メイド服が似合いすぎる高校の文化祭、俺のクラスは何を血迷ったのか、女装メイド喫茶を出すことになった。
しかも男子は全員強制参加らしい。高校生男子がメイド服なんて、もう地獄絵図確定、ネタにしかならない!と思っていたのに…。
文化祭当日、メイド服に着替えて教室へといくと、女子達の黄色い声があがっている。その女子達の目線の先に居たのは、同じクラスの乾だった。
嘘だろ?メイド服がめちゃくちゃ似合っている…!
フリフリのメイド服だぞ?
頭にはヘッドドレス、ニーハイソックスとミニスカートの隙間から見える白い肌が艶かしい。身長が高いから、スカートの丈も若干短い気がする。
おかしい。何でこんなに似合うんだ?
ふさふさの睫毛に整った顔立ち…顔がいいってうらやましい。ホントに俺と同じ人種ですか?と思う。
履いたことの無いハイヒールに脚をプルプルさせながら歩く俺に対して、乾はなぜかハイヒールを履きこなしていて、カツカツと綺麗に歩く姿は様になる。
案の定、開店後も乾はお客さんから大人気で、連絡先を聞かれたり、一緒に写真をとって欲しいとお願いされていたりしていた。
今も正に、ヤンキー風のお兄さん達から、学校の中案内してよ!とナンパ?されてる。
扉の開く音にお客さんが来たと思いそちらを見ると、立っていたのは別のクラスの龍宮寺。乾と仲が良いみたいで、よく一緒につるんでいるのを見かける。
一番近くにいた俺が龍宮寺を席まで案内した。席に座ると、何故か乾の方を見て不機嫌そうな顔をしている。
っていうか、すげぇ睨んでない?ヤンキー怖えぇ…。
ご注文は…と震える声で聞いたところで、
「ドラケン!何でいるんだよ!来んなって言っただろうが」
と、乾が割り込んできた。
うんうん、乾、気持ちは痛いほど分かるぞ。友達に女装…しかもメイド服姿を見られるなんて、クソ恥ずかし過ぎる。
そんな乾の腕を掴んで立ち上がる龍宮寺。
「悪い、ちょっとこいつ借りてくぜ」
「はっ?どこ行くんだよ!ドラケン!?」
混乱している乾の腕をぐいぐいと引っ張って、2人で教室から出ていった。
出ていってから15分。まだ2人は戻って来ない。龍宮寺の機嫌が悪そうだったから、もしかしたら喧嘩でもしてるのか?と心配になる。
その間にも、口コミなのか「金髪でお人形みたいな顔のメイドはどこ?」とか「めちゃくちゃ美人なメイドが居るって聞いたんだけど」と乾目当てのお客さんがたくさん来てしまう。
イケメンの力ってすげぇなとボーッと考えていたら、女子達から、暇なら乾くん探してきて!と言われ、仕方なく教室を出た。
どこに居るんだ?うろうろ探している内に、学校の端まで来てしまった。ここら辺は催し物をやっていないから人もまばらだ。
その時、社会科準備室から龍宮寺が出てくるのが遠くに見えた。身長高いしヤンキーだからよく目立つ。
あそこ物置みたいな部屋だけど何してたんだ?
龍宮寺に声を掛ける…のは怖いので、乾も中に居るのかと思い、部屋の前まで足を進める。
扉の取っ手に手を掛けようとした瞬間、勝手に扉が開かれ、目の前には探していた乾が立っていた。思わずびくっと身体が揺れる。
少し着崩れたメイド服と乱れた髪の毛。上気した頬に、驚いたように見開かれた瞳は潤んでいる。
そして、首筋にはメイド服で隠れるか隠れないかのところに紅い跡が1つ。
えっ、紅い跡?これは…キスマーク??
どういうことだ…と頭を抱えそうになる。
「何か用?」
「えっ、いや、乾くん、戻るの遅いからみんな心配してて…探しに来たんだけど…何か体調悪いとかなら全然、大丈夫だから」
と、しどろもどろになりながら言いつつ後退りする。何かすげぇ場面を見てしまったかもしれない…と思いながら教室へと戻った。
結局、その後、乾は戻って来なかった。
次の日、登校してきた乾がいつもよりぐったりしてた気がするし、キスマークも何故か増えてる気がするけど、きっと気のせいだ…と思うことにした。