あきの
ponpontatsuta
DOODLEけあきのあゆみ喧嘩するほど
傘、真夏日(けあきデー)「今日は何月!?」
「五月だ! 言うなますます暑くなる!」
日差しで頭の天辺を焦がされながら、オレは暁人と公園のベンチで滝のような汗を流していた。
アジトのエアコンが壊れたのを皮切りに、暁人と同居中の部屋のエアコンまでが寿命を迎えたのは昨日だ。
元々稼働過多だったアジトのエアコンがオーバーヒートするだけなら分かるが、何もここ十年大事にしてきた部屋のエアコンまで釣られるように壊れることはないだろう。
続く真夏日に業者の修理もすぐには来ないため、オレと暁人は外に涼みに出ることになった。喫茶店にでも行ければよかったんだが、そこで昨日の怪異だ。
「KKからドブみたいな臭いがする!! 鼻曲りそう!!」
「暁人オマエこそ香水臭いんだよ!! こっちこそ鼻曲がるわ!!」
2082「五月だ! 言うなますます暑くなる!」
日差しで頭の天辺を焦がされながら、オレは暁人と公園のベンチで滝のような汗を流していた。
アジトのエアコンが壊れたのを皮切りに、暁人と同居中の部屋のエアコンまでが寿命を迎えたのは昨日だ。
元々稼働過多だったアジトのエアコンがオーバーヒートするだけなら分かるが、何もここ十年大事にしてきた部屋のエアコンまで釣られるように壊れることはないだろう。
続く真夏日に業者の修理もすぐには来ないため、オレと暁人は外に涼みに出ることになった。喫茶店にでも行ければよかったんだが、そこで昨日の怪異だ。
「KKからドブみたいな臭いがする!! 鼻曲りそう!!」
「暁人オマエこそ香水臭いんだよ!! こっちこそ鼻曲がるわ!!」
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PASTけあきのあゆみ思い出と未練
ネクタイ(けあきデー) KKのネクタイは古くて、くたびれている。でも布はしっかりしていて、とてもいいものらしいってことも分かる。
「それ、いつもしてるよね」
KKが出かけるためにネクタイを巻いているのを見て、僕は訊ねていた。
「ああ、ネクタイのことか」
「うんそう。大切そうにしてるよね。誰かのプレゼントだったりするの」
しまった、と思ったけど遅かった。KKは少し困ったような顔をすると話し出す。KKにプレゼントをする「誰か」なんて、予想がついていたのに、僕は馬鹿だ。
「息子が父の日のプレゼントにくれたんだ。正確には息子が選んで、家内が金を出したんだが」
気まずくなりそうな空気はなく、僕は一旦安堵した。
「へぇ、そうなんだ……」
KKと家族は破局を迎えている。その幸せな時間の残滓を纏い続けるKKに、らしくなさと、らしさを同時に感じる。
1399「それ、いつもしてるよね」
KKが出かけるためにネクタイを巻いているのを見て、僕は訊ねていた。
「ああ、ネクタイのことか」
「うんそう。大切そうにしてるよね。誰かのプレゼントだったりするの」
しまった、と思ったけど遅かった。KKは少し困ったような顔をすると話し出す。KKにプレゼントをする「誰か」なんて、予想がついていたのに、僕は馬鹿だ。
「息子が父の日のプレゼントにくれたんだ。正確には息子が選んで、家内が金を出したんだが」
気まずくなりそうな空気はなく、僕は一旦安堵した。
「へぇ、そうなんだ……」
KKと家族は破局を迎えている。その幸せな時間の残滓を纏い続けるKKに、らしくなさと、らしさを同時に感じる。
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみつまりはあなただけ
Only You またお祈りされてしまった。何度目か分からない就活の失敗にため息しか出ない。KKと一緒に住むのを決めた時は、こんな事になるなんて思わなかった。こんな情けない姿を見せることになるなんて。
「ただいま……」
疲れて帰ると、KKはソファで寝転んで本を読んでいた。今日の家事当番はKKなので、テーブルには簡単な料理が並んでいる。
「いま食べる気になんないから、冷蔵庫に入れとくね……」
「おー、置いといていいぜ。後でオレがやっとく。それより……ん」
本を畳んで下に置き、腕を広げるKK。何だよ、と思うのに、体が吸い込まれるようにKKに倒れ込んでしまう。
「うー……」
「オマエは頑張ってる。オマエは偉い。オマエは可愛い」
615「ただいま……」
疲れて帰ると、KKはソファで寝転んで本を読んでいた。今日の家事当番はKKなので、テーブルには簡単な料理が並んでいる。
「いま食べる気になんないから、冷蔵庫に入れとくね……」
「おー、置いといていいぜ。後でオレがやっとく。それより……ん」
本を畳んで下に置き、腕を広げるKK。何だよ、と思うのに、体が吸い込まれるようにKKに倒れ込んでしまう。
「うー……」
「オマエは頑張ってる。オマエは偉い。オマエは可愛い」
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみワレナベトジブタ
おかしなふたり「大体さ、今時の若者って何!? 僕は僕だろ!?」
暁人は普段柔和で人当たりが良いが、怒りのスイッチが入ると止まらなくなることがある。
「オレが悪かった。もう機嫌なおせよ」
「悪かったと思うならちゃんと謝って! 悪かったは謝罪じゃないし、ご機嫌取りで謝られてもさぁ!」
「だから悪かったって……大体何だよ。オマエだってオレのこと、妖怪DVDおじさんとか言ってたろ」
「それは事実! KKのは不当なカテゴライズ!」
「屁理屈言うな」
「屁理屈言ってるのはKK!」
この後十分に及ぶオレたちの小競り合いは、日頃思っていた引け目をオレから最悪な形で引き出した。
「じゃあ別れるか」
こんな頑なで、面白みのないおっさんから、自由にしてやるよ、暁人。
715暁人は普段柔和で人当たりが良いが、怒りのスイッチが入ると止まらなくなることがある。
「オレが悪かった。もう機嫌なおせよ」
「悪かったと思うならちゃんと謝って! 悪かったは謝罪じゃないし、ご機嫌取りで謝られてもさぁ!」
「だから悪かったって……大体何だよ。オマエだってオレのこと、妖怪DVDおじさんとか言ってたろ」
「それは事実! KKのは不当なカテゴライズ!」
「屁理屈言うな」
「屁理屈言ってるのはKK!」
この後十分に及ぶオレたちの小競り合いは、日頃思っていた引け目をオレから最悪な形で引き出した。
「じゃあ別れるか」
こんな頑なで、面白みのないおっさんから、自由にしてやるよ、暁人。
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみずっと一緒
家族になろうよ「家族になるか」
他に言葉が思い浮かばなかった。もう恋人だ。だったら、これ以上の言葉はないと思っていた。
「そんなこと言わなくても、将来介護はするつもりだよ」
暁人は微笑みを浮かべてオレの手を取る。オレは盛大に滑ったらしい。
あの夜から十年。オレももういい年だ。こんな商売もしてる。いつ死んでもいいように、暁人に残すものがあるように。
そうして思うのは、結婚だ。オレは古い人間だから、最終到達地点をそこに見出してしまう。
伊月暁人という未練が出来て、死んだことにしていた戸籍を戻した。並大抵のことじゃなかったが、それを越えて、いま暁人と二人で生きている。その証として、オレは暁人の伴侶になりたい。
「暁人」
980他に言葉が思い浮かばなかった。もう恋人だ。だったら、これ以上の言葉はないと思っていた。
「そんなこと言わなくても、将来介護はするつもりだよ」
暁人は微笑みを浮かべてオレの手を取る。オレは盛大に滑ったらしい。
あの夜から十年。オレももういい年だ。こんな商売もしてる。いつ死んでもいいように、暁人に残すものがあるように。
そうして思うのは、結婚だ。オレは古い人間だから、最終到達地点をそこに見出してしまう。
伊月暁人という未練が出来て、死んだことにしていた戸籍を戻した。並大抵のことじゃなかったが、それを越えて、いま暁人と二人で生きている。その証として、オレは暁人の伴侶になりたい。
「暁人」
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみコスプレはいいね!
メイドの日「おい、それは何だ」
「男性サイズのメイド服ですにゃ」
にゃーんと猫又が、何でもないことみたいに言う。KKは青くなったり赤くなったりしながら、刃物みたいな声で言った。
「オレも暁人も着ねぇぞ」
「女狐の格好はするくせにぃ」
「オレはしてねぇし、あれは強いから、いいんだ」
「じゃあ、暁人は? 暁人は着てくれる?」
にゃーんと、可愛く首を傾げられた。そうは言われても。
「KKが嫌がることは、したくないなぁ」
「そんにゃあ」
困り眉の猫又、かわいいな。
でもダメだ。メイド服は二着。このままだとKKまで、メイド服を着る羽目になってしまう。
ちょっと見たいけど、だからってKKが嫌がることは、本当に本意じゃない。だから僕もお断りする。ごめんね。
1303「男性サイズのメイド服ですにゃ」
にゃーんと猫又が、何でもないことみたいに言う。KKは青くなったり赤くなったりしながら、刃物みたいな声で言った。
「オレも暁人も着ねぇぞ」
「女狐の格好はするくせにぃ」
「オレはしてねぇし、あれは強いから、いいんだ」
「じゃあ、暁人は? 暁人は着てくれる?」
にゃーんと、可愛く首を傾げられた。そうは言われても。
「KKが嫌がることは、したくないなぁ」
「そんにゃあ」
困り眉の猫又、かわいいな。
でもダメだ。メイド服は二着。このままだとKKまで、メイド服を着る羽目になってしまう。
ちょっと見たいけど、だからってKKが嫌がることは、本当に本意じゃない。だから僕もお断りする。ごめんね。
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PASTけあきのあゆみ僕たちは生きてる
デリシャス・イン・マンション 食べることは生きることだ。生きることは楽しいことだ。
そう思えたのはあの夜のお陰で、それまではただ生きるために食べていた。楽しいなんて思ったこともない。
バイトの掛け持ちや力仕事でたくさん食べてはいたけど、それだけだ。それが変わったのは、変えてくれたのは、ほかの誰でもない、僕の相棒。KK。
「本当によく食うよな」
「うん、美味しくてさ。美味しくて美味しくて、止まらないんだ」
アジトで作った山盛りのチャーハンをかき込む。笑う声がして食べるのをやめると、KKが笑っていた。
「それでどうして太らねぇんだよ、オマエ。腹の中にブラックホールでもあるんじゃねぇのか」
食べ物で一杯になってるお腹を両脇から押さえられて、僕は苦しさよりもくすぐったさで笑った。
948そう思えたのはあの夜のお陰で、それまではただ生きるために食べていた。楽しいなんて思ったこともない。
バイトの掛け持ちや力仕事でたくさん食べてはいたけど、それだけだ。それが変わったのは、変えてくれたのは、ほかの誰でもない、僕の相棒。KK。
「本当によく食うよな」
「うん、美味しくてさ。美味しくて美味しくて、止まらないんだ」
アジトで作った山盛りのチャーハンをかき込む。笑う声がして食べるのをやめると、KKが笑っていた。
「それでどうして太らねぇんだよ、オマエ。腹の中にブラックホールでもあるんじゃねぇのか」
食べ物で一杯になってるお腹を両脇から押さえられて、僕は苦しさよりもくすぐったさで笑った。
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PASTけあきのあゆみその記憶は初恋
闇と遊んだ記憶 闇の中で手を引かれて歩いた。僕は多分その時迷子で、右も左も分からなくて。
僕の手を引く大きな手は暖かくて力強くて、僕は勇気をもらったみたいな気持ちで、泣かないでいられた。でも結局、あれは誰だったんだろう。
「分かりますにゃ」
にゃーん、と猫又が営業を仕掛けてきた。碌な事にならないから断れよ、とKKにはいつも言われていたけど、この時は好奇心と懐かしさが勝ってしまった。こっそり貯めていた冥貨を注ぎ込んで、猫又からそれを買う。
記憶はっきりするーん、とか何とか。かなり胡散臭い名前だったけど、僕はその和綴じの冊子のようなアイテムを言われた通りに枕の下に敷いて寝た。
それが今夜で、いま、ここは夢の中だ。
「迷子か、ガキ」
1049僕の手を引く大きな手は暖かくて力強くて、僕は勇気をもらったみたいな気持ちで、泣かないでいられた。でも結局、あれは誰だったんだろう。
「分かりますにゃ」
にゃーん、と猫又が営業を仕掛けてきた。碌な事にならないから断れよ、とKKにはいつも言われていたけど、この時は好奇心と懐かしさが勝ってしまった。こっそり貯めていた冥貨を注ぎ込んで、猫又からそれを買う。
記憶はっきりするーん、とか何とか。かなり胡散臭い名前だったけど、僕はその和綴じの冊子のようなアイテムを言われた通りに枕の下に敷いて寝た。
それが今夜で、いま、ここは夢の中だ。
「迷子か、ガキ」
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみレットアスオンリー
ハネムーンサラダ 学内のカフェでコーヒーを飲んでいたら、二人組の女の人に声をかけられた。
「お一人なら、一緒にコーヒー飲みませんか」
顔は真っ赤で、声は震えている。もしかしたら、凄く勇気を出してくれたのかもしれない。そう思うと僕は微笑んで、なるべくやさしく答えを返した。
「連れを待っているので、すみません」
女の人は少しだけ泣きそうな顔をして、すぐ笑顔を作った。きれいな人だな、と思った。もう一人の女の人は、不機嫌な顔を隠さずに僕を睨んでくる。優しい人だな、と思った。
「ごめんなさい。変なことを言ってしまって」
「いいえ、構いませんよ」
「暁人」
ちょうどそこに、KKが来た。不機嫌そうにしていた女の人が口を開く。
「二人と二人でちょうどいいじゃないですか。お話しましょうよ」
723「お一人なら、一緒にコーヒー飲みませんか」
顔は真っ赤で、声は震えている。もしかしたら、凄く勇気を出してくれたのかもしれない。そう思うと僕は微笑んで、なるべくやさしく答えを返した。
「連れを待っているので、すみません」
女の人は少しだけ泣きそうな顔をして、すぐ笑顔を作った。きれいな人だな、と思った。もう一人の女の人は、不機嫌な顔を隠さずに僕を睨んでくる。優しい人だな、と思った。
「ごめんなさい。変なことを言ってしまって」
「いいえ、構いませんよ」
「暁人」
ちょうどそこに、KKが来た。不機嫌そうにしていた女の人が口を開く。
「二人と二人でちょうどいいじゃないですか。お話しましょうよ」
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみ僕はね
煙の行方2 KKに当分一人での仕事は駄目だと言われて、また振り出しに戻ってしまった。でもあの時、あの場で固まって動けなくなってる子猫を見殺しにすることは出来なかった。それにKKはそんな僕を否定するんじゃなくて、僕がもっと強くならなきゃいけないって暗に言ってくれた気もするし、振り出しだけど、少しは前進したと思いたい。
「あれ、KKは」
『仕事だ』
KKはこうして一人での危険な仕事もこなす。その度に僕は腹の底が寒くなるような思いをする。僕がいては足手まといだからと止められたその意図は、危険な目に遭わせないように、だとは分かっているけど。
「早く手伝えるようになりたいです」
『頑張るといい』
エドさんとはこうしてボイレコで会話する。KKには普通に話しかけることもある、と聞いて、物凄い胸騒ぎとソワソワした気持ちが湧いて、焦ったのはつい最近だ。理由は、もう分かっている。
889「あれ、KKは」
『仕事だ』
KKはこうして一人での危険な仕事もこなす。その度に僕は腹の底が寒くなるような思いをする。僕がいては足手まといだからと止められたその意図は、危険な目に遭わせないように、だとは分かっているけど。
「早く手伝えるようになりたいです」
『頑張るといい』
エドさんとはこうしてボイレコで会話する。KKには普通に話しかけることもある、と聞いて、物凄い胸騒ぎとソワソワした気持ちが湧いて、焦ったのはつい最近だ。理由は、もう分かっている。
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみ素直になれば?
煙の行方 単独で祓ってみたいと暁人が言った時、オレは止めなかった。簡単な仕事を振り分けて、札も多めに持たせた。それなのに暁人は、明け方穢れの気配をぷんぷんさせながら帰ってきた。
「暁人」
「ごめん……大詰めって時に、気を抜いちゃって……」
嘘だ。暁人はそんな人間じゃない。理由なんて、誰だって分かりきっていた。
タクティカルジャケットに不自然な膨らみ、それがたまに身動ぎする。
「暁人……オマエそれ」
「あ、うん、その、戦いに巻き込んじゃって……咄嗟に」
大方、犬だか猫だかが戦いの邪気に当てられて硬直したのを、懐に入れて庇いながら戦ったんだろう。優しさは美徳だが、避けきれなかった穢れにこんなに冒されている相棒は、看過できなかった。
1115「暁人」
「ごめん……大詰めって時に、気を抜いちゃって……」
嘘だ。暁人はそんな人間じゃない。理由なんて、誰だって分かりきっていた。
タクティカルジャケットに不自然な膨らみ、それがたまに身動ぎする。
「暁人……オマエそれ」
「あ、うん、その、戦いに巻き込んじゃって……咄嗟に」
大方、犬だか猫だかが戦いの邪気に当てられて硬直したのを、懐に入れて庇いながら戦ったんだろう。優しさは美徳だが、避けきれなかった穢れにこんなに冒されている相棒は、看過できなかった。
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみ彼岸の絆
NOT GUILTY「遠くまできちゃったね」
そういう暁人の手は痩せていて、骨と血管が浮いている。加齢で色素の抜けた肌はいっそ美しく、まるで生まれたてのようなのに、幾重にも皺が刻まれていて、ひどく頼りない。
「オレは、そうでもないみたいだ」
「KKはあの夜のまんま、変わらない」
「暁人」
「それなのに、僕が死んだら死ぬんだね」
「そうだ。それがオマエが招いた呪いだ」
「ごめんね」
微笑みながら謝る顔は幼く、罪悪感など欠片も知らぬかのようだ。いや、罪を感じる必要など、これっぽっちもない。
「オレは幸福だった」
「僕は寂しかった。でも、今、やっと幸せだ」
微笑みが深くなる。
もうすぐ死ぬ、オレの半身。
「KK、手を握ってて」
「オマエこそ、離すなよ」
405そういう暁人の手は痩せていて、骨と血管が浮いている。加齢で色素の抜けた肌はいっそ美しく、まるで生まれたてのようなのに、幾重にも皺が刻まれていて、ひどく頼りない。
「オレは、そうでもないみたいだ」
「KKはあの夜のまんま、変わらない」
「暁人」
「それなのに、僕が死んだら死ぬんだね」
「そうだ。それがオマエが招いた呪いだ」
「ごめんね」
微笑みながら謝る顔は幼く、罪悪感など欠片も知らぬかのようだ。いや、罪を感じる必要など、これっぽっちもない。
「オレは幸福だった」
「僕は寂しかった。でも、今、やっと幸せだ」
微笑みが深くなる。
もうすぐ死ぬ、オレの半身。
「KK、手を握ってて」
「オマエこそ、離すなよ」
ponpontatsuta
PASTけあきのあゆみざざーん
波間の攻防 視線が吸い寄せられる。たかだか素足だ。しかも、親子ほど年の離れた青年の素足。それなのに。
浜辺の砂を蹴りながら、波と戯れている暁人は無邪気そのもので、後ろめたさが募る。
「けーけ! ねぇ、何でそんなに離れてんの」
「水がかかる」
「え、かけてるのに。道理で届かないわけだ。もっと近づいてよ」
「何ニヤニヤしてるんだよ。やらしい顔しやがって」
「やだ、えっち」
それなのに、暁人は屈託なく笑う。
「エッチって、オマエな」
「ふふ、KKの二の腕に欲情してるの、バレた?」
屈託なく、欲望を語る。
「ねぇ、ここに来る前にね、準備してきたんだ」
視線が絡んだ。熱と湿り気を帯びた空気が二人を包む。
「いつでも出来るよ。ここでする? それとも、宿?」
715浜辺の砂を蹴りながら、波と戯れている暁人は無邪気そのもので、後ろめたさが募る。
「けーけ! ねぇ、何でそんなに離れてんの」
「水がかかる」
「え、かけてるのに。道理で届かないわけだ。もっと近づいてよ」
「何ニヤニヤしてるんだよ。やらしい顔しやがって」
「やだ、えっち」
それなのに、暁人は屈託なく笑う。
「エッチって、オマエな」
「ふふ、KKの二の腕に欲情してるの、バレた?」
屈託なく、欲望を語る。
「ねぇ、ここに来る前にね、準備してきたんだ」
視線が絡んだ。熱と湿り気を帯びた空気が二人を包む。
「いつでも出来るよ。ここでする? それとも、宿?」
turb_shirotae
DOODLEズあきの子供の話。前回の続き。親あまり出てこない。 自分が世界最強の魔法使いの子供であることは言ってはならない。誰に言われたわけでもないが、何となく少年はそう思っていた。
少年にとって父はただの不器用な男だ。世界最強の魔法使いなのだと言われてもいまいちピンとこない。いつも暖炉の前のソファに腰掛けて、本を読んでいたり何かを考え込んでいたり、時々母と話をしていたりする。確かにすごい魔法を使っている時の父はかっこいいが、それ以外は本当にピンとこない。
けれども、ミスラをはじめとした多くの強い魔法使いが父を石にしようと城を訪れる。そんな彼らを易々と返り討ちにする父を見て、やっぱりこの人はすごい人なんだと幼心に思った。
そんな彼の息子だと言ったらどうなるだろうか。あのオズの息子というレッテル張りは避けられないだろう。人間には恐れられるかもしれない。下手したら変な魔法使いに命を狙われるかも。だから、少年は中央の国に進学する時に決めた。
2393少年にとって父はただの不器用な男だ。世界最強の魔法使いなのだと言われてもいまいちピンとこない。いつも暖炉の前のソファに腰掛けて、本を読んでいたり何かを考え込んでいたり、時々母と話をしていたりする。確かにすごい魔法を使っている時の父はかっこいいが、それ以外は本当にピンとこない。
けれども、ミスラをはじめとした多くの強い魔法使いが父を石にしようと城を訪れる。そんな彼らを易々と返り討ちにする父を見て、やっぱりこの人はすごい人なんだと幼心に思った。
そんな彼の息子だと言ったらどうなるだろうか。あのオズの息子というレッテル張りは避けられないだろう。人間には恐れられるかもしれない。下手したら変な魔法使いに命を狙われるかも。だから、少年は中央の国に進学する時に決めた。
もみ吉
DOODLE表で投げてたセスアキまとめセスがフルネームで検索引っかかっちゃうと思うので引っ込めてまとめました
多分セスアキの投稿はこっちメインになると思う...(早く絵文字とか決まるといいね...) 5
ひだか
PAST【嫁ブレイクで恋6】※あきーむの髪が伸びます載せ忘れておりました(7はこれの前にあります)
診断で出たお題「相手の髪に手を伸ばし、そっと耳にかけてやるクロアキの絵」です。
髪とは…?2人とも不可能では…??
という訳で伸びました。実際伸ばすならもっとツンツンの短髪とかを好みそうですが、時間の経過を表したかったので長めです。
🐊の手が小さすぎた。
turb_shirotae
DOODLEむるあきの娘とおシャイ ドアのベルが鳴る。その音を見事に聞きつけた少女は遊んでいた人形を放りだして玄関へとかけていく。その後ろを母親である晶が必死に追いかけた。
「おかえり、パパ! おじさんもいらっしゃい!」
玄関先にいる二人の男性に少女は元気に挨拶をする。パープルの長い髪をたなびかせながら、少女は片方の男性に抱きついた。
「おやおや」
抱きつかれた男性――シャイロックは困ったように笑いながら少女を抱きかかえた。満更でもなさそうな笑みを浮かべて隣にいる男をちらりと見た。
「どうしました、ムル」
「……え? いや、え……?」
彼にしては珍しく混乱しているらしい。彼らしくもなく言葉の歯切れが悪くて、その大きな瞳を一層大きくして少女を見つめていた。
1520「おかえり、パパ! おじさんもいらっしゃい!」
玄関先にいる二人の男性に少女は元気に挨拶をする。パープルの長い髪をたなびかせながら、少女は片方の男性に抱きついた。
「おやおや」
抱きつかれた男性――シャイロックは困ったように笑いながら少女を抱きかかえた。満更でもなさそうな笑みを浮かべて隣にいる男をちらりと見た。
「どうしました、ムル」
「……え? いや、え……?」
彼にしては珍しく混乱しているらしい。彼らしくもなく言葉の歯切れが悪くて、その大きな瞳を一層大きくして少女を見つめていた。
turb_shirotae
DOODLEおえあきの息子とボス 遠くから子供の泣き声が聞こえる。次第に近づいてくるその声に、神妙な顔つきでダイニングチェアに腰掛けていた晶ははっと立ち上がった。転がるように玄関先へ向かう。ドアの鍵を開けようとして、その前に誰かの魔法が発動した。
「《アドノポテンスム》」
ドアが勢いよく開く。一気に外の寒気が家の中に入りこみ、晶は震え上がった。
「ブラッドリー!?」
「おらよ」
懐かしい顔の魔法使いはその腕の中にいた少年を晶へ渡す。少年は晶の顔を見て、既に涙や鼻水でぐちゃぐちゃな顔を一層歪ませた。
「ままぁ」
晶にしがみつく少年を見守りつつ、ブラッドリーは一歩玄関先に踏み込む。指を鳴らして彼はドアを閉めた。入りこんだ雪も軽く片付けてから、呆れた顔で晶を睨みつけた。
1558「《アドノポテンスム》」
ドアが勢いよく開く。一気に外の寒気が家の中に入りこみ、晶は震え上がった。
「ブラッドリー!?」
「おらよ」
懐かしい顔の魔法使いはその腕の中にいた少年を晶へ渡す。少年は晶の顔を見て、既に涙や鼻水でぐちゃぐちゃな顔を一層歪ませた。
「ままぁ」
晶にしがみつく少年を見守りつつ、ブラッドリーは一歩玄関先に踏み込む。指を鳴らして彼はドアを閉めた。入りこんだ雪も軽く片付けてから、呆れた顔で晶を睨みつけた。
turb_shirotae
DOODLEれのあきの娘とふぃ 南の国の優しいお医者さん魔法使い。そう自称するフィガロには最近悩み事があった。
「おじさん」
「お兄さん、でしょ」
「フィガロおじさん三十二歳なんでしょ? おじさんじゃん」
「こら。フィガロ先生に失礼だろう」
知り合いの子供がふてぶてしい。父親であるレノックスは何度も注意しているのに、この少女はフィガロのことを『おじさん』と呼び続けた。
「で、フィガロおじさん。お母さんは大丈夫なの?」
「お兄さんね。大丈夫、少し安静してもらってるけど問題はないと思うよ」
ここ、フィガロの診療所にレノックスと彼の娘が訪れていたのには理由があった。
最近、少女の母親――晶の体調が優れない。どうも常に気分が悪そうで、時々戻してしまう。何も食べたくない、と訴える彼女を心配した二人は慌ててフィガロの元にやってきたのだ。
893「おじさん」
「お兄さん、でしょ」
「フィガロおじさん三十二歳なんでしょ? おじさんじゃん」
「こら。フィガロ先生に失礼だろう」
知り合いの子供がふてぶてしい。父親であるレノックスは何度も注意しているのに、この少女はフィガロのことを『おじさん』と呼び続けた。
「で、フィガロおじさん。お母さんは大丈夫なの?」
「お兄さんね。大丈夫、少し安静してもらってるけど問題はないと思うよ」
ここ、フィガロの診療所にレノックスと彼の娘が訪れていたのには理由があった。
最近、少女の母親――晶の体調が優れない。どうも常に気分が悪そうで、時々戻してしまう。何も食べたくない、と訴える彼女を心配した二人は慌ててフィガロの元にやってきたのだ。
turb_shirotae
DOODLEずあきの子供と中央の国の王子【ずあきの子供とアーサー】
北の国を訪れたのはいったいいつぶりだろうか。
アーサーはそのひんやりとした空気に身震いしながら雪の草原に降り立った。目の前に広がる大きな城。そちらに一歩踏み出せば、固く閉ざされた城門がゆっくりと人知れず開いていく。まるでアーサーを迎え入れるかのような動きで、アーサーはそれを嬉しく思いながら足を進めた。
アーサーは迷うことなく城の中へと入っていく。大広間がある方から人の気配と暖かな空気が流れてくる。きっとこちらだ、とアーサーは小走りでかけていく。
「オズ様、お久しぶりでっ……!」
待ちきれずにそう声をかけながら大広間に顔を覗かせた瞬間、腰の辺りに衝撃を感じる。アーサーがそっと視線を落とせば、そこにはブラウンの髪を長く垂らした少年が瞳を輝かせながらアーサーを見上げていた。
1111北の国を訪れたのはいったいいつぶりだろうか。
アーサーはそのひんやりとした空気に身震いしながら雪の草原に降り立った。目の前に広がる大きな城。そちらに一歩踏み出せば、固く閉ざされた城門がゆっくりと人知れず開いていく。まるでアーサーを迎え入れるかのような動きで、アーサーはそれを嬉しく思いながら足を進めた。
アーサーは迷うことなく城の中へと入っていく。大広間がある方から人の気配と暖かな空気が流れてくる。きっとこちらだ、とアーサーは小走りでかけていく。
「オズ様、お久しぶりでっ……!」
待ちきれずにそう声をかけながら大広間に顔を覗かせた瞬間、腰の辺りに衝撃を感じる。アーサーがそっと視線を落とせば、そこにはブラウンの髪を長く垂らした少年が瞳を輝かせながらアーサーを見上げていた。
turb_shirotae
DOODLEふぁうあきの息子が進学の関係で雨の街のネのところにお世話になる話 静かだけれど、どこか賑わいを見せる雨の街。僕がこの街に降り立ったのは両の手で数えられるぐらいしかない。
僕は今日からこの街で暮らす。新たな生活に心を揺らしながらも、街中を歩いた。
角を数回曲がれば、路地に小さな立て看板が出てくる。シンプルなそれには見覚えがある。僕は一度立ち止まってカバンを握り直して、そのドアを開けた。
小さなレストランだった。個人が経営しているその場は幼い頃から変わらない。
「いらっしゃ……ああ、久しぶりだな」
キッチンの奥から顔を覗かせた店主は、僕の顔を見て表情を緩ませた。
店主は両親の知り合いだった。父はよく店主と酒を飲んでいたと言っているし、母も『あの人の作るご飯はどれも美味しい』と嬉しそうに思い出を語っていた。
943僕は今日からこの街で暮らす。新たな生活に心を揺らしながらも、街中を歩いた。
角を数回曲がれば、路地に小さな立て看板が出てくる。シンプルなそれには見覚えがある。僕は一度立ち止まってカバンを握り直して、そのドアを開けた。
小さなレストランだった。個人が経営しているその場は幼い頃から変わらない。
「いらっしゃ……ああ、久しぶりだな」
キッチンの奥から顔を覗かせた店主は、僕の顔を見て表情を緩ませた。
店主は両親の知り合いだった。父はよく店主と酒を飲んでいたと言っているし、母も『あの人の作るご飯はどれも美味しい』と嬉しそうに思い出を語っていた。