愛おしいトモダチ「旦那、その仕事は俺がやっておくから」
「旦那、何か食いたいもんあるか? 買ってくるけど」
「旦那、今日は洗濯俺がやる」
「なあ、旦那」
依織がよく喋る。もともと口数が少ないわけではないが、今日は口を開けば旦那、旦那と俺を呼ぶ。しかもその内容と言えば俺を気遣うものばかり。なにか裏があるのではないかと勘ぐってしまう。しかしその割には妙に楽しそうというか、嬉しそうというか。悪い顔はしていなかった。
出会ったばかりの頃は、互いの名前さえロクに呼ばなかった。呼ぶときは「おい」とか「てめえ」とか。何度か共に仕事をするうちに、コイツは悪いやつではないのだと分かった。依織はオヤジが、翠石組が好きで、たまに不器用だけど必死で生きている男だった。それが分かった頃には、俺は「依織」と呼ぶようになったし、どういうわけか依織は「旦那」と俺のことを呼ぶようになった。
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