はねた
DOODLE昔話をする福田さんと月島さんを書きました。堀田さんが福田さんの足の心配をしすぎて実力行使に出るとかわいいなと思いをこめました。
同じ空の下 ネットの端をくぐってあらわれたひとに、月島はボードに書き込む手を止めた。
「福田さん」
そう呼べば、おうと短い返事がある。
「どうしたんだい?」
尋ねたのは、普段よりも憔悴したさまが目についたからだった。
ああ、と肩をすくめ、福田はぶらぶらと近づいてくる。
練習場には子どもたちの掛け声が響いていた。福田率いるAチームは今後の試合日程が密ということもあり、きょうは軽いリカバリのあと早々に解散していた。そのぶんBチームのメンバーは張り切っているようで、ボール回しをするグループがあちらこちらに、伊達がしっかりとそれらに目を配っている。月島は記録係として、選手それぞれの気になるところをメモしているところだった。
2863「福田さん」
そう呼べば、おうと短い返事がある。
「どうしたんだい?」
尋ねたのは、普段よりも憔悴したさまが目についたからだった。
ああ、と肩をすくめ、福田はぶらぶらと近づいてくる。
練習場には子どもたちの掛け声が響いていた。福田率いるAチームは今後の試合日程が密ということもあり、きょうは軽いリカバリのあと早々に解散していた。そのぶんBチームのメンバーは張り切っているようで、ボール回しをするグループがあちらこちらに、伊達がしっかりとそれらに目を配っている。月島は記録係として、選手それぞれの気になるところをメモしているところだった。
はねた
TRAINING大友くんと朝利くんのどっちつかずの関係が気になります。月島さんと堀田さんも。
戦いは終わらない 大友は疲れていた。
この半日でぼろぼろになったノートを握りしめ、重い足を引きずりながら歩く。校門を出てだいぶ経つというのに、歩みは遅々として進まない。寮への道のりは遠く、どこまでもはるかに感じられた。
冬の道にみずからの影ばかりが黒ぐろとしてのびている。
頭のなかとノートには、この半日校内を駆けずりまわって収集したユース在籍者の恋愛事情がぱんぱんに詰めこまれている。竹島、増子、黒田と、その名をノートに記すたび文字は涙で滲んだ。けれどもせっかく得た情報を無駄にするのも癪で、何もかもつまびらかに書きつくしてやった。
結果として大友は、同期および先輩たちのプライベートを掌中におさめることに成功した。
4435この半日でぼろぼろになったノートを握りしめ、重い足を引きずりながら歩く。校門を出てだいぶ経つというのに、歩みは遅々として進まない。寮への道のりは遠く、どこまでもはるかに感じられた。
冬の道にみずからの影ばかりが黒ぐろとしてのびている。
頭のなかとノートには、この半日校内を駆けずりまわって収集したユース在籍者の恋愛事情がぱんぱんに詰めこまれている。竹島、増子、黒田と、その名をノートに記すたび文字は涙で滲んだ。けれどもせっかく得た情報を無駄にするのも癪で、何もかもつまびらかに書きつくしてやった。
結果として大友は、同期および先輩たちのプライベートを掌中におさめることに成功した。
はねた
DOODLEほったさんとつきしまさんの組み合わせはいいですねという話を書きました。未だ見ぬ星座 冬の雑踏はくすんだ匂いがする。
夜だった。スマートフォンの画面に表示された時刻は8時52分、空は暗いはずなのに、ひしめく電飾が昼間よりもあたりを明るくする。赤と緑のモールがぐるりと巻かれた街灯、豆電球がトナカイや髭の老人の姿をかたちづくる。
ビルの合間にのぞく月は爪の先めいて細い。星はなくて、飛行機のランプがちかちかと赤く瞬いていた。
風は冷えている。
月島はマフラーに顔をうずめた。宴の余韻がまだ体のあちこちにこびりついている。忘年会とも送別会とも祝勝会ともつかない、そのせいか感情の収めどころがよくわからないままでいる。胸のあたりがすうとして、けれどふしぎにあたたかい。
アルコールと煙草と焼肉とひとの移り香と、鼻先のあたりでいりまじってひとつになる。
3659夜だった。スマートフォンの画面に表示された時刻は8時52分、空は暗いはずなのに、ひしめく電飾が昼間よりもあたりを明るくする。赤と緑のモールがぐるりと巻かれた街灯、豆電球がトナカイや髭の老人の姿をかたちづくる。
ビルの合間にのぞく月は爪の先めいて細い。星はなくて、飛行機のランプがちかちかと赤く瞬いていた。
風は冷えている。
月島はマフラーに顔をうずめた。宴の余韻がまだ体のあちこちにこびりついている。忘年会とも送別会とも祝勝会ともつかない、そのせいか感情の収めどころがよくわからないままでいる。胸のあたりがすうとして、けれどふしぎにあたたかい。
アルコールと煙草と焼肉とひとの移り香と、鼻先のあたりでいりまじってひとつになる。
はねた
TRAININGaoasたかすぎくんとたいらくんを書きました。たいらくんの決断後のお話。
世界はまだきみを知らない 談話室の空気はぬるい。
ひとの気配がまだあちらこちらに残っているような、けれども八時を過ぎたいまあたりにひと影はない。
廊下のさきにはいくつか馴染んだひとの声が、それも次第に遠ざかっていく。
平はソファに腰かけている。
テーブルにはマグカップがひとつ、白湯をさまして淹れてある。なにやら気に入らないことがあったらしい、同室の住人が妙にぴりぴりしていたので退避してきたところだった。
黙々と筋トレをする阿久津の姿をおもいだし、ちいさく笑う。あの癇癪玉を気遣う日々ももうすぐおしまいとおもえばいっそ感慨深い。
暇つぶしがてら文庫本の頁をながめていると、そのとき背後で声がした。
「なにしてるんだ」
「高杉」
なまえを呼べば、ああときまじめな返事がある。風呂上がりらしい、すこし上気した首筋にタオルがかかっている。
2444ひとの気配がまだあちらこちらに残っているような、けれども八時を過ぎたいまあたりにひと影はない。
廊下のさきにはいくつか馴染んだひとの声が、それも次第に遠ざかっていく。
平はソファに腰かけている。
テーブルにはマグカップがひとつ、白湯をさまして淹れてある。なにやら気に入らないことがあったらしい、同室の住人が妙にぴりぴりしていたので退避してきたところだった。
黙々と筋トレをする阿久津の姿をおもいだし、ちいさく笑う。あの癇癪玉を気遣う日々ももうすぐおしまいとおもえばいっそ感慨深い。
暇つぶしがてら文庫本の頁をながめていると、そのとき背後で声がした。
「なにしてるんだ」
「高杉」
なまえを呼べば、ああときまじめな返事がある。風呂上がりらしい、すこし上気した首筋にタオルがかかっている。
はねた
TRAININGあさりくんとおおともくんを書きました。第九軍団は名作。
ピストルギャラクシー 机の明かりがついていた。
朝利はこちらに背を向けている。金の髪がきらきらと、蛍光灯のあかりにまぶしい。勉強をしているのかとおもえば、その手元にはぶあついペーパーバックがあった。ときおりぺらりと紙をめくる音がする。
乾かしたはずの髪からぽたぽたと滴が落ちた。寝癖になったら困るなと、大友は首にかけたタオルでそれを拭う。部屋ごとにシャワーがついているのは便利だと、いまさらながらに感心した。朝利もどうやら寝支度は済ませているらしい、パジャマのうえにカーディガンを羽織っている。
時計の針は十時をさしていた。
きょうも練習はハードだったから、体のあちらこちらに疲れが溜まっている。こういうときは早く寝るにかぎると、大友はパジャマの背に声をかけた。
2389朝利はこちらに背を向けている。金の髪がきらきらと、蛍光灯のあかりにまぶしい。勉強をしているのかとおもえば、その手元にはぶあついペーパーバックがあった。ときおりぺらりと紙をめくる音がする。
乾かしたはずの髪からぽたぽたと滴が落ちた。寝癖になったら困るなと、大友は首にかけたタオルでそれを拭う。部屋ごとにシャワーがついているのは便利だと、いまさらながらに感心した。朝利もどうやら寝支度は済ませているらしい、パジャマのうえにカーディガンを羽織っている。
時計の針は十時をさしていた。
きょうも練習はハードだったから、体のあちらこちらに疲れが溜まっている。こういうときは早く寝るにかぎると、大友はパジャマの背に声をかけた。
はねた
TRAININGあきやまさんとこばやかわさんの恋の予感を書きました。あきこば。もしくはこばあき。
ほんとのきもち 窓の外はとっぷりと暗い。八時をすぎて、まだ寝るには早いかと寮内をぶらついていたところ、談話室のソファにひと影をみつけた。
見慣れた背中だったから、ジャージのポケットに手をつっこんだまま秋山はぶらぶらと近づいてみる。
ソファに浅く腰かけて、小早川はひとりテーブルに置いたタブレットに見入っていた。音声は切られていて、あたりにほかにひとはいないというのに律儀なことだと感心する。
背中越しにひょいと画面をのぞきこんでみれば、ひとりの選手がロングボールを投げているところだった。何の試合かとながめているうち、山形のユニフォームが大写しになる。
「熱心ですね」
そう言いながら、秋山はソファの肘掛けあたりまでまわりこむ。なんとなし拗ねているような口つきになってしまったから、これはよくないと咳ばらいにまぎらせた。
2910見慣れた背中だったから、ジャージのポケットに手をつっこんだまま秋山はぶらぶらと近づいてみる。
ソファに浅く腰かけて、小早川はひとりテーブルに置いたタブレットに見入っていた。音声は切られていて、あたりにほかにひとはいないというのに律儀なことだと感心する。
背中越しにひょいと画面をのぞきこんでみれば、ひとりの選手がロングボールを投げているところだった。何の試合かとながめているうち、山形のユニフォームが大写しになる。
「熱心ですね」
そう言いながら、秋山はソファの肘掛けあたりまでまわりこむ。なんとなし拗ねているような口つきになってしまったから、これはよくないと咳ばらいにまぎらせた。
はねた
TRAININGお昼ごはんを食べる監督とコーチたちを書きました。ループ&ループ「どうしたんだい、それ」
休憩室のドアを開けた瞬間、目に飛びこんできた光景に月島は驚きの声をあげた。
後輩からのその問いに、福田はぐいと口を引きむすぶことで返す。冷凍庫から氷をとりだしながら、それがなあと弁禅が苦笑まじりに答えた。
「花ちゃんにセクハラして殴られたんじゃ」
「違うわ」
選手用のアイスパックを弁禅から受け取り、福田はそれを右頬にあてる。義妹に張られたという、手形の跡はくっきりとして鮮やかだった。
はあと月島は小首をかしげる。
休憩室は雑然としている。窓際にはローテーブルがあって、革張りのソファが二脚据えられていた。ふてくされた顔で陣取った、福田の真向かいに月島は座る。
「福田さん、犯罪は困るよ。クラブの経歴に傷がつく」
2380休憩室のドアを開けた瞬間、目に飛びこんできた光景に月島は驚きの声をあげた。
後輩からのその問いに、福田はぐいと口を引きむすぶことで返す。冷凍庫から氷をとりだしながら、それがなあと弁禅が苦笑まじりに答えた。
「花ちゃんにセクハラして殴られたんじゃ」
「違うわ」
選手用のアイスパックを弁禅から受け取り、福田はそれを右頬にあてる。義妹に張られたという、手形の跡はくっきりとして鮮やかだった。
はあと月島は小首をかしげる。
休憩室は雑然としている。窓際にはローテーブルがあって、革張りのソファが二脚据えられていた。ふてくされた顔で陣取った、福田の真向かいに月島は座る。
「福田さん、犯罪は困るよ。クラブの経歴に傷がつく」
はねた
TRAINING現役時代のファンサの話を一年生にする首脳陣を書きました。ふくだて。
happy trail あーさりくーん、というきいろい声が練習場に響き渡った。
なんだと見やるそのさき、フェンス越しに大学生らしい少女たちが手をふっている。きゃっきゃと笑いさざめくさまはなかなかに愛らしい。さてではなまえを呼ばれた当人はと見れば苦虫を噛み潰したような顔をしているから、福田はつい苦笑してしまう。青少年だよなあ、と心のうちでつぶやいて、一年生の集団に歩み寄った。
練習を終えたばかりで、子どもたちはまだ汗も拭いていない。上級生たちがぞろぞろと帰っていくのに遠慮しているのか、練習場の片隅でかたまって立ち話をしている。注目の的となっている朝利はむっとした顔を隠そうともせず、そのかたわらで青井が減るもんやなし手ェくらいふってやれやと言い、大友がなにやら呪詛の言葉を吐いている。
3867なんだと見やるそのさき、フェンス越しに大学生らしい少女たちが手をふっている。きゃっきゃと笑いさざめくさまはなかなかに愛らしい。さてではなまえを呼ばれた当人はと見れば苦虫を噛み潰したような顔をしているから、福田はつい苦笑してしまう。青少年だよなあ、と心のうちでつぶやいて、一年生の集団に歩み寄った。
練習を終えたばかりで、子どもたちはまだ汗も拭いていない。上級生たちがぞろぞろと帰っていくのに遠慮しているのか、練習場の片隅でかたまって立ち話をしている。注目の的となっている朝利はむっとした顔を隠そうともせず、そのかたわらで青井が減るもんやなし手ェくらいふってやれやと言い、大友がなにやら呪詛の言葉を吐いている。
はねた
TRAININGおうちのことが終わったあとのあくつくんと、おうちのことを聞いてしまったという感じのあしとくんを書きました。誠実な詐欺師 制服の上着を脱げば、香の匂いがふいとくゆった。
母親の葬儀からしばらくが経つ。面倒がってクリーニングに出さずにいたものが、いまさらになって染みだした。
上着を椅子の背に放る。目測を誤ったか床に落ちる、それを叱言まじりに拾いあげる手ももはやない。床はゴミ箱でも箪笥でもないんだからなんでもかんでも置きっぱなしにするなよという、声ばかりが耳の底に残っている。いもしないものに従うのは癪だったけれども、なんとはなしおさまりが悪くなって阿久津は上着をハンガーにかけた。
二段ベッドと机がふたつ、あとはモニターがあるきりの簡素な部屋だった。ベッドも机も自分がひとつ使うばかりで、かつてあったひとの気配はほとんど失われている。そのくせたった一日きりの香の匂いがいつまでもこびりつくのだから妙なものだった。
4398母親の葬儀からしばらくが経つ。面倒がってクリーニングに出さずにいたものが、いまさらになって染みだした。
上着を椅子の背に放る。目測を誤ったか床に落ちる、それを叱言まじりに拾いあげる手ももはやない。床はゴミ箱でも箪笥でもないんだからなんでもかんでも置きっぱなしにするなよという、声ばかりが耳の底に残っている。いもしないものに従うのは癪だったけれども、なんとはなしおさまりが悪くなって阿久津は上着をハンガーにかけた。
二段ベッドと机がふたつ、あとはモニターがあるきりの簡素な部屋だった。ベッドも机も自分がひとつ使うばかりで、かつてあったひとの気配はほとんど失われている。そのくせたった一日きりの香の匂いがいつまでもこびりつくのだから妙なものだった。
はねた
TRAININGaoas首脳陣にふくだてを添えました。首脳陣はかわいい。
そんなことがすてきです。「望って呼ぶやつ増えたよな」
ぽつりという声に、伊達はチェックボードから顔をあげた。
練習場は賑やかに、こどもたちの活気で溢れている。AとBの練習試合、紅白戦の最中だった。とはいえ先日の公式戦のふりかえりとガス抜きも兼ねてのことだったから、なんとはなし気のゆるむところもある。昼も過ぎた頃合い、陽射しもうららかに、ともすれば眠気にさえ誘われる。
福田は練習場の隅のあたり、フェンス前の定位置で腕組みをしている。視線は選手たちに向けられたまま、こちらの目問いに応えるように話を続ける。
「選手やスタッフ、サポーターもさ、結構な確率でみんな、おまえのこと望って下のなまえで呼ぶよな」
「言われてみればそうだな」
2272ぽつりという声に、伊達はチェックボードから顔をあげた。
練習場は賑やかに、こどもたちの活気で溢れている。AとBの練習試合、紅白戦の最中だった。とはいえ先日の公式戦のふりかえりとガス抜きも兼ねてのことだったから、なんとはなし気のゆるむところもある。昼も過ぎた頃合い、陽射しもうららかに、ともすれば眠気にさえ誘われる。
福田は練習場の隅のあたり、フェンス前の定位置で腕組みをしている。視線は選手たちに向けられたまま、こちらの目問いに応えるように話を続ける。
「選手やスタッフ、サポーターもさ、結構な確率でみんな、おまえのこと望って下のなまえで呼ぶよな」
「言われてみればそうだな」
はねた
TRAINING飲み屋でくだを巻くふくださんとそれに付き合うだてさんを書きました。ふくだて。
ハッピーエンド「つーきしまー」
呼ばわるさき、ふわふわとした髪がふりかえる。いちおうは上役を立ててくれるものか、事務仕事をする手がぴたりと止まった。
なんですかーとこちらに合わせるように間伸びした、その声に福田は盛大に顔をしかめてみせた。
「おまえ秋山の誕生日にテディベアやったってほんとか」
指導用ノートを丸め、とんとんと肩を叩くこちらに向かって月島は悪びれることなくにっこりとする。
「僕っていうか二年生みんなですけどねー。秋山くんのお誕生日にあげるもの何がいいかって高杉くんたちが相談し合ってたとこにたまたま通りがかったので、秋山くんドイツの代表GKとおんなじプレースタイルだし、あのGKといえばちいさいころおっきなテディベアと一緒に試合に出てたとか癇癪起こしてゴール放棄して代わりにそのテディベアにゴール守らせてたとか有名だから、あとテディベアかわいいし、あやかっていいかなって。僕は案を出しただけでお金は払ってませんよー、贔屓になっちゃうでしょ」
4019呼ばわるさき、ふわふわとした髪がふりかえる。いちおうは上役を立ててくれるものか、事務仕事をする手がぴたりと止まった。
なんですかーとこちらに合わせるように間伸びした、その声に福田は盛大に顔をしかめてみせた。
「おまえ秋山の誕生日にテディベアやったってほんとか」
指導用ノートを丸め、とんとんと肩を叩くこちらに向かって月島は悪びれることなくにっこりとする。
「僕っていうか二年生みんなですけどねー。秋山くんのお誕生日にあげるもの何がいいかって高杉くんたちが相談し合ってたとこにたまたま通りがかったので、秋山くんドイツの代表GKとおんなじプレースタイルだし、あのGKといえばちいさいころおっきなテディベアと一緒に試合に出てたとか癇癪起こしてゴール放棄して代わりにそのテディベアにゴール守らせてたとか有名だから、あとテディベアかわいいし、あやかっていいかなって。僕は案を出しただけでお金は払ってませんよー、贔屓になっちゃうでしょ」
はねた
TRAININGaoasつきしまさんとだてさんが試合を観戦する話を書きました。リライト ピッチにいくつもの声が響いている。
空は晴れていた。青あおとしたそこに、ときおりちらりと鳥の影が落ちた。
市営陸上競技場の観客席最前列に月島はいる。かたわらには伊達がいて、さきほどからずっと無言でピッチを見据えている。
土曜日の昼だった。
ユースの遠征帰り、近場でかつての同僚と教え子の試合があると聞いて月島は伊達とふたり、チームと分かれてこの地まできた。福田は用事があるとかで、あいつらによろしくなーという言葉のみを餞別に寄越してきた。
スタンドの観客収容率はざっと見たところ二百人ほど、指定席はないからあちこちに立ち見が出ている。人気なんだねと言えば伊達がちいさく頷いた。五部リーグの上位を争う両クラブには、かつての日本代表やスター選手の姿もちらほらとある。
3325空は晴れていた。青あおとしたそこに、ときおりちらりと鳥の影が落ちた。
市営陸上競技場の観客席最前列に月島はいる。かたわらには伊達がいて、さきほどからずっと無言でピッチを見据えている。
土曜日の昼だった。
ユースの遠征帰り、近場でかつての同僚と教え子の試合があると聞いて月島は伊達とふたり、チームと分かれてこの地まできた。福田は用事があるとかで、あいつらによろしくなーという言葉のみを餞別に寄越してきた。
スタンドの観客収容率はざっと見たところ二百人ほど、指定席はないからあちこちに立ち見が出ている。人気なんだねと言えば伊達がちいさく頷いた。五部リーグの上位を争う両クラブには、かつての日本代表やスター選手の姿もちらほらとある。
はねた
TRAININGふくだてが気になっています。スタンドバイミー 兄ィがな、と少女は言った。
ベンチのうえに両膝を抱えて、その目はまっすぐに前を向いている。ベンチの陰になった、地面には藤色のスニーカーがひと組きちんと揃えられていた。大雑把なように見えて、座面を土足で踏みつけにしないところが育ちの良さをあらわしている。
夜だった。
こどもたちの去ったあとのグラウンドはどこかうら寂しい。地面にスパイクの跡がいくつか、夜間照明のしたくっきりと浮かびあがる。整地って結構たいへんなんじゃがなと、そんなことを考えながら弁禅はおうと相槌を打つ。
冬も間近とあってあたりは冷えている。
どこかで虫の鳴き音がした。
ジャージ一枚羽織ったきりの軽装ではさすがに骨身にこたえる。寒いのうとぶるりとおおきく身震いすれば、かたわらで少女がきょとんとした。大仰な身振りをすればこどもはたいてい笑うものなのに、まっことお嬢さん育ちよのと弁禅はこっそり感心する。
4338ベンチのうえに両膝を抱えて、その目はまっすぐに前を向いている。ベンチの陰になった、地面には藤色のスニーカーがひと組きちんと揃えられていた。大雑把なように見えて、座面を土足で踏みつけにしないところが育ちの良さをあらわしている。
夜だった。
こどもたちの去ったあとのグラウンドはどこかうら寂しい。地面にスパイクの跡がいくつか、夜間照明のしたくっきりと浮かびあがる。整地って結構たいへんなんじゃがなと、そんなことを考えながら弁禅はおうと相槌を打つ。
冬も間近とあってあたりは冷えている。
どこかで虫の鳴き音がした。
ジャージ一枚羽織ったきりの軽装ではさすがに骨身にこたえる。寒いのうとぶるりとおおきく身震いすれば、かたわらで少女がきょとんとした。大仰な身振りをすればこどもはたいてい笑うものなのに、まっことお嬢さん育ちよのと弁禅はこっそり感心する。
はねた
TRAININGあくあしについて語る平さんと福田さんをかきました。きみはいいこ「阿久津がね」
平がそう言うのを、福田は黙って聞く。
空は晴れていた。寮舎に添い生えた木々が、風にさやかに揺れていた。
監督をまえにして、平はもう自分の話をすることはない。その顔はすっきりとして、けれどどこかにサッカーへの未練を残している。あるかなきかの、それを辿れなくなったなら自分は監督として終わりだなとそんなことを頭の隅で考えた。
「阿久津が寮に入ってきてしばらくして、フリールームにごきぶりが出たんですよ」
ごきぶり、と鸚鵡返しにすれば、平はハイとどこか得意げに笑う。苦手ですかと続けて聞かれたのは自分の顔がゆがんでいたせいかと、福田はつるりと頬をなでる。
「まあ、すきではないな」
「俺もです」
平は笑ってそう言った。
1969平がそう言うのを、福田は黙って聞く。
空は晴れていた。寮舎に添い生えた木々が、風にさやかに揺れていた。
監督をまえにして、平はもう自分の話をすることはない。その顔はすっきりとして、けれどどこかにサッカーへの未練を残している。あるかなきかの、それを辿れなくなったなら自分は監督として終わりだなとそんなことを頭の隅で考えた。
「阿久津が寮に入ってきてしばらくして、フリールームにごきぶりが出たんですよ」
ごきぶり、と鸚鵡返しにすれば、平はハイとどこか得意げに笑う。苦手ですかと続けて聞かれたのは自分の顔がゆがんでいたせいかと、福田はつるりと頬をなでる。
「まあ、すきではないな」
「俺もです」
平は笑ってそう言った。
はねた
TRAININGaoasのつきしまさんとふくださんを書きました。つきあってはいない。
つきしまさんのことが知りたくてならないきょうこのごろです。
colors 夜は冷えている。
昼間はこどもたちの賑やかな声が絶えないクラブハウスも、八時を過ぎればしんとしていた。ときおり耳をかすめるのは自分のめくる紙の音ばかり、日中は指導があるからとついついあとまわしにしてしまった書類がいま机上に山と積まれている。
事務室は広い。向かい合わせになった机がずらりと列をなした、その片隅に月島はいた。クラブの経営が苦しいわけではないけれど、数年の社会人生活で節電は身に染みついている。明かりは頭上の蛍光灯ひとつきり、ほかはひっそりとして暗い。薄闇にパソコンやプリンタの電源ランプがちいさく浮かんでいた。空調も切っているから、ジャージを羽織ったばかりの喉元が肌寒い。
残業ってガラでもないんだけどねえ、と肩をたたきつつ月島は立ちあがる。目処はまだつきそうになかった。コーヒーでも買いにいこうかなと上着のポケットを探る、と、そのときドアの開く音がした。
3588昼間はこどもたちの賑やかな声が絶えないクラブハウスも、八時を過ぎればしんとしていた。ときおり耳をかすめるのは自分のめくる紙の音ばかり、日中は指導があるからとついついあとまわしにしてしまった書類がいま机上に山と積まれている。
事務室は広い。向かい合わせになった机がずらりと列をなした、その片隅に月島はいた。クラブの経営が苦しいわけではないけれど、数年の社会人生活で節電は身に染みついている。明かりは頭上の蛍光灯ひとつきり、ほかはひっそりとして暗い。薄闇にパソコンやプリンタの電源ランプがちいさく浮かんでいた。空調も切っているから、ジャージを羽織ったばかりの喉元が肌寒い。
残業ってガラでもないんだけどねえ、と肩をたたきつつ月島は立ちあがる。目処はまだつきそうになかった。コーヒーでも買いにいこうかなと上着のポケットを探る、と、そのときドアの開く音がした。