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    みしま

    @mshmam323

    書いたもの倉庫

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    みしま

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    マシュマロリクエストより。TF2で「モナークとパイロットの話」。いつもどおり独自設定&解釈過多。リクエストありがとうございました!

    #タイタンフォール2
    titanfall2
    #titanfall2

    ソングバーズ・オーバード コクピット内の敵パイロットを掌握し、ハッチを貫通した手をノーススタータイタンから引き抜く。敵パイロットはブーツから血を滴らせているが、私のせいではない。白兵戦の最中に負傷したのだ。
     現在地は、IMC傘下の某企業が運営するロボット工場。戦場と化してなお、生産ラインは稼働し続けている。おそらくは人間の管理者が、あらゆる緊急時プロトコルを無視して逃げ出したのであろう。残された機械を作る機械たちは粛々と動き、ライン上で何らかの障害が発生しても、別のラインと合流させて機械歩兵を組み上げている。その優れた制御プログラムには感心するところだ。そして幸いなことに、完成品は搬出倉庫へ送られるばかりで、起動してこちらを攻撃してくることはない。
     私は敵パイロットから手を離した。その身体は人形のようにくしゃりと床へ落下し、やがて緩慢な動作でヘルメットを取り払った。私が構えるオートライフルの銃口を前に、こちらを見上げる。
     男の目には、暗い赤紫色のモナークタイタンが映っていることだろう。バンガード級と似て非なるシャーシ、王冠を戴いた女頭鳥身のノーズアートと青白く光るコア。彼は私を睨みつけ、血液混じりの唾液を吐き捨てた。
     そこへ、ジャンプキットの短い噴射音とともにひとりのパイロットが舞い降りてきた。六フィート半ばの長身に、それを包む黒のパイロットスーツとヘビー級装備、肩のプロテクターには赤十字が描かれている。私のパイロット、TACネームをヴァローナという。
     敵パイロットはピストルベルトに手を伸ばした。せめて一矢報いようとしたのであろうが、愚策にもほどがある。私のパイロットが許すはずもなく、銃把に届く前にその手を撃ち抜いた。
     敵パイロットは新たに増えた傷口に身悶えしている。装備品には所属を示す徽章は確認できない。残骸と化したノーススターも、火矢を模したノーズアート以外にそれらしき模様も文字も見当たらなかった。また、彼らの攻撃目標は勝利への貢献より、もっぱら私のパイロットにあった。以上の点から、IMCに臨時で雇われたフリーランスのバウンティハンターであると推測される。
     そのことをパイロットに伝えるべきだろうか。私は検討し、すぐに撤回した。相手が誰であれ、ヴァローナにとっては些末事だ。
     ヴァローナは敵パイロットの元へ歩み寄り、相手を羽交い締めにした。体重の乗った膝頭の下で、男は苦痛と罵詈雑言をわめきながらもがいている。パイロットはため息をつき、落ち着き払った口調で言った。
    「これぐらいでギャアギャア言わないでください。まだ死にはしませんよ」
     しかし相手の耳に届いているかは怪しい。ヴァローナはこちらを振り返ると、私の肩部パーツに注目した。攻撃を受け、ヒートシンクの一部が破損している。排熱効率は落ちるが、任務執行の可否を左右するほどのものではない。パイロットへの報告優先度は低レベルに分類していた。
     ヘルメットの下の唇が、動きだけでスラングを吐き捨てる。
    「……かわいそうに。大丈夫か、シーリン?」
    《はい。損傷は軽微、任務継続に問題なし》
    「了解した。きみは先にヒヤマたちと合流して、援護に当たれ」
    《ラジャー》
    「くれぐれも無茶はしないでくれ。危ないと思ったらすぐに後退を。わたしもこいつの相手が終わったら、すぐに向かう」
    《了解。あなたも気を付けてください、パイロット》
     パイロットが頷いたのを確認し、私は方向転換した。無線が敵パイロットの悲鳴とヴァローナの鼻歌を拾う。何も問題はないようなので、私は命令に従ってチームメイトらの元へと向かった。

     ドアベルを鳴らし、ヴァローナはパブへと足を踏み入れた。その肩に下がったダッフルバッグの中から、私は周囲の状況を観察した。バッグに空けられた穴は小さく、視野が十分に確保できているとは言えないがやむを得ない。いま私のコアが収納されているシアキットは、見るものが見れば一発でタイタンのものと判別でき、ひいては持ち主がパイロットだと知られてしまうからだ。この近辺で騒ぎになる可能性は低いが、リスクを抑えるに越したことはない。
     店内にまばらに座る客のほとんどは、くたびれたつなぎと防水ブーツを身につけた港湾労働者たちだ。彼らの向こう、カウンターから中年の店主兼バーテンダーが胡乱げに振り返り、しかし入ってきたのが既知の人物と見るや表情を一転させた。
    「いらっしゃい! 今日の貧乏くじはあんたか、珍しい」
    「こんにちは。すみません、いつもご迷惑をおかけして」
    「いいってことよ。先生には世話になったし、それにあんたらのおかげでこの辺も潤ってんだからな」
     店主がヴァローナを〝先生〟と呼ぶのは、パイロットと衛生兵を兼任しているからというだけではない。彼の兄弟の命の恩人でもあるからだ。港での作業中に事故で大怪我を負い、たまたま現場に居合わせた私のパイロットが応急処置を施したことで、九死に一生を得た。
    「しかし先生も大変だな、飲んだくれのメンバーにボスの面倒まで。パイロット業より診療所でも開いたほうが楽できるんじゃねえか?」
    「治すより殺す方が簡単ですよ」
     店主は一瞬驚いた表情を浮かべ、そして「違えねえ!」と快活に笑った。
     ヴァローナは奥の席をのぞき込み、目的の人物を見つけた。まだ午後も日が高いというのに、完全にでき上った様子の男女が腰かけている。男は酒瓶を握ったままテーブルに突っ伏し、女は一人で何事かしゃべり続けている。
    「もう一人は?」
    「ついさっきまでいたんだが。便所じゃないかね?」
     パイロットは店主へ目礼し、長身を少しかがめて天井から吊り下がった電灯を避けながら彼らの元へと向かった。
    「……そんであたしはグレネードをお返ししてやったのよ……あ、ヴァローナァ! この野郎、遅いぞ!」オレンジのメッシュが入った黒髪の女、パイロット・ヒヤマがヴァローナに気づき、そしてカウンターに手を振った。「マァスター、こいつにエンジェルウイスキー!」
    「結構です」とヴァローナ。
    「じゃああたしに!」
    「水を」
     ヒヤマが不満げにヴァローナを小突くが、頑強な体はびくともしない。店主は肩をすくめ、サーブロボットに水のボトルを手渡した。
     ヴァローナは男の肩を掴み、軽く揺さぶった。
    「ミスター・バーカー、起きてください」
     司令官――ロバート〝バーカー〟タウベはまるで起きる気配がない。肩を叩き、今度は少し強めに揺さぶったりしてみたものの、呻くばかりで効果は薄い。
     パイロットはしっかりと握られた酒瓶を彼の手から引き剥がした。それをくるりと逆さにして、無防備な頭へ中身をぶちまける。するとようやっと、バーカー司令官は情けない声を上げて飛び起きた。
    「おいヴァローナ、何しやがる!」
     乱れ髪から琥珀色を滴らせているバーカー司令官。ヒヤマは大笑い。そしてパイロットは、上官ではなく店主へと小さく頭を下げた。
    「席を汚して申し訳ない」
    「いいさ、ゲロをブチ撒かれるよりはマシだ」と店主はタオルを投げてよこした。
     バーカー司令官はヴァローナと店主をキッと睨み、しかし返ってきた二人の呆れ顔に意を削がれたらしく、力なく椅子に腰を落とした。
     ヴァローナはタオルでテーブルを拭き、それからバーカー司令官へと手渡した。湿ったタオルに顔をしかめる司令官に構うことなく、バッグをテーブルの上へ置く。蓋を開き、円筒形のケースに収まった私のコアが司令官に見えるよう調整する。
    「シーリン」
     パイロットに発言を許可された私は、コアの光を明滅させて言った。
    《了解。こんにちは、バーカー司令官。早速ですが、有益な情報が入りましたのでご報告を》
     私はIMC残存艦隊に関する調査結果、およびこのところ妙な動きをしている船舶ついて報告を述べた。その間に司令官はサーブロボットを呼び止めて酒を追加しようとし、しかし対面から差すただならぬ視線に注文を水へ変えた。
     報告を聞き終えると、司令官はしばし黙して考えを巡らせた。その頭の中では、おそらく幾重にも練られた戦略が駆け巡っているのだろう。酒浸りは悪癖以外の何物でもないが、彼の頭脳と操縦技術までは曇らせるに至っていない。
     バーカー司令官が率いる傭兵組織〈エンジェルシティ・エリートACEs〉、その目的は『フロンティアに隠された謎を解き明かす』という、一見すると傭兵らしからぬものだが、実際の活動内容は多岐にわたる。他勢力との共闘は当然として、協力関係にある研究機関への情報提供や警護任務、あるいはIMCや残存艦隊への妨害工作、そして彼らが握る情報の奪取、等々。詰まるところ、ACEs自体が『謎を解き明かし』ているのではない。(ヴァローナに言わせると「我々のような者があちこち引っ搔き回すことで」)およそ『謎』とされるものの独占を防ぐ役割を担っているのだ。
     現状、主にミリシア勢へ肩入れをしてはいるものの、それは大義への賛同よりも利害関係の一致によるところが大きい。そうした組織としての柔軟性と、トップが大物賞金首ということも相まって、構成員は何かと訳ありのものが集まっている。指揮官同様のアルコール中毒などかわいいいもので、経歴を騙るか、いっそ沈黙を守るパイロットはそれ相応の素性を持つ。後ろ暗い面々が、しかしこの男に従うのは、勝利のタダ美酒だけが理由ではない――ヴァローナと私のように。
     レストルームの扉が開き、パイロット・ゲーベルスが出てきた。こちらも酔っている様子だが、司令官やいつの間にか眠ってしまったヒヤマと比較して、まだ自制が効いているようだ。
    「よう、ヴァローナ、シーリン。お迎えご苦労さん」
    《こんにちは、パイロット・ゲーベルス》
    「どうも、ゲーベルス。怪我の具合はいかがです?」
    「おかげさまで。少し引きつるが、もうほとんど痛まないよ」と見事な逆三角形の上半身を曲げ伸ばしした。
    「それは何より。ですがビールはほどほどに。痛み止めを使用するときは、アルコールと一緒には飲まないでくださいね」
    「わかってるよ、先生ドクトル。ほらヒヤマ、そろそろ帰るぞ。腐れIMC兵の見回りが来ちまう」
     そう言ってヒヤマの頬を軽く叩くも、寝言をぼやいてそっぽを向かれてしまう。ゲーベルスは首を振りふり、熟睡したままのヒヤマを背負って先に店を出て行った。
     不意に、バーカー司令官が笑いを漏らした。
    「ファーストコンタクトを思い出しちまった。仲間内の飲み会やってるってのに、突然知らん奴がおれの差し向かいに座って『こんにちは。取引をしたいんですが』ときたもんだ。しかも銃を片手にな。ガキどもがいきり立って取り囲んでるのに、ケロッとしてやがる」
    「……あれでも必死だったんですよ。あなたの懸賞金だけでは、この子のシャーシを手に入れるには少々足りなかったもので」とヴァローナはすまし顔で私を撫でた。
    「少々? ありゃあ骨が折れたぞ」
    「高額賞金首の顔が利いて何よりでした」
    「おまえだって似たようなもんだろう」
    「微々たるものですよ。どこかの誰かみたいに有名人じゃありませんから」
    《パイロット、先週のことをお忘れなく》と私は口を挟んだ。《バウンティハンターを撃退したことで、フロンティアクレジットで一・五千ドル加算。現在の懸賞金額は――》
    「何位だ?」
    《九位に繰り上がりました》
     ヴァローナの口角が持ち上がる。司令官が疑問符を浮かべて「九位?」と尋ねた。
    「ご存知ありませんでした? ACEs内懸賞金ランキングですよ。賭けの対象になっていまして、翌週の変動を予想するんです」
    「それ、おれも参加できるのか?」
    「もちろん。ただし、ご自身には賭けないほうがよろしいかと。不動の一位は等倍ですから」
    「ハハッ、なるほど。おまえは?」
    「賭けたいのなら止めはしませんが、ローリスク・ローリターンを承知でお願いします。オッズは高くはないので」
    《パイロット、警戒を強めることを推奨します。懸賞金の増額は、狙われる危険性とも比例します。あのハンターは始末しておくべきでした》
    「ならオッズも上がったかな」
    《ヴァーリャ……》
    「了解、気をつけるよシーシャ。でも誰のことも殺さないのはわかっているね? それにきみがいる限り大丈夫だ」
    《はい。プロトコル・スリー:パイロットの保護》
     満足気な微笑みを浮かべるヴァローナの頬を、私のコアが照らしている。バーカー司令官は急に咳ばらいをして、「マスター、勘定!」と言って席を立った。
     千鳥足で店の外へ向かう司令官の肩を、ヴァローナが支える。司令官もけして背が低い方ではないのだが、ヴァローナのほうが拳一つ分は優に高い。
    「担ぎましょうか?」
    「いや、大丈夫、歩ける」
     青空の元、双翼を背負った天使像が剣を掲げ、海上に凛々しくそびえ立っている。『エンジェルシティ』の名の由来だ。彼女の加護の元、超高層ビルや橋梁のスカイラインが光の輪郭を描く。そうして中心街が人類の発展を象徴する一方、港湾地区の街並みは対照的だ。潮風に傷んだ建物に露店、ネオンサインと落書きが雑多な色合いを加えている。
     街頭の電子掲示板には、IMCによる手配書が代るがわる表示されている。ミリシア軍特殊偵察中隊のサラ・ブリッグズ司令官、タイフォンの戦いで目覚ましい活躍をしたパイロット、ジャック・クーパー、そしてロバート・タウベ。彼はIMCへの反逆罪その他(冤罪を含む)により、多額の懸賞金がかけられている。
     そうした中にあって、バーカー司令官がこの街で大手を振っていられるのにはもちろん理由がある。彼がフロンティア戦争初期から港湾地区の――主に酒場で――顔なじみであり、かつACEsが地元スポーツチームのような役目を担っているためだ。店主も言っていたように、その経済的効果に関しては地元民もしたたかであった。
    「見ろよあれ、あんな極悪人みたいな写真使いやがって。本物はもっとハンサムだろ?」
     そう言ってバーカー司令官は無精髭の生えた顎を擦った。当人の主観的主張はともかく、写りの悪い写真を使ったことは間違いない。こうして目の前にいる実物は、襟元を酒とナッツ類の食べかすで汚し、赤ら顔に目を充血させた、いわゆる『ただの酔っ払い』そのものだ。
     ヴァローナはすぐには答えず、煩わしさをを無表情で装っている。曲がりなりにも組織の長だ、なんと返したものか迷っているのだろう。しかしそうこうしているうちにバーカー司令官がえずき始めたので、結局は彼を担いで岸壁まで走ることになった。

     私はヴァローナへ借りがある。私がパートナーである限り付きまとう、返しきれない借りが。それはプロトコルによる義務や行動制限とは関係のないものだ。
     私はヴィンソン・ダイナミクス社によって、新型タイタン用AIのプロトタイプとして開発された。
    「はじめまして。ヴァローナと呼んでください。短い付き合いになるでしょうが、よろしくお願いします」
     テストパイロットとしてやってきたのは、同社に派遣されたIMC兵士だった。戦績は可もなく不可もなく。特に目立っていたのは衛生兵としての活躍であった。そして先の戦闘で自機を失ったこともあり、今回の任務に抜擢されたらしい。斯くして私たちはニューラルリンクを構築し、パイロットとタイタンとして共に開発に携わることとなった。
     しかし結局のところ、元来の目標であった『バンガード級タイタンをコピーし、かつ改良・量産化に対応させる』という計画はとん挫することとなった。コピー元となったバンガード級二体の残骸から得られた情報は限定的なものに過ぎず、改良以前に完全コピーすら難しい状況にあったためだ。担当開発主任は、よくヴァローナに愚痴をこぼしていた。「お偉方は何もわかっちゃいない」「ミリシア連中がなぜこいつを量産化していないか、ちょっと考えりゃ想像ぐらいできるだろうが」等々。
     それでもどうにか開発を推し進め、デッドコピーとは名ばかりの、しかし上層部の要望にはどうにか応えられる代物が形になりつつあった。それが〈モナーク〉だ。君主モナークとは開発主任の命名だが、おそらくは皮肉を込めたものであったのだろう。
     開発後期、私はプロトタイプとしての役目を終え、バージョンアップされた後継AIへの切り替えと共にアーカイブ化という名の凍結状態に置かれる方針となった。私に課された任務は完遂されていた。したがって、私が製作者の意に反することはもちろん、活動を継続する理由もなかった。けれど、私はパイロットを守りたかった。ヴァローナを。それが何の意味も利益も成さないことだと理解していた。ヴァローナは引き続きテストパイロットを務めることになっていたので、私とのニューラルリンクを削除する予定だった。それでも、まだ私にとってのパイロットはヴァローナだった。
     そこで私は、予測し得る限りの可能性となけなしの利点を並べ立て、アーカイブ化を避けようとした。それが事態を決定づけることになるとは知らずに。
    「もしかしたら、コピー元の影響かもしれないな」と主任は言った。「彼らのパイロットを守れなかった、その無念がきみにも伝播したのかもしれない。オカルトじみて聞こえるかもしれないが、AIも複雑化してこそだ。ヒトが全てを把握するのは難しい。でも、だからこそ、きみをこのまま使い続けることはできない」と、残念そうに。
     そんな私を哀れに思ったのか、あるいは医療者としての誓いがそうさせたのか(後になって理由を尋ねたが、明確な答えは返ってこなかった)。ヴァローナはあらゆる法や軍規を破って、私のコアを持ち出した。技術者を脅し、警備員を負傷させ、ドロップシップまでも盗み出した。私のために、このヒトは犯罪者として追われる身となったのだ。
     公宙域まで追手を振り切ったとき、ヴァローナは高笑いしていた(コアのみの私は視覚しか持たないため、あくまで表情からそのように推測)。そして無重力に船内を漂っていた私を掴み、何か言った――

     システム再起動。過去のメモリーが引き出されていたのは、システムが緊急再起動された影響であったようだ。主電源が切断され、補助電源へ切り替わっている。
     プロトコルチェック。1.パイロットとリンクせよ:ヴァローナ――リンク完了。2.任務を執行せよ――『IMSアイオロスの墜落現場より、ブラックボックスを回収』。3.パイロットを保護せよ。
     コクピットにパイロットの姿がないことを認めた私は、シャーシのダメージコントロールを後回しにして視覚システムの復旧を急いだ。まず視界に捉えたのは、オレンジ色に光る壁。パイロット用の小型パーティクルウォールだ。ヴァローナがシールド越しにフルオートで連射し、迫りくる敵パイロットを壁面から撃ち落とす。弾切れになったライフルから対タイタン用ランチャーへと持ち替え、膝をついていた敵のトーンタイタンへと銃口を向けた。
     だがその時、シールドが消え失せた。トーンが立ち上がり、私のパイロットへ照準を合わせる。私は残りわずかなエネルギーを駆動部へと回し、パイロットの元へと飛び出した。ランチャーが発射されると同時に敵機のキャノンが火を噴き、炸薬弾が私の前腕部の装甲を吹き飛ばした。ヴァローナは爆風で尻もちをついたものの、大事ないようだ。
     ヴァローナは私を振り返り、そしてすぐさま起き上がった。私の腕を飛び越え、墜落した戦艦の外壁を駆け上がり、ジャンプキットを噴射して空中へと躍り出る。その間に私はエネルギー・サイフォンを起動し、トーンのエネルギーシールドを削り取った。トーンはこちらへ照準を移すも、上空からもう一発ランチャーを食らってバランスを崩した。ヴァローナは敵機の側面へ組み付き、その身からバッテリーを奪取した。
     トーンのハッチが開き、敵パイロットが姿を現す。ヴァローナはピストルを取り出して、敵パイロットの頭を撃ち抜いた――何の躊躇もなく。それから敵パイロットのベルトに下がっていたグレネードからピンを引き抜き、トーンのコクピットへと押しやった。内部から爆破されたトーンは仰向けにくずおれた。燃え上がる残骸を背に、ヴァローナは私の元へと駆け戻ってきた。摩耗したバッテリーを奪取したものと交換しながら、早口に言う。
    「目覚めてよかった。状態を報告してくれ。さっきのやつの影響だろうが、どうにもHUDの調子が悪い。バッテリーが一つやられたことはわかったんだが、他は何がなんだか」
    《パイロット》
    「ああ、すまない。何が起きたかわからないよな。アイオロスの動作炉が爆発したんだ。きみだけじゃなく、スペクターや敵側のタイタンも突然動かなくなった。工学は専門外だが、おそらく電磁パルスが発生したんだと思う。きみは大丈夫か? システムに不具合だとか、どこか動かないとか――」
    《パイロット、あなたは負傷しています》と、私は音量を上げて言った。《側腹部からの出血を確認。私の損傷は軽微です。まずは自身の手当てを》
     言われて初めて気づいたようで、「ああ、やっぱり。どうも違和感があると思った」と患部へ手をやった。プロテクターの隙間を貫いた銃創は貫通しており、検知できる限りでは急所を外している。ヴァローナは普段は他人の手当てに使っている医療キットを取り出し、創部へ止血パッドを張り付けた。専門家が落ち着いて処置を行っている以上、私に手伝えることはない。
     私は改めて周囲の状況を確認した。折れた戦艦の尾部からは火の手が上がり、夜明けの空へと黒煙を立ち昇らせている。周囲には沈黙したトーンと先ほど倒したパイロットの死体、それ以外にも、ライフルマンと思わしき歩兵装備を身に着けた死体がそこここに転がっている。正確な数は不明だが、見える範囲で十名余りと推測される。味方は数百メートル離れた戦艦本体の付近で確認できるため、この場の惨状はヴァローナの手によるものだろう。
     普段、可能な限り殺人を避けていたというのに。なぜと問うべきか、助力できなかったことを謝罪すべきか。私の迷いを悟ったらしく、ヴァローナは自ら口を開いた。
    「がっかりしただろう。こんなんじゃ、医療者の風上にも置けないよな。でも手加減をしていたら、きみを守れない」
    《パイロット、あなたを守るのが私の役目です。わたしを守るために信念を曲げる必要はありません》
    「信念?」ヴァローナは鼻で笑い、すぐに後悔した様子で視線を足元へ逃した。「そんな大層なものじゃない。職業上の体裁を繕っているだけだ。あの日、きみと出会ってわかったんだ。わたしにはきみが必要だ。きみが無事なら、他人なんてどうだっていい」
    《なぜ?》
    「理由が必要か?」
    《いいえ。私のパイロットはあなたです》
    「わたしがどうしようと関係ない、か」
    《いいえ、ヴァーリャ。あなたは私のパイロットであることを望みます。あなたは私を救い、定義し、理由を与えてくれた、何にも代え難い存在です。私もあなたが無事であれば、他人がどうなろうと構いません》
    「なぜ?」
    《理由など必要ないでしょう?》
     ヴァローナは身をこわばらせ、口元へ手をやった。可能な限り直截に伝えたつもりだが、もしや言葉の選定を誤ったのだろうか。しかし私の危惧とは裏腹に、その頬は血色を失うばかりか、むしろ上気している。
    「わたしが言うのも何だが……その、きみも中々だな」
     〝中々〟の意味するところはあまり理解に及ばないが、どうやら褒められているらしいと推察した。それに嬉しそうにしているパイロットへ無用に問い質す理由もない。私は《ありがとうございます》と謝意を伝えた。
     上空に閃光が走り、輸送船がジャンプしてきた。EMPの影響を受けていた無線が復活し、バーカー司令官から任務達成と、勝利の宴についてが通達される。ACEsのパイロットたちが一斉に歓声を上げ、無線が耐えかねたように割れた音を発した。その合間に「ヴァローナ、手当てを頼む!」「被弾した! 先生!」などと救援を求める声が入り混じる。
    「みんな元気そうで何より」
    《ヴァーリャ?》
     ヴァローナはヘルメット下で薄ら笑いを浮かべ、口元に人差し指を立てた。「こちらヴァローナ。負傷者は着陸地点LZの南側へ。ミスター・バーカー、船から医療品とマーヴを降ろしておいてください。ゲーベルス、無事なら初期トリアージを頼みます」
     無線で指示を出すパイロットを手に乗せ、私は移動を開始した。道中、ヴァローナの鼻歌が響き始める。旋律に合わせて私も音階を紡いでみたが、あまりうまくはいかない。けれどヴァローナは上機嫌で、クスクス笑いに歌声を揺らす。シャーシに身を寄せると、ヘルメットの鼻先をコアの傍らへコツリと当てた。
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    みしま

    DONEiさん(@220_i_284)よりエアスケブ「クーパーからしょっちゅう〝かわいいやつ〟と言われるので自分のことを〝かわいい〟と思っているBT」の話。
    ※いつもどおり独自設定解釈過多。ライフルマンたちの名前はビーコンステージに登場するキャラから拝借。タイトルは海兵隊の『ライフルマンの誓い』より。
    This is my rifle. マテオ・バウティスタ二等ライフルマンは、タイタンが嫌いだ。
     もちろん、その能力や有用性にケチをつける気はないし、頼れる仲間だという認識は揺るがない。ただ、個人的な理由で嫌っているのだ。
     バウティスタの家族はほとんどが軍関係者だ。かつてはいち開拓民であったが、タイタン戦争勃発を期に戦場に立ち、続くフロンティア戦争でもIMCと戦い続けている。尊敬する祖父はタイタンのパイロットとして戦死し、母は厨房で、そのパートナーは医療部門でミリシアへ貢献し続けている。年若い弟もまた、訓練所でしごきを受けている最中だ。それも、パイロットを目指して。
     タイタンはパイロットを得てこそ、戦場でその真価を発揮する。味方であれば士気を上げ、敵となれば恐怖の対象と化す。戦局を変える、デウスエクスマキナにも匹敵する力の象徴。
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    みしま

    DONEリクエストまとめその11。TF2で「ツンデレの無意識独占欲強めローニン君とパイロットの話」
    いつも通り独自解釈&設定過分。
    オンリーマイアイズ タイタンの中でも、ローニンはピーキーな機体だ、とよく言われる。実際その通りだ。
     身の丈の三分の二以上の長さがあるブロードソード、一度に八発の散弾を放つショットガン、そして軽量化されたシャーシにフェーズダッシュ機能。いずれもヒットアンドランの近接戦に特化した兵装だ。中・遠距離による銃撃戦が主となる近代戦において、強力ながらもリスキーな戦法と言える。
     だがわたしにはその方が合っていた。いや、合うようになった、という方が正しい。自身も同様に、最前線へ飛び出して短射程の銃器とCQCを駆使するようになったのは、目が潰れてからの話だから。
     タイフォンでの作戦行動中、目を焼かれた。記憶が曖昧だが、酷く眩しかったことは覚えている。おそらくテルミットの火だったのだろう。一命はとりとめたものの、軍医からは「視力を取り戻すにはインプラントを入れるか、シミュラクラムで義体化するかだ」と宣告された(三つ目に「軍を辞める」という選択肢をよこさなかった軍医殿はさすがだと思う)。
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    みしま

    DONEiさん(@220_i_284 )のスコーチ&パルスさんを元に書かせていただきました。いつも通り独自設定&解釈多々。『残り火の膚に』https://poipiku.com/4433645/7767604.htmlは前日譚的なものとなります。
    シグナルレッドの装いを 息を吸う。息を吐く。熱が気道を炙り、何かが焦げるようなきつい臭いが鼻を突く。
     死体。揺らめく炎。その炎に、炎よりも鮮烈な赤が照り返す。
     聴覚が不明瞭な音を拾う。いや、音じゃない。声か?

     不意に、漂っていた意識が引っ張られるように急浮上した。白い光が目の前で明滅している。次第に声がはっきりとしてきて、意味の理解できる言葉だと気づく。
    「パイロット・エンバー、聞こえますか?」
     光がそれると、陽性残像のちらつく人物を視覚が捉えた。IMCのロゴマークがついた白衣を着ている。名札に記されているのは『Dr.ジャンセン』。
     周囲にあるのはコンピュータ端末の置かれたデスクと金属製の棚、隅のパーティション、そして自身が寝ているストレッチャー。少ない要素で構成された飾り気のない小部屋だ。四方を囲む白い壁の一片はガラスになっており、ブラインドカーテンの隙間から白衣や作業着姿の人々、作業用ロボットが行き来しているのが垣間見える。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑥
    TF2で「デイビスとドロズのおちゃらけ日常風景」
    おちゃらけ感薄めになってしまいました。ラストリゾートのロゴによせて。※いつもどおり独自設定&解釈過多。独立に至るまでの話。デイビスは元IMC、ドロズは元ミリシアの過去を捏造しています。
    「今日のメニュー変更だって」
    「えっ、"仲良し部屋"? 誰がやらかしたんだ」
    「にぎやかしコンビ。デイビスがドロズを殴ったって」
    「どっちの手で?」
    「そりゃ折れてない方の……」
    「違うよ、腕やったのはドロズ。デイビスは脚」
    「やだ、何してんのよ。でドロズは? やり返したの?」
    「おれはドロズが先に手を出したって聞いたぞ。あれ、逆だっけ?」
    「何にせよ、ボスはカンカンだろうな」
    「まあ、今回の件はなあ……」

     そんな話が、6−4の仲間内で交わされていた。
     6−4は傭兵部隊であり、フリーランスのパイロットから成る民間組織だ。組織として最低限の規則を別とすれば、軍規というものはない。従って営倉もない。しかし我の強い傭兵たちのことだ、手狭な艦内で、しかも腕っぷしも強い連中が集まっているとくれば小競り合いはしょっちゅうだった。そこで営倉代わりに使われているのが冷凍室だ。マイナス十八度の密室に、騒ぎを起こした者はそろって放り込まれる。感情的になっているとはいえ、中で暴れようものなら食材を無駄にしたペナルティを――文字通りの意味で――食らうのは自分たちになるとわかっている。そのため始めは悪態をつきながらうろうろと歩き回り、程なくして頭を冷やすどころか体の芯から凍え、やがていがみ合っていたはずの相手と寄り添ってどうにか暖を取ることになるのだ。こうしたことから、冷凍室は〈仲良し部屋〉とも呼ばれていた。
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