その9 喫茶店での一件から、5日が経つ。
イッカンには、バイトや他のバンドの助っ人や依頼がある。イチヤは引っ越しの片付けや通信学校の入学式があり、スケジュールが合わなかった。
時間は過ぎ、太陽を誘うように空に赤みが差し始めた頃。
大通りから細い路地へと入り、また大通りへ、とイチヤは興味の赴くままに、趣味の散歩を楽しんでいた。
路地裏に貼られたスメーシーワールドの古びたポスター。
〈ソ〉が〈ン〉になってしまっているガソリンスタンドの掠れた案内看板。
ナワバリバトルを独自の感性で捉えた、と説明文が添えられた流線型のインクが交わるウォールアート。
アスファルトの割れ目から顔を出す小さな白い蕾。
骨董屋の窓際に飾られ、街灯に照らされるジャッチ君の古い陶器の人形。
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