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    おバカさん七五です☺️
    エイプリルフール、さとるは七海にどんな嘘をつくのでしょうか 2024.4.6

    #七五
    seventy-five

    エイプリルフールにつく嘘は「僕、やんないからね」
     ソファに座って静かにしていた五条がおもむろにそう言うので、朝食を食べ終わって皿を片付けて午後からの買い出しのためにパントリーを検分していた七海は「は?」と振り向いた。
    「僕、やらない。絶対しないから」
     心待ち唇を突き出し、悲しそうな面持ちで、もう一度五条は言う。七海は首を傾げ、恋人に近づいた。
    「五条さん?」
     五条はハッとした様子で七海を見上げ、はは、と笑おうとしたが上手くいかず
    「うわ~ん、ななみぃ…」
     情けない声を出すので七海は横に座り、白い頭を抱えてやった。
     
    「…今日、エイプリルフールじゃん」
     少し落ち着いた後、五条は俯いて話し出した。
    「どんな嘘つこうかなって思って」
     はぁ。言いたいことは喉元まで出てきたが、七海は頷くに留め先を促した。
    「嬉しがらせて落とすのはよくないだろ?ビックリさせてホッとさせる方がいいだろうと思って、でも去年、僕がお前と別れるって言ったら、お前すごく怒っただろ」
    「怒りましたね」
    「うそだよ~って言ったのにさ」
    「それについては去年話しましたよね。…まあ、いいですから先をどうぞ」
     うん、五条は七海が淹れてくれたカフェオレの入ったマグカップを両手で持ち、話を続ける。
    「だから今回はそんな直球じゃなくて、僕に五条家からお見合いの話がきたってことにして、嫌だけどちょっとしがらみあるから、行かないとダメかなあ~、嫌だけど行ってくるかなあ~って、言おうかな?って思って」
     …それと去年のとどう違いがあるのですか、七海はとても言いたかったが、五条が悲しそうなので黙って聞いた。
    「でね、それを言ったらお前どうするかな?って。しがらみがあるのなら仕方ないですねって、たぶん表情崩さないで言うだろ?でもお前悲しいだろ?もしかしたら目の奥にその悲しみが現れちゃうかもしれないだろ」
    「………」
    「僕はね、そんなお前の悲しい顔なんか、見たくないんだよ!」
    「五条さん」
     七海の頭に様々な思いが渦を巻いた。
     馬鹿ですか、馬鹿なんですね、でもそうですか、そこまで考えは至りましたか、私の悲しい顔は見たくないと、そうですか、それは成長ですね、えらいですよ、五条さん、なんて言うと思ってるのか、このすっとこどっこい。
    「五条さん」
     七海はもう一度言った。
    「私も、あなたの悲しい顔は見たくないですよ」
    「ななみ!」
     五条はマグカップを置いて、七海の首に腕を回してきた。七海は仕方なく、本当に仕方なく、しかし、クソ、可愛い…と思いながら、五条の髪を撫でた。
     
     ◇  ◇  ◇
     
    「大体、無理してまで嘘をつかなくていいんですよ。いい大人なんですから」
     しばらくして落ち着いて、七海は言った。
    「え~でも、行事は押さえておきたいじゃん」
     行事というのか?エイプリルフールは、七海は思ったが
    「もう少し他愛ない嘘でもいいんですよ、そんなに一生懸命練らなくても」
    「まあ…他にも考えたんだけど」
     どんなですか? 七海が聞くと
    「パンダが小っちゃくなっちゃったとか」
    「はぁ」
    「伊地知と硝子が付き合ってるとか」
    「………」
    「学長が被呪して女になったとか」
    「んっふ…」
     七海は不覚にも笑ってしまった。あ、ウケた?何だこっちにすれば良かったなあ、五条が嬉しそうに言う。
     七海は咳払いし、サングラスの位置を直そうとしたが家の中なので、そうだサングラスはしていないのだった。七海はもう一度咳払いした。
    「あなた、子どもたちにもそんな嘘を言ったりしてないでしょうね」
    「大丈夫。僕、禁止されてるから」
     は?
    「僕ね、高専内でエイプリルフールに嘘つくの禁止されてんだよ、学長に」
     何があったんですか??と七海は思ったが、いや、聞かない方がいいだろう。自分の精神の安定のために。
    「あのとき、学長、すごい怒ってたなあ〜」
     五条は思い出したのか、あっはっはっは、と楽しそうに笑った。先程までの悲しげな、儚げな表情はどこに行ったのか。
     ひっぱたこう。七海は思った。
     次の機会には必ずそうしよう。そう出来るのは自分だけであるし、それが世のため人のため、ひいてはこの人のためでもある。しかし。

    「もう午後になっちゃったね〜」
     エイプリルフール、おしまいだね、お前に嘘つけなかったの、残念だけど、よかったぁ〜
     そうして蕩けるように笑う、恋人の青い青い目を見て、七海は我慢できずにその白い頭を掴み、唇にキスをした。




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