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    住めば都

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    住めば都

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    あくねこ、ユーハン夢。
    屋敷の玄関で寝落ちしている主様を見つけて取り乱すユーハンの話。

    この後ユーハンは「主様には別邸で生活してもらうのがいいのでは?」という結論に達し、テディやハナマルも巻き込んで策略を巡らすも、本邸の執事たちの猛反対にあう、なーんて騒ぎがあったとかなかったとか。

    #あくねこ夢
    cats-eyeDream
    #aknkプラス
    aknkPlus
    #aknk夢
    #ユーハン
    uhan

    主様の悪癖 入浴を終えて別邸に戻ろうとしていたユーハンは、玄関にうつ伏せで倒れている主人を見つめて目を剥いた。
    「主様!!」
     大音声で呼ばわって、傍に駆けつける。頭を揺らさぬようにとそれだけは十二分に気をつけて、ぐったりとした体を抱き起こした。
    「主様、主様……!」
     肩を叩いて呼びかけるが、反応はない。見たところ外傷は無さそうだが、主人の身になにがあったのか――ケガなのか病なのかそれとも他のなにかなのかは、医者ではないユーハンには判断がつかなかった。
    「ルカスさん……ルカスさんをお呼びしないと……」
     ああ、けれどユーハンが傍を離れた途端に状態が悪化して、主人が帰らぬ人となってしまったら。
     その可能性に思い至ってしまったユーハンは、その場に凍りついたように動けなくなった。
    「ユーハン、どうした!?」
    「主様になんかあったのか!?」
    「バスティンさん……ロノさん……主様が……!」
     ユーハンの必死な声が聞こえたのだろう。一階の執事室で生活している二人が駆けつけてくれた。敬愛する主人を喪うのではないかという恐怖と、頼もしい仲間が来てくれたことへの安堵で、ユーハンの心はぐちゃぐちゃだ。
     ともかく、二人ならすぐさま医療係のルカスを連れてきてくれるだろう。ユーハンがそう考えたのとは裏腹に、ロノとバスティンは微妙な顔つきになった。ユーハンがどうかしたのかと訊ねるより早く、バスティンが静かな声で言う。
    「ユーハン、落ち着いて聞いてくれ。主様はたぶん、寝ているだけだ」
    「…………えっ」
    「ユーハンたちが来てから主様がこうなるの、初めてだもんな。いや〜、オレも初めて主様のこれに出くわしたときは、マジでめちゃくちゃ焦ったぜ」
     寝ているだけ。
     事態を上手く飲み込めないユーハンは、改めて仰向けにした主人の顔を観察した。苦しそうな様子はなく、呼吸は安定している。起こしてそのまま抱えていた体は温かい。生きているものの温度だった。
    「……ねているだけ…………」
    「そうだ。だからユーハンは、主様を寝室へお連れしてくれ。俺はルカスさんを呼んでくる」
     バスティンは軽やかに階段を駆け上がっていく。その背を見送りながら、ユーハンはまた不安がぶり返してきてしまって、ロノを見上げた。
    「寝ているだけなのではないのですか?」
    「たぶん間違いなくそうだと思うけど、一応ルカスさんに診てもらうことになってんだ。万が一があったら大変だし、こればっかりは、オレたちじゃわからないからな〜」
    「そう……そう、ですね」
     とにかく主人を寝室へ運ぼうとロノに促され、ユーハンはその体を抱き上げた。ここまでされれば目を覚ましそうなものだが、主人が目覚める気配はない。よほど深く寝入っているらしい。
     ユーハンたちが主人の部屋へ到着したころ、ちょうどバスティンもルカスを伴い戻ってきた。ユーハンが抱いていた体をベッドへ寝かせるなり、すぐに診察が始まる。脈を取り、ほかにもいくつか調べると、ルカスは「寝ているだけだね」と断言した。
    「ごめんね。ここしばらく主様のこれを見なかったから、ユーハンくんたちに共有しておくのを忘れてしまっていたんだ。驚いたよね」
     苦笑しながら、ルカスはユーハンの知らない主人のことを語った。
     曰く、主人はその日の天候や体調によって、強い眠気を感じることがあるらしい。なんとか自宅に帰り、パレスへ来てはくれるものの、そういうときは大抵、寝室までたどり着かずに寝落ちてしまうのだとか。
    「私たちも、最初のころは毎回狼狽えていたなあ。今ではだいぶ慣れたけれど、やっぱり倒れて意識のない主様を見ると、心配でドキッとしてしまうね」
     寝ているだけだとわかった今でも、こうなった主人を寝室へ運んだあとは、必ずルカスが診察しているという。万が一ということはありうるし、備えておくに越したことはない。
    「それじゃあ、私たちはこれで失礼するけど、ユーハンくんは念のため、主様の傍についていてくれるかい? もしなにかあれば、ベルを鳴らしてくれれば駆けつけるからね」
    「かしこまりました」
     ユーハンが了承を返すと、三人は退室していった。一気に静まり返った部屋に、健やかな寝息だけが微かに響く。
     これがルカスの気遣いであることに、ユーハンは気づいていた。医者であるルカスが、寝ているだけだと断じたのだ。それならば看病のための付き添いは必要ないだろうし、目を覚ました主人が世話を必要とした場合に備えるにしても、裏庭の別邸で暮らすユーハンが残る必要はないのだ。二階の執事室には、優秀な執事が四人もいるのだから。
     深くため息を落としたユーハンは、枕元に椅子を置いて、そこに腰かけた。僅かな変化さえ見逃すものかと、つぶさに寝顔を見つめながら、いつかとは立場が逆になったなと独り言ちる。
     人喰い虎のいる竹林に放逐され、惨たらしい死を迎えるはずだったところを救いだされた後のことだ。それまでの極限状態が祟って倒れたユーハンを、主人はつきっきりで看病してくれたという。
    「……主様」
     落ちた呟きは、聞くに絶えない情けない声をしていた。命を救われたあの日から、主人はユーハンの全てだ。もしも喪うようなことがあれば、とても正気ではいられないだろう。
     震える両手で、ユーハンは主人の手を握りしめた。祈るように額を押しあてる。許可なく触れるなど執事としてあるまじき振舞いだとわかってはいたが、こうして彼女が確かに生きているという実感を得ていなければ、とてもこの夜を耐えられそうになかった。
     天候や体調によって、とルカスは言っていたが、ベッドまでたどり着かずに寝落ちてしまうのは、日々の蓄積した疲労も無関係ではないだろう。ゆっくり眠って、疲れを癒してほしい。執事としてそう思う一方で、彼女を慕う一人の人間としてのユーハンは、早く目覚めて名前を呼んでほしいと願ってしまうのだった。



    (蛇足)

    「んん……ん?」
    「主様、お目覚めになられましたか?」
    「ユーハン! えっごめん、もしかしてついててくれたの?」
    「はい。その……寝ているだけだとルカスさんからお聞きしたのですが、どうしても主様が心配で……」
    「うっわ……本当にごめん……心配かけて申し訳ない……」
    「謝らないでください。私が勝手に心配しているだけなのですから」
    「それは、そうかもしれないけどさ……えーと、じゃあ、ありがとう、かな」
    「……はい」
    「廊下で寝落ちるとパレスのみんながめちゃくちゃ心配するから、気をつけてはいたんだけど。ちょっといろいろ重なっちゃって、耐えられなかったんだよねえ……」
    「そうだったのですね。本当にお疲れ様でございました。あの……こういったことは、向こうの世界でもあるのですか?」
    「いやいや、向こうではちゃんと、ベッドまで自力でたどり着くよ。ただ、ほら……向こうの自宅はワンルームのアパートだから、玄関からベッドまでは大した距離じゃないけど、このパレスは広いからさ……」
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    住めば都

    DONEあくねこ、ルカス夢。
    いつもドキドキさせられて悔しい主様が、意趣返しのつもりで「ルカスは冗談ばっかり」と返したら、実は全部本気の本心だったと暴露される話。

    交渉係を務めて長い男が、自分の思いに振り回されて本音を隠せず、苦し紛れに冗談だよって見え見えの誤魔化し方しかできないのめちゃくちゃ萌えるなと思うなどしました
    いっそ全部、冗談にしてしまえたら 目の覚めるような美人ではない。愛嬌があるわけでも、聴衆を沸かせる話術を持つわけでもない。
     至って普通。どこにでもいそうな、地味で目立たないタイプ。――それが私だ。
     おおよそ三十年かけて築き上げた自己認識は、異世界で出会ったイケメン執事たちに「主様」と呼ばれ大切にされたところで、簡単に揺らぐようなものではない。
    「フフ、主様といられる時間は、本当に幸せです♪ この時間が、永遠に続けばいいのになあ……」
    「はいはい。全く……ルカスったら、冗談ばっかり言うんだから」
     上機嫌に微笑む担当執事を、私は半眼で睨みつけた。
     ルカスとアモンは、口説くようなセリフをよく言ってくる。恋愛経験の少ない私はそのたび顔を赤くしてドギマギしてしまうのだが、彼らの思惑どおりに翻弄されるのを、最近は悔しいと感じるようになっていた。
    1884

    住めば都

    DOODLEあくねこ。ナックとハンバーグの話。友情出演、ロノとテディ。
    執事たちの話題に上がるだけですが、美味しいもの大好き自称食いしん坊の女性主様がいます。
    後日、お礼を伝えられた主様は「私が食べたかっただけだから」と苦笑したそうです。

    お肉が苦手なナックに豆腐ハンバーグとか大根ステーキとか食べさせてあげたい気持ちで書きました。
    美味しいは正義 今日に夕食のメニューは、ハンバーグだ。
     食堂に向かう道すがらで会ったテディが、鼻歌混じりで嬉しそうに言うのを聞いて、ナックは落胆の気持ちを曖昧な笑顔で濁した。
     ナックは肉全般が苦手だ。メインが肉料理の日は食べられるものが少なく、空腹のまま夜を過ごすことも多い。
     だが、ハンバーグを心から楽しみにしているらしい同僚に、それを伝えることは憚られた。食事は日々の楽しみだ。テディには心置きなく、好物を味わってほしい。
     食事の時間は一応決まっているが、執事たちは全員揃って食事を取るわけではない。一階や地下の執事たちはそろって食べることが多いようだが。
     決められた時間内に厨房へ顔を出し、調理担当に、食事に来たことを告げる。そうして、温かい料理を配膳してもらうのだ。
    2130

    住めば都

    MEMO2023クリスマスの思い出を見た感想。
    とりあえずロノ、フェネス、アモン、ミヤジ、ユーハン、ハナマルの話をしている
    執事たちが抱く主様への思いについて現時点で、あるじさまへの感情が一番純粋なのはロノかなという気がした。
    クリスマスツリーの天辺の星に主様をたとえて、でもそこにいるのは自分だけじゃなくて、屋敷のみんなも一緒でさ。
    主様と執事のみんながいるデビルズパレスを愛してるんだなあということがとてもよく伝わってきて、メインストのあれこれを考えると心が痛い。ロノの感情と愛情が純粋でつらい(つらい)

    なぜロノの贈り物にこんなに純粋さを感じているかというと。
    手元に残るものを贈っている面々は、そもそも根底に「自分の贈ったものを大切に持っていてほしい」という思いがあるはずで、贈った時点である意味主様からの見返りを求めているのと同じだと思うんですよね。
    ただ、消え物にするか否かは思いの重さだけでなくて、執事たちの自分への自信のなさとか、相手に求めることへの拒否感とか、なにに重きを置くかの価値観とか、いろいろあると思うので、消え物を選んだ執事がみんなロノほど純粋な気持ちではいないんだろうなと思っている。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ハナマル夢(?)
    ※本編2.5章、水龍の唄、ワインフェスティバルの内容に触れています。
    時系列的にはワインフェスティバル8話のあと。イベストを読み返していて感じたことをこねこねしました。捏造過多です。
    独白なので夢と言っていいものかわかりませんが、考えているのは主様のことなので一応夢ということにしておきたい。
    ないものねだり 宛てがわれた宿の一室でベッドに身を横たえたハナマルは、酒精が入ったわりに冴えてしまった目で、ぼうっと天井を眺めた。ついと利き手を天に伸ばす。緩く拳を握ると、掴んでおきたかった大事なものの記憶が脳裏を駆け抜けた。
     感傷的な気分になっているのは、ルカスを相手に過去の話をしたからだろう。まさか中央の大地に、燃え尽きた郷里のことを知っている人間がいるとは思わなかった。
    「百年経てば、か……」
     刺青を消したいと相談したハナマルに、刻まれた印は消えずとも人々の記憶のほうが風化すると、ルカスは言った。確かにそうだとハナマルも思った。
     だが、背に負った龍の意味を知るものがいなくなるのにそれだけ年月がかかるのだとすれば、彼が唯一と定めた主人がハナマルの出自を知る日が、いずれやってくるかもしれない。
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