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悟は目を覚ますとまず最初に隣で眠る男が呼吸をしているかを確かめる。とても静かに眠るので、もしかして死んでいるんじゃないかと、そういう自分でも馬鹿げていると笑ってしまうような杞憂に取り憑かれるからだ。口や鼻に手を当てて、呼気が温かく手のひらを湿らすのを実感して、ほっと息を抜く。
これが共寝の朝の癖になってしまっている。七海が眠っているうちの、密やかなルーティンだ。胸に手を当てて上下していることや、心臓の音が低く響くことを一つずつ確認して、安心をする。幸福を感じる。これで一日を幸せに始められる。
皮膚の薄い神経質そうな額に口をつける。白人らしく見える所以の通った鼻筋にくちびるを滑らす。くすぐったいのか、一瞬眉を寄せたけれど、まだ起きない。ゆっくりとした呼吸が続いている。
へこんだ頬の肉は柔らかい。吸うととてもよく伸びるので、悟は一人で笑う。くちびるの山の尖ったところを、くちびるで摘んで引っ張る。やっぱり柔らかくて、よく伸びる。
今度は下唇を引っ張ってみようと、いったん離す。それから食いつく。
食いついた瞬間に、眠っていたはずの腕が素早く悟を捕まえた。両腕は背中に回り、ガッチリとホールドされる。ぎゅうぎゅうと、腕と七海の胸の間で押し潰されそうなほどだ。
ぐるりと視界が回転する。目を開けた七海の無表情を至近距離に見上げる。押し倒されて、拘束される。
無遠慮なキスが降りてくる。食むようにしてくちびるを吸われ、ぬるりと舌が入り込み、勝手知ったる様子で口内をぐるりと一周する。すぐに角度を変えてもう一度、入ってきた舌に舌を絡め取られ、吸い上げられて引っ張り出される。出した舌を歯で噛まれたけれど、痛みに顔を顰めたら、歯列からはすぐに解放された。歯形もついていそうにピリピリとする舌を、根本からべろりと粗雑に舐め上げられる。
「おはようございます、五条さん」
寝起きの掠れた声の、まったく表情を変えない七海を、悟は少しあきれて見上げる。
「おはよー、七海。朝からすけべだねー」
「寝込みを襲ってきたのは五条さんのほうですよ」
「えー、人のせいにする? 僕のキスなんかかわいいもんだったじゃん」
七海はそれに返答はせず、また悟の口に食いついてくる。
悟は、はむはむと食われながら、七海の金色の髪を撫でる。よしよしと可愛がる。
別段自分と同じような不安を七海が今胸中に抱えているとまでは思わない。けれど、寝起きからこんなにまで濃厚にキスをしてしまう七海のことは切ないなあと、撫でて慰める。何を考えているのかは知らないけれど、食って気が済むならいくらでも食っていいよと我が身を供す。