◆世界の果てを望む
言葉少なに酌み交わし、有無を言わさず捕らえられ。
ただ何もせず、眠りにつく。
お前は一体何を思う。分からぬ自分に腹が立つ。
されど、居場所は此処なのだと。それだけはよく知っている。
「……侍女が変わったか?」
顔を洗うための湯を張った桶と布巾を運んできたのは、見慣れない女だった。礼儀作法を叩き込まれているのだろう。人形のように表情ひとつ動かさず、完璧な所作で音も立てずに扉が閉じられた。
「なんだ?好みの女だったか?」
声の方を向けば、ディミトリが未だ寝台に寝転がってしどけない様子で起き上がった。掛布が滑る微かな衣擦れの音がする。出窓の天板に凭れ掛かる俺へ向ける視線はどこか面白そうに細められている。
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