた魏無羨と遭遇し、諸々あって野営することになって魏無羨が作った真っ赤な煮込み料理に周囲が悶絶するなか、見た目ほどのものではないと胃の中に流し込んだ江澄は、その理由を単に自分が昔から食べ慣れていたからだと思っていた。不味いと魏無羨を殴りつけることは忘れなかったし翌日多少腹の具合も宜しくなかったが、それでもそういえば刺激臭は酷かったがそんなに辛かっただろうかと首を捻りかけ、立て続いた怪異の報告に瑣末なことは忘れた。
2333はじめは熱さと冷たさ以外を感じないとふと思ったのがきっかけだった。けれど仕事に追われてかき込むように食事を済ませるかいっそ食べずにいるかという状況が立て続いていたせいだと思っていた。
次に夜狩に出た先で姑蘇藍氏の師弟を率いた魏無羨と遭遇し、諸々あって野営することになって魏無羨が作った真っ赤な煮込み料理に周囲が悶絶するなか、見た目ほどのものではないと胃の中に流し込んだ江澄は、その理由を単に自分が昔から食べ慣れていたからだと思っていた。不味いと魏無羨を殴りつけることは忘れなかったし翌日多少腹の具合も宜しくなかったが、それでもそういえば刺激臭は酷かったがそんなに辛かっただろうかと首を捻りかけ、立て続いた怪異の報告に瑣末なことは忘れた。
takami180
PROGRESS恋綴4-5羨哥哥はお怒りのご様子。
「阿澄」と、呼びかけてくれる声はいつもやわらかく、細やかな気遣いにあふれ、まるごと包み込んでくれた。まだ昨日のことだ。思い出すのはしかたない。
江澄は振り切るようにして視線を外すと机についた。
ひとまず、向家に文をしたためる。向張豪を牽制しておかなければいけない。
――ご息女を蓮花塢で保護いたしました。ご息女は旅の疲れによるものか、ご体調がすぐれず、数日の間はご滞在いただかなくてはならない状況です。ご心配のこととは存じますが、再度ご連絡を差し上げますので、それまでお待ちいただけないでしょうか。
夕刻に遣いを出したというのに、翌日の昼前にはもう返事があった。
――お心遣い、どのように感謝申し上げたらよいかわかりません。ありがとうございます。本来はすぐにでもおうかがいするべきでしょうが、近隣の村で流浪屍が発生したため、夜狩を行わなくてはいけません。お言葉に甘えて、ご連絡をお待ちしたく存じます。
3687江澄は振り切るようにして視線を外すと机についた。
ひとまず、向家に文をしたためる。向張豪を牽制しておかなければいけない。
――ご息女を蓮花塢で保護いたしました。ご息女は旅の疲れによるものか、ご体調がすぐれず、数日の間はご滞在いただかなくてはならない状況です。ご心配のこととは存じますが、再度ご連絡を差し上げますので、それまでお待ちいただけないでしょうか。
夕刻に遣いを出したというのに、翌日の昼前にはもう返事があった。
――お心遣い、どのように感謝申し上げたらよいかわかりません。ありがとうございます。本来はすぐにでもおうかがいするべきでしょうが、近隣の村で流浪屍が発生したため、夜狩を行わなくてはいけません。お言葉に甘えて、ご連絡をお待ちしたく存じます。
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PROGRESS16年かけてくっつく曦澄4話目。あの日の約束を持ち出す曦臣と、押しに弱い江澄。
曦澄④「雲夢の蓮の景色は、どんな絶景にも負けないと魏公子が自慢げに話しているのを聞いて、是非見てみたいと思っていました」
「……そうですか」
「彼はよく雲夢のことを話してくれます。名所や銘菓の話から、幼少期に貴方と二人で壁に描いた落書きの話、師姉殿の作ってくれたスープの話まで……」
「なっ…それは失礼した。アレは非常識なやつだから、話すべきこととそうじゃないのとの区別がつかんのだ」
魏無羨のやつ!と叫び出したくなるのをやっとの事で堪えた。蓮花塢を褒めるのはいいとしても、過去のあれやそれをよりによって藍曦臣に話しているとは。幼き日の話をされる恥ずかしさはもちろんあったが、それ以上に興味のない話でも無碍にすることもできずに聞いたであろう藍曦臣の心情を思えば申し訳なくなった。
4749「……そうですか」
「彼はよく雲夢のことを話してくれます。名所や銘菓の話から、幼少期に貴方と二人で壁に描いた落書きの話、師姉殿の作ってくれたスープの話まで……」
「なっ…それは失礼した。アレは非常識なやつだから、話すべきこととそうじゃないのとの区別がつかんのだ」
魏無羨のやつ!と叫び出したくなるのをやっとの事で堪えた。蓮花塢を褒めるのはいいとしても、過去のあれやそれをよりによって藍曦臣に話しているとは。幼き日の話をされる恥ずかしさはもちろんあったが、それ以上に興味のない話でも無碍にすることもできずに聞いたであろう藍曦臣の心情を思えば申し訳なくなった。
takami180
PROGRESS恋綴4-4オリキャラが出はじめました。
その朝、蓮花塢の気温はぐっと下がった。
秋の深まりを思わせる朝もやの中を藍曦臣は朔月に乗って空に上がった。
江澄はそれを自室の露台から見送った。家僕が卯の刻になるや否や起こしに来てくれなければ、その姿も見られなかっただろう。
別れのあいさつはできなかったがきっとこれでよかったのだ。
どういう顔をして会えばよいのか、今になってもわからない。もし、藍曦臣の目が江澄をあきらめてしまっていたら、まともに立っていられるかどうか。
江澄は牀榻に戻ることなく、再び家僕が様子を見に来るまで露台で空を見上げていた。
そのあとはいつもどおり、支度を整えて政務についた。周囲の者は何かを察して遠巻きにしていたが、江澄は努めて平常通りにふるまった。昼を越えるころにはすっかりいつも通りに戻っていた。
2643秋の深まりを思わせる朝もやの中を藍曦臣は朔月に乗って空に上がった。
江澄はそれを自室の露台から見送った。家僕が卯の刻になるや否や起こしに来てくれなければ、その姿も見られなかっただろう。
別れのあいさつはできなかったがきっとこれでよかったのだ。
どういう顔をして会えばよいのか、今になってもわからない。もし、藍曦臣の目が江澄をあきらめてしまっていたら、まともに立っていられるかどうか。
江澄は牀榻に戻ることなく、再び家僕が様子を見に来るまで露台で空を見上げていた。
そのあとはいつもどおり、支度を整えて政務についた。周囲の者は何かを察して遠巻きにしていたが、江澄は努めて平常通りにふるまった。昼を越えるころにはすっかりいつも通りに戻っていた。
takami180
PROGRESS恋綴4-3注意書き忘れてましたが、4のテーマには跡継と妻帯についてが含まれます。
ご注意ください。
なお、話の内容は徹頭徹尾曦澄です。
夕刻の冷たい風が江澄の頬をなでた。隣にあるはずのぬくもりを求めて、手がパタパタと敷布の上をさまよう。
「らん、ふぁん?」
かすれ声が出た。しかし、いつもなら応えてくれるやさしい声はない。何にも触れなかった指先を引っ込めて、江澄は目を開けた。
帳子が風に揺れている。
その向こう、露台に白い背中があった。何を考えているのか、真剣な面持ちで蓮花湖を見下ろしている。
江澄は素肌の上に掛布を羽織って、「藍渙」と名を呼んだ。
「阿澄」
振り返った藍曦臣はいつもの笑顔を浮かべて、素早く牀榻へと戻ってきた。
「なにをしていたんだ」
「湖を見ていました」
彼は牀榻に腰かけると、江澄の頬をなでた。手のひらはあたたかく、冷えた風の感触を消していく。
2309「らん、ふぁん?」
かすれ声が出た。しかし、いつもなら応えてくれるやさしい声はない。何にも触れなかった指先を引っ込めて、江澄は目を開けた。
帳子が風に揺れている。
その向こう、露台に白い背中があった。何を考えているのか、真剣な面持ちで蓮花湖を見下ろしている。
江澄は素肌の上に掛布を羽織って、「藍渙」と名を呼んだ。
「阿澄」
振り返った藍曦臣はいつもの笑顔を浮かべて、素早く牀榻へと戻ってきた。
「なにをしていたんだ」
「湖を見ていました」
彼は牀榻に腰かけると、江澄の頬をなでた。手のひらはあたたかく、冷えた風の感触を消していく。
takami180
PROGRESS恋綴4-2ひたすら甘ったるい
まだ、体の芯に熱がくすぶっている。
江澄は唇を薄く開けて、小さく息をこぼした。
(だからだめだと言ったのに)
心中で藍曦臣に恨み言を投げつけつつ、ふと彼はひとりで何をしているのかと気になった。客坊にはなにもない。雲深不知処とは違って蔵書も少ない。「気にしないで行っておいで」と笑顔で送り出されたが、退屈させていないだろうか。
江澄の憂いはそのまま顔に表れて、眉根がギュと寄る。
そこへ通されたのが向張豪だった。
江澄はさっと立ち上がるとしかめ面のまま拱手した。
「ようこそおいでくださった、向宗主」
「こちらこそ、急に申し訳ない」
向家は蓮花塢の東、川の北の地域を治める世家である。宗主の向張豪は六十歳に届く年だが、威張ったところはなく、年下の江澄にも常に丁寧な態度を取った。
2328江澄は唇を薄く開けて、小さく息をこぼした。
(だからだめだと言ったのに)
心中で藍曦臣に恨み言を投げつけつつ、ふと彼はひとりで何をしているのかと気になった。客坊にはなにもない。雲深不知処とは違って蔵書も少ない。「気にしないで行っておいで」と笑顔で送り出されたが、退屈させていないだろうか。
江澄の憂いはそのまま顔に表れて、眉根がギュと寄る。
そこへ通されたのが向張豪だった。
江澄はさっと立ち上がるとしかめ面のまま拱手した。
「ようこそおいでくださった、向宗主」
「こちらこそ、急に申し訳ない」
向家は蓮花塢の東、川の北の地域を治める世家である。宗主の向張豪は六十歳に届く年だが、威張ったところはなく、年下の江澄にも常に丁寧な態度を取った。
mahoy_asa
PROGRESS16年かけてくっつく曦澄第3話時は進んで……本編終了後、蓮花塢が襲われてからは16年くらい経った頃。
曦澄③「道侶の契りを結ぼうと思ってるんだ」
師兄からの報告を受けたのは、雲深不知処で開かれた清談会の最終日だった。会も終わり、蓮花塢への帰路に着こうとしたところで、珍しく真剣な顔をした魏無羨に呼び止められた。あまりの仰々しさに付き添いに来ていた師弟たちを下げたところで伝えられたのが先の言葉。
そもそも数日前、雲深不知処に到着した初日に声をかけられた時から、魏無羨が何かを言いたそうにしていたことには気が付いていた。気が付いていながら無視をしたのは、未だ微妙に残るわだかまりのせいだった。
彼が一度死んでから十三年以上の時が流れた。
顔を見るのがも嫌だった頃までの恨みはもうない。けれど今更どう声をかけてもいいかわからない。だから、なるべく関わらずにいたほうがきっと互いのためになる。それが、観音堂での決着がついた後に江晩吟がひっそりと下した結論だ。そんな気持ちを知ってか知らずか、魏無羨の方もこれまでの数ヶ月は必要以上に江晩吟に関わってこなかった。
6903師兄からの報告を受けたのは、雲深不知処で開かれた清談会の最終日だった。会も終わり、蓮花塢への帰路に着こうとしたところで、珍しく真剣な顔をした魏無羨に呼び止められた。あまりの仰々しさに付き添いに来ていた師弟たちを下げたところで伝えられたのが先の言葉。
そもそも数日前、雲深不知処に到着した初日に声をかけられた時から、魏無羨が何かを言いたそうにしていたことには気が付いていた。気が付いていながら無視をしたのは、未だ微妙に残るわだかまりのせいだった。
彼が一度死んでから十三年以上の時が流れた。
顔を見るのがも嫌だった頃までの恨みはもうない。けれど今更どう声をかけてもいいかわからない。だから、なるべく関わらずにいたほうがきっと互いのためになる。それが、観音堂での決着がついた後に江晩吟がひっそりと下した結論だ。そんな気持ちを知ってか知らずか、魏無羨の方もこれまでの数ヶ月は必要以上に江晩吟に関わってこなかった。