正論が、嫌いだ。
──────だから俺、お前のことも、最初は嫌いだったんだよ。歌姫。
ばあん、と苛立ちに任せて扉を蹴破った。
けたたましく音を立てて倒れ伏した戸板を踏み付け、中に入ると、奥のベッドで横になっていた女がびくりと肩を揺らして振り返る。
いつもは二つに分けて毛先を結んだ黒髪が、さらりと揺れ、細い首のラインに沿って垂れている。白を覆う黒との対比が互いに互いの繊細さを際立たせて、普段以上に頼りなく見せかけた。
ちっ、と思わず舌打ちをくれた。
ずかずかとベッドに歩み寄り近くに用意されていた丸椅子へどかっと腰を下ろしたところ、唖然としていた彼女の焦点が自分の顔の上でようやく定まる。驚きと怯え、それから警戒心で強張っていた表情が、みるみるうちに怒りで染まって険しくなる。
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