もろきゅう
DONEテスカが気まぐれでいなくなる迷惑な話。戦争がない七日間の話 テスカトリポカがいなくなった。ただそれだけだった。
ウォーモンガーズの日常は滞りなく送られようとしている。誰も探しに行こうなどと思う者はいなかった。
不自然なほどに、誰もが気に止めない。学園軍獄の執務室は空っぽで、誰一人近寄らない。
初めからテスカトリポカなる転光生など、存在していないかのように、恙無く一日が始まり、ただ過ぎていく。
サモナーがいなくなった。ただそれだけだった。
サモナーズの日常はそれだけで上を下への大騒ぎである。誰もが探しに行こうとした。
皆、顔面蒼白といったところだ。学生寮の部屋は空っぽで、そこに皆が集まっていた。
つい先日まで確かに存在していたサモナーの不在を、皆が訝しがり、時は過ぎていく。
5288ウォーモンガーズの日常は滞りなく送られようとしている。誰も探しに行こうなどと思う者はいなかった。
不自然なほどに、誰もが気に止めない。学園軍獄の執務室は空っぽで、誰一人近寄らない。
初めからテスカトリポカなる転光生など、存在していないかのように、恙無く一日が始まり、ただ過ぎていく。
サモナーがいなくなった。ただそれだけだった。
サモナーズの日常はそれだけで上を下への大騒ぎである。誰もが探しに行こうとした。
皆、顔面蒼白といったところだ。学生寮の部屋は空っぽで、そこに皆が集まっていた。
つい先日まで確かに存在していたサモナーの不在を、皆が訝しがり、時は過ぎていく。
むつき
DONEオセ+主2神宿学園への潜入
変装 試験期間でもない放課後、図書室は閑散としていた。新たな本との出会いを求めて棚のあいだをゆっくりと歩き回る生徒の姿や、返却や貸し出しの手続きのためにカウンターへ並ぶ人影はまばらだ。大きな長机が並ぶ閲覧スペースや自習コーナーも、ところどころにしか生徒がいない。ゆっくりと参考書のページをめくる音や、咳払いをする音なんかが、遠くの方から遠慮がちに聞こえてくる。
校舎の端の方に位置している図書室はひっそりとしているけれど、緊張感を強いるような静けさじゃないのが気に入っている。目の前のことに集中できるし、勝手知ったる空間は居心地がいい。こっそり伸びをしてから、もう一度手元の資料に目を落とした。
「やあ。随分と熱心だね」
1715校舎の端の方に位置している図書室はひっそりとしているけれど、緊張感を強いるような静けさじゃないのが気に入っている。目の前のことに集中できるし、勝手知ったる空間は居心地がいい。こっそり伸びをしてから、もう一度手元の資料に目を落とした。
「やあ。随分と熱心だね」
もろきゅう
DONEタダトモくんが悶々とする話。子供ではないのだから 二人の父親からの同時の依頼に、犬山タダトモは面食らい、依頼の内容が、息子を助けてほしい、という同一のものだったことに眉を潜めた。
一方は男児と血が繋がった父で、もう一方は、血が繋がらなくとも愛情を込めて育ててきた父だという。男児の母にとっては、前夫と現在の夫といったところか。
血が繋がった唯一の家族なのだ、と実父のほうが言い、あの子は喘息持ちだから、早く助けてやってほしいのだ、と継父のほうが言う。
馬鹿な犯人もいたものだ。
タダトモは依頼主たちを見ながら、愚痴るように呟いていた。どちらか一方にだけ連絡をすれば良かったのだ。コインを多く持っているほうにか、それとも、確実に払うだろうほうに。
恐らく欲張って、二人からコインを奪い取ろうとした。警察に知らせたら息子の命はない、などとお約束の脅し文句をつけて。
3692一方は男児と血が繋がった父で、もう一方は、血が繋がらなくとも愛情を込めて育ててきた父だという。男児の母にとっては、前夫と現在の夫といったところか。
血が繋がった唯一の家族なのだ、と実父のほうが言い、あの子は喘息持ちだから、早く助けてやってほしいのだ、と継父のほうが言う。
馬鹿な犯人もいたものだ。
タダトモは依頼主たちを見ながら、愚痴るように呟いていた。どちらか一方にだけ連絡をすれば良かったのだ。コインを多く持っているほうにか、それとも、確実に払うだろうほうに。
恐らく欲張って、二人からコインを奪い取ろうとした。警察に知らせたら息子の命はない、などとお約束の脅し文句をつけて。
むつき
DONEレイヴとカーシー頼れる先輩、大切にされている後輩
僕らはバディ うぅ、という低い唸り声がカーシーの喉から溢れてくる。彼のつかんだドアノブが重く軋んだ。
一日の大半を過ごしているといってもいい研究室に戻ってきても尚、カーシーの表情は険しかった。納得がいかない、とでも言いたげに、鼻面には深いしわが寄せられている。
「はあー、つっかれた。なあカーシー、紅茶でも淹れてくれねえか」
ぐしゃりと顔を歪めている彼のそばを通り抜け、レイヴはソファへどかりと腰を下ろした。拳を握りしめて棒立ちになっているカーシーへ視線をやると、こっそりとため息をつく。
「なあ、紅茶。この前ジャンバヴァンが持ってきた茶葉があったろ」
「うう……はい……まだありますけど……」
再三の催促を受け、カーシーはしぶしぶと言ったように作りつけのキッチンへと向かった。ティーポットを温めるべく湯を注ぎ、その間にカップや茶葉の用意をする。
3031一日の大半を過ごしているといってもいい研究室に戻ってきても尚、カーシーの表情は険しかった。納得がいかない、とでも言いたげに、鼻面には深いしわが寄せられている。
「はあー、つっかれた。なあカーシー、紅茶でも淹れてくれねえか」
ぐしゃりと顔を歪めている彼のそばを通り抜け、レイヴはソファへどかりと腰を下ろした。拳を握りしめて棒立ちになっているカーシーへ視線をやると、こっそりとため息をつく。
「なあ、紅茶。この前ジャンバヴァンが持ってきた茶葉があったろ」
「うう……はい……まだありますけど……」
再三の催促を受け、カーシーはしぶしぶと言ったように作りつけのキッチンへと向かった。ティーポットを温めるべく湯を注ぎ、その間にカップや茶葉の用意をする。
古小烏 - ふるこがらす
MOURNINGホロケウカムイ転光日おめでとう記念!!のつもりで書いてたお話が仕上がらなかったので、ワンシーンだけ残してひとまずは供養させて頂きます。
いつかきちんと復活させられたら。
ホロケウカムイ×主男。一部腐向けシーン有りなのでワンクッション。キャラクエ、デートクエのネタバレ込です。 2441
もろきゅう
DONEテスカとフッキさんがプチ喧嘩しながら語らう話。この二人なにもかも正反対すぎる。
賽を投げる ホウライ由来の茶をティーカップに注ぎ、駅前のデパートで買い求めた茶請けの菓子をテーブルに並べているのは、世界代行者だった。
穏やかに笑みを浮かべながらティータイムの準備をする。カップは二人分、用意されており、丸いテーブルを挟んで椅子が二つあった。
誰かと茶会の約束でもしてるのか?
いいや、約束などしていない。ホウライ出身の世界代行者に、約束などなんの意味も持たない。
「入室のマナーを御存じないのは、百歩譲って結構であるとしましょう」
誰もいない部屋で、竜種の彼がぽつりとこぼした。
「ですが、ええ、ですが……」
かつかつと靴が床を叩くような足音が響いてくる。まっすぐ、崑崙に住まう竜種のもとへ進んでくる気配もした。
4298穏やかに笑みを浮かべながらティータイムの準備をする。カップは二人分、用意されており、丸いテーブルを挟んで椅子が二つあった。
誰かと茶会の約束でもしてるのか?
いいや、約束などしていない。ホウライ出身の世界代行者に、約束などなんの意味も持たない。
「入室のマナーを御存じないのは、百歩譲って結構であるとしましょう」
誰もいない部屋で、竜種の彼がぽつりとこぼした。
「ですが、ええ、ですが……」
かつかつと靴が床を叩くような足音が響いてくる。まっすぐ、崑崙に住まう竜種のもとへ進んでくる気配もした。
むつき
DONEシロウ視点の主シロセーフハウスでお昼寝
仮眠 一時限目から眠たそうにしていた彼は、セーフハウスに上がるやいなや大きなあくびをした。ゆうべ、うまく眠れなかったのだそうだ。嫌な夢をみて夜中に飛び起きて、それから朝方まで寝つけなかったと言っていた。
どんな夢だったのか尋ねることは、もちろんできなかった。彼に、「嫌な」記憶を、無理やり思い出させてしまうような気がして。
「ちょっと眠った方がいいんじゃないか?」
ケンゴもリョウタも外に出ている。このあとギルド会議を行う予定だけれど、どうせ始められるようになるまで小一時間はかかるだろう。仮眠をとる時間くらいはありそうだった。
「寝てもいいなら寝たいけど……。でも、いいのかな」
「大丈夫さ。二人が戻ってきたら起こすよ」
2233どんな夢だったのか尋ねることは、もちろんできなかった。彼に、「嫌な」記憶を、無理やり思い出させてしまうような気がして。
「ちょっと眠った方がいいんじゃないか?」
ケンゴもリョウタも外に出ている。このあとギルド会議を行う予定だけれど、どうせ始められるようになるまで小一時間はかかるだろう。仮眠をとる時間くらいはありそうだった。
「寝てもいいなら寝たいけど……。でも、いいのかな」
「大丈夫さ。二人が戻ってきたら起こすよ」
むつき
DONE天然主4くん×どぎまぎシロウ「ふり」なんかできない 正面じゃなく、横から呼ばれて首をひねる。俺の顔を覗き込んでいた彼との距離は予想よりも遥かに近くて、思わず肩が跳ねた。慌てて距離を取ろうとするも、セーフハウスの壁際に座り込んで本を読んでいたのだ。壁に背中がぶつかって、どんと重い音を立てる。とっさに逃げられる場所なんてなかった。
「お、俺の顔に何か……」
「んーっとね」
俺の動揺には気づいてすらいないのか、リラックスしきっているらしい彼はふんわりした口調だった。俺の横へぺたりと座り込み、ますます顔を寄せてくる。興味津々といったように目を覗き込んでくる彼の瞳には、肩をこわばらせる俺の姿が映っていた。
鼓動がどくどくと鳴り響く。もっと顔が近付いてきて、唇が触れるだろうか。それとも、その前に手が伸ばされて、指を絡められるだろうか。ぴっとりと触れ合わされる感触、指と指のあいだをすべる皮膚の温度。
895「お、俺の顔に何か……」
「んーっとね」
俺の動揺には気づいてすらいないのか、リラックスしきっているらしい彼はふんわりした口調だった。俺の横へぺたりと座り込み、ますます顔を寄せてくる。興味津々といったように目を覗き込んでくる彼の瞳には、肩をこわばらせる俺の姿が映っていた。
鼓動がどくどくと鳴り響く。もっと顔が近付いてきて、唇が触れるだろうか。それとも、その前に手が伸ばされて、指を絡められるだろうか。ぴっとりと触れ合わされる感触、指と指のあいだをすべる皮膚の温度。
むつき
DONE主×クロードwithバーサーカーズresearch「そーねぇ。オレっちの見たところだとぉ……」
細い顎に手を当てて考え込むバティムを前に、メモアプリを開いたスマホを握りしめた。
階層式になっている闘技場は、今日も想像していた以上に賑わっていたらしい。初めに顔を合わせたのはガルムだった。こっちを吹っ飛ばすような勢いで突っ込んできたのを受け止め、久々の再会を喜びつつ、とある質問を投げかける。丸い目を瞬かせ、ガルムはことんと首を傾げた。
「ガルム、それ、知らない。答えるの、むずかしい!」
「そっか……」
「お、なんだ、珍しい客だな」
肩を落とす間もなく、ガルムの後ろからアンドヴァリが顔を出した。挨拶がてら、ガルムにした質問を彼にもぶつける。アンドヴァリは急に真面目な表情を浮かべつつ眉を持ち上げた。
2217細い顎に手を当てて考え込むバティムを前に、メモアプリを開いたスマホを握りしめた。
階層式になっている闘技場は、今日も想像していた以上に賑わっていたらしい。初めに顔を合わせたのはガルムだった。こっちを吹っ飛ばすような勢いで突っ込んできたのを受け止め、久々の再会を喜びつつ、とある質問を投げかける。丸い目を瞬かせ、ガルムはことんと首を傾げた。
「ガルム、それ、知らない。答えるの、むずかしい!」
「そっか……」
「お、なんだ、珍しい客だな」
肩を落とす間もなく、ガルムの後ろからアンドヴァリが顔を出した。挨拶がてら、ガルムにした質問を彼にもぶつける。アンドヴァリは急に真面目な表情を浮かべつつ眉を持ち上げた。
むつき
DONEエビルちゃんと主シロ通訳 きいきい、という小さな声がした。足元を見れば、そこに立って、椅子に座る俺を見上げていたのはエビルだった。すみれ色の、ぽってりしたボディ。シロウが連れている子たちの中でも活発な方の子だと記憶している。主の心配もよそに積極的に前に出ては自分の気になるものをまじまじ観察したり、興味深そうに触ったりしている姿は記憶に新しい。時にはびっくりするようなことも起きて――道ばたにいたカマキリをつつきに行って鎌を振り上げられたり、つまずいて派手に転んだり――そのたびにシロウの元へ慌てて飛んでいっては、よしよしと頭を撫でてもらっていた。
そんなエビルは言葉を操れない代わり、つぶらな瞳でじいっと人を見つめる。何かを要求するみたいに、俺に向かって両手を伸ばした。
1240そんなエビルは言葉を操れない代わり、つぶらな瞳でじいっと人を見つめる。何かを要求するみたいに、俺に向かって両手を伸ばした。
けものすけ
MOURNINGオニワカと主3君。これのラフを描いたのがもう2年前なんですって。線画が描きかけの状態で長時間放置されてたため絵柄が変わりすぎてて仕上げる気が起きなかったのでこれで許してください。
むつき
DONE両想い主シロシロウ視点
十七時三十八分 発車時刻三分前、急ぎ足で飛び込んだ車両にはまだいくらか空席があった。車両の中程に進むうち、二人掛けの座席が空いているのを見つける。
「座るかい?」
夕暮れ時にはまだ早い。明るく照らし出された窓際の席を、視線で示してみせる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
彼はそう言って、窓際にしずかに腰を下ろした。
上体を軽く揺さぶる振動と共に電車がホームを離れていく。そのタイミングで、大きなため息が聞こえた。
「本当に、お疲れさま」
心からの気持ちを込めて言葉をかける。ちらりとこっちを見た彼は、表情をほどくようにして苦笑いをこぼした。
「こっちへ来ると、いつもこうだよね」
六本木のギルドマスター、及びギルド内屈指の有力者たちに用があって、放課後を待ってから駅へ向かった。そうやって二人で赴いた先、彼は熱烈な、それはもう文字通り熱烈な歓待を受けた。惜しみなく繰り出される愛の台詞を受け止め、手を取られては跪(ひざまず)かれ。そうこうしているうちに彼らの従者たちも飛び出してきて、上を下への大騒ぎになっていく。ようやく開放されたのは、用事が済んでから随分経ってからのことだった。
2575「座るかい?」
夕暮れ時にはまだ早い。明るく照らし出された窓際の席を、視線で示してみせる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
彼はそう言って、窓際にしずかに腰を下ろした。
上体を軽く揺さぶる振動と共に電車がホームを離れていく。そのタイミングで、大きなため息が聞こえた。
「本当に、お疲れさま」
心からの気持ちを込めて言葉をかける。ちらりとこっちを見た彼は、表情をほどくようにして苦笑いをこぼした。
「こっちへ来ると、いつもこうだよね」
六本木のギルドマスター、及びギルド内屈指の有力者たちに用があって、放課後を待ってから駅へ向かった。そうやって二人で赴いた先、彼は熱烈な、それはもう文字通り熱烈な歓待を受けた。惜しみなく繰り出される愛の台詞を受け止め、手を取られては跪(ひざまず)かれ。そうこうしているうちに彼らの従者たちも飛び出してきて、上を下への大騒ぎになっていく。ようやく開放されたのは、用事が済んでから随分経ってからのことだった。
むつき
DONE頭痛でダウンしているクロードを見舞うサモナーくん +見守るスノウさん頭痛持ち 豪奢な装飾が施されたドアへと手を伸ばす。けれどノックするより先に、ドアは内側から開かれた。
「ようこそおいでくださいました」
囁くようにして歓迎の言葉をかけてくれたスノウさんは、自分の顔を見つめて目元を和らげてみせた。
地上一階、建物を入ってすぐのところでガルムに会った。こうして自分が執務室に辿り着くより先に、きっとガルムは忠犬らしくスノウに報告に行ったのだろう。それにこんな立派な施設なのだ。防犯カメラのひとつやふたつ、そしてそのモニターくらい、この執務室のどこかには据え付けてあるに違いない。
「クロードと約束してたわけじゃないんだけど。ちょうど近くに来る用事があったから、挨拶でもと思って」
言いながら、でも今日はクロードに会えないだろうと思った。いつものスノウさんなら、うやうやしい一礼と共にすぐに部屋の中へと案内してくれるはずだ。けれどいま自分の目の前に立っているスノウさんは場所を譲ってくれそうには見えなかった。険しい雰囲気というわけじゃない。あくまでも和やかに、そしてきっと何かクロードのための訳があって、彼はそこを塞いでいるんだろうと思った。
2007「ようこそおいでくださいました」
囁くようにして歓迎の言葉をかけてくれたスノウさんは、自分の顔を見つめて目元を和らげてみせた。
地上一階、建物を入ってすぐのところでガルムに会った。こうして自分が執務室に辿り着くより先に、きっとガルムは忠犬らしくスノウに報告に行ったのだろう。それにこんな立派な施設なのだ。防犯カメラのひとつやふたつ、そしてそのモニターくらい、この執務室のどこかには据え付けてあるに違いない。
「クロードと約束してたわけじゃないんだけど。ちょうど近くに来る用事があったから、挨拶でもと思って」
言いながら、でも今日はクロードに会えないだろうと思った。いつものスノウさんなら、うやうやしい一礼と共にすぐに部屋の中へと案内してくれるはずだ。けれどいま自分の目の前に立っているスノウさんは場所を譲ってくれそうには見えなかった。険しい雰囲気というわけじゃない。あくまでも和やかに、そしてきっと何かクロードのための訳があって、彼はそこを塞いでいるんだろうと思った。
むつき
DONE放課後の甘酸っぱ両想い主シロ図書室にて「起立、礼」
淡々とした声による号令のもと、揃って一礼をする。途端に活気づくクラスメイトたちの間を通り、シロウの席へ向かった。
「シロウ。図書室に行くんだろ?」
その机の上には、ハードカバーの分厚い小説が何冊も積み上げられている。この数日でシロウがそれらをすっかり読み切ってしまったことを知っていた。
「俺もついていってもいい?」
「ああ、もちろんだ」
シロウはめがねを押し上げつつ、にこやかに頷いてくれた。
廊下をわたり、階段をのぼり、シロウについて入った図書室はひどく静かだった。耳に届くのは、これぞという一冊を求めて棚と棚の間をひっそりと歩く音、本のページがしずかにめくられる音ばかりだ。時折誰かが咳払いをしたり、友人同士で来ているらしい誰かがひそひそと言葉を交わしたりするのが聞こえてくる。
2025淡々とした声による号令のもと、揃って一礼をする。途端に活気づくクラスメイトたちの間を通り、シロウの席へ向かった。
「シロウ。図書室に行くんだろ?」
その机の上には、ハードカバーの分厚い小説が何冊も積み上げられている。この数日でシロウがそれらをすっかり読み切ってしまったことを知っていた。
「俺もついていってもいい?」
「ああ、もちろんだ」
シロウはめがねを押し上げつつ、にこやかに頷いてくれた。
廊下をわたり、階段をのぼり、シロウについて入った図書室はひどく静かだった。耳に届くのは、これぞという一冊を求めて棚と棚の間をひっそりと歩く音、本のページがしずかにめくられる音ばかりだ。時折誰かが咳払いをしたり、友人同士で来ているらしい誰かがひそひそと言葉を交わしたりするのが聞こえてくる。
むつき
DONE丑年新年イベントストーリーのシンノウ先生と問題児くん。サモナー→→(←)シンノウ先生くらいのイメージ。お酌 朱塗りの椀や漆塗りの小皿はどれも下ろしたばかりとみえて、見事な艶を帯びている。何しろ改装したての旅館なのだ。建物に合わせ、新しく買い求められたのであろうことは察しがついた。器のそれぞれには贅と粋を凝らした料理がこまごまと盛られ、いかにも華やかな正月の風情を醸し出している。
本来なら貴重な休日を堪能できる年末年始になるはずだったが、こんな贅沢な食事で饗されるのなら休日出勤も悪くはない。そんな膳を見下ろしているシンノウの目の前に、ふと影がさした。顔を上げる。そこには酒気漂う宴会場には似つかわしくない、学生服姿の少年が立っていた。
「おや、問題児くんじゃないか」
ギュウマオウに集められたアルバイトのメンバーたちの中には、彼を含め高校生が数人交じっていることはシンノウも知っていた。未成年たちは未成年たちだけで夕飯を済ませ、もう部屋に引き取って休んでいるか、広い大浴場を堪能しているはずだ。この大広間での宴会には酒も出すから、大人たちしか入れないようにしたと、ギュウマオウは言っていたというのに。
2093本来なら貴重な休日を堪能できる年末年始になるはずだったが、こんな贅沢な食事で饗されるのなら休日出勤も悪くはない。そんな膳を見下ろしているシンノウの目の前に、ふと影がさした。顔を上げる。そこには酒気漂う宴会場には似つかわしくない、学生服姿の少年が立っていた。
「おや、問題児くんじゃないか」
ギュウマオウに集められたアルバイトのメンバーたちの中には、彼を含め高校生が数人交じっていることはシンノウも知っていた。未成年たちは未成年たちだけで夕飯を済ませ、もう部屋に引き取って休んでいるか、広い大浴場を堪能しているはずだ。この大広間での宴会には酒も出すから、大人たちしか入れないようにしたと、ギュウマオウは言っていたというのに。
もろきゅう
DONEシロウとテスカトリポカの思い通りになってくれないサモナーの話。残念ながら「お待たせ、サモナー」
冷えた風が吹く街中。学校指定のコートと、そのコートに合わせて選んだのだろうマフラーを着用して、学級委員長がやって来るのが見えた。
今度の学力テストのために参考書を買いたい、というサモナーのリクエストに応えようと、有力候補を調べ上げてメモしたものを手に、やや緊張の面持ちだ。
「シロウ、手袋は?」
ニット帽を被り、手袋をつけているサモナーが問いかける。
本居シロウはそこで緊張を解いた。やや苦笑して返す。
「マフラーを巻いて安心してしまった。手袋もしてくればよかったな」
「じゃあ、自分の手袋を半分あげるよ」
右手の手袋を外し、シロウの右手にはめる。シロウの左手とサモナーの右手が肌寒く晒されることになったが、サモナーは構わない様子だった。
1807冷えた風が吹く街中。学校指定のコートと、そのコートに合わせて選んだのだろうマフラーを着用して、学級委員長がやって来るのが見えた。
今度の学力テストのために参考書を買いたい、というサモナーのリクエストに応えようと、有力候補を調べ上げてメモしたものを手に、やや緊張の面持ちだ。
「シロウ、手袋は?」
ニット帽を被り、手袋をつけているサモナーが問いかける。
本居シロウはそこで緊張を解いた。やや苦笑して返す。
「マフラーを巻いて安心してしまった。手袋もしてくればよかったな」
「じゃあ、自分の手袋を半分あげるよ」
右手の手袋を外し、シロウの右手にはめる。シロウの左手とサモナーの右手が肌寒く晒されることになったが、サモナーは構わない様子だった。
もろきゅう
DONE主とテスカがダラダラするだけの話。また朝日を拝んでしまった 金曜日。それは平日の終わり。
金曜日。それは学業からの解放。
ストレスを抱えて平日を過ごしていた高校生たちが、解き放たれる日だ。
サモナーもまた、学業のストレスを溜め込みながら金曜日を終えた。
配布された課題は、寮に戻る前、シロウと共に図書室で済ませた。
学校内ではそれなりに規則を守り、予習復習とまではいかないが、そこそこ勉学に勤しんで授業に臨んでいた。
廊下は走らない。いや、時々走った。
ただ、高伏ケンゴのように授業中に寝ることはなく、訳あって補習を受ける必要があった日は逃げなかった。
そこそこ真面目だと、サモナーは自身を顧みて思う。
しかし、そんな平日は終わった。
サモナーは今、自由の身となった。
3076金曜日。それは学業からの解放。
ストレスを抱えて平日を過ごしていた高校生たちが、解き放たれる日だ。
サモナーもまた、学業のストレスを溜め込みながら金曜日を終えた。
配布された課題は、寮に戻る前、シロウと共に図書室で済ませた。
学校内ではそれなりに規則を守り、予習復習とまではいかないが、そこそこ勉学に勤しんで授業に臨んでいた。
廊下は走らない。いや、時々走った。
ただ、高伏ケンゴのように授業中に寝ることはなく、訳あって補習を受ける必要があった日は逃げなかった。
そこそこ真面目だと、サモナーは自身を顧みて思う。
しかし、そんな平日は終わった。
サモナーは今、自由の身となった。
もろきゅう
DONEオニワカと彼岸花の話。赤い魔法を昼下がりに 踏切の隅に赤いものがチラチラと揺れているのを見かけて、列車が轟音で走り抜けていくのを横目にそれを眺めた。
風圧で大きく揺れる彼岸花が、オニワカの視界で踊っていた。
縁起でもない花だ。
第一印象はそうだった。
別名を死人花、捨子花と言って、彼岸花の気味の悪さを物語っているようだ。
特に、捨子花。
元の世界から一人、東京へと流れ着いてしまった赤子としては、眉をひそめたくなる名称だ。……まあ、花ごときに心乱れてやる義理もないが。
踏切の遮断器が上がる。
オニワカは歩き出さない。
揺れる彼岸花を見つめていた。
彼岸花にも花言葉はある。花なのだから当然だ。
誰が決めたかは知らないが、「あきらめ」だの「悲しい思い出」だのと、辛気臭い文言が並んでいるのを、鼻で笑った覚えがある。
1452風圧で大きく揺れる彼岸花が、オニワカの視界で踊っていた。
縁起でもない花だ。
第一印象はそうだった。
別名を死人花、捨子花と言って、彼岸花の気味の悪さを物語っているようだ。
特に、捨子花。
元の世界から一人、東京へと流れ着いてしまった赤子としては、眉をひそめたくなる名称だ。……まあ、花ごときに心乱れてやる義理もないが。
踏切の遮断器が上がる。
オニワカは歩き出さない。
揺れる彼岸花を見つめていた。
彼岸花にも花言葉はある。花なのだから当然だ。
誰が決めたかは知らないが、「あきらめ」だの「悲しい思い出」だのと、辛気臭い文言が並んでいるのを、鼻で笑った覚えがある。
もろきゅう
DONE注意散漫なサモナーと補う忍者の話いまそかり 忍者は種をかじる。
サモナーが手渡してきたATKの小種を、ためらいがちに奥歯で噛んでいた。
我らが主は、戦闘慣れしていないらしい。
忍者がそう結論付けたのは、今までのアプリバトルを控えメンバーとして散々観察してのことだ。
何度も敵を打ち漏らしては、参謀であるシロウの範囲攻撃で沈めてもらい、何度も不意打ちされては、振り返る余裕もないのか硬直し、アカオニのチャージスラストに助けられている。
リーダーとして、いささか頼りないと言わざるを得ない。
高校生なのだから仕方ないとはいえ、場数に比べて成長の度合が遅い。
今だって、我らがリーダーは直進するばかりで、脇に意識を向けていないのだ。
ああ、ほら、死角から敵が飛び出してきて……
1559サモナーが手渡してきたATKの小種を、ためらいがちに奥歯で噛んでいた。
我らが主は、戦闘慣れしていないらしい。
忍者がそう結論付けたのは、今までのアプリバトルを控えメンバーとして散々観察してのことだ。
何度も敵を打ち漏らしては、参謀であるシロウの範囲攻撃で沈めてもらい、何度も不意打ちされては、振り返る余裕もないのか硬直し、アカオニのチャージスラストに助けられている。
リーダーとして、いささか頼りないと言わざるを得ない。
高校生なのだから仕方ないとはいえ、場数に比べて成長の度合が遅い。
今だって、我らがリーダーは直進するばかりで、脇に意識を向けていないのだ。
ああ、ほら、死角から敵が飛び出してきて……
もろきゅう
DONE主人公とオニワカがバスタブに詰まる話。バスタブに詰めて ガタガタと揺れる窓。
ゴロゴロと唸る雨雲。
ザンザンと叩きつける雨。
セーフハウスの一つであるアパートの一室で、サモナーは一人、台風の対策をしていた。雨戸を閉め切り、非常食を蓄え、ある者を喚び出す。
「我が声に応じ、参じたまえ、オニワカ」
召喚紋が浮かび上がり、光となってあたりに漏れ出す。少しだけ強い輝きのあとに姿を表したのは、目を見開いて周囲を見回している、ずぶ濡れの忠臣だった。
拳には血が滲んでいる。おそらく生きるための何らかをしてきたのだろう。
サモナーは雨粒を滴らせるオニワカに笑いかけると、言った。
「有事の際は遠慮なく呼んでいいって言われてたから、呼んじゃったよ」
「何だよ主様。誰かから命でも狙われてんのか?」
1769ゴロゴロと唸る雨雲。
ザンザンと叩きつける雨。
セーフハウスの一つであるアパートの一室で、サモナーは一人、台風の対策をしていた。雨戸を閉め切り、非常食を蓄え、ある者を喚び出す。
「我が声に応じ、参じたまえ、オニワカ」
召喚紋が浮かび上がり、光となってあたりに漏れ出す。少しだけ強い輝きのあとに姿を表したのは、目を見開いて周囲を見回している、ずぶ濡れの忠臣だった。
拳には血が滲んでいる。おそらく生きるための何らかをしてきたのだろう。
サモナーは雨粒を滴らせるオニワカに笑いかけると、言った。
「有事の際は遠慮なく呼んでいいって言われてたから、呼んじゃったよ」
「何だよ主様。誰かから命でも狙われてんのか?」
もろきゅう
DONEツァトグァ大好きの会、会員。ひとつまみの信仰 その日は忙しかった。
部屋の掃除に、ギルドの予算会議、新しいメンバー数人の情報の把握、アプリバトルによるポータルの死守、食材や生活雑貨の買い出し。
特に予算会議は白熱した。先月余った額と合わせて、六三〇〇コイン。これを何に使うかで高校生たちのディベート合戦が幕を開けた。
貯めておくべきだと手堅い意見を出す者もいれば、たまには皆で外食でもと言い出す者もおり、ギルドマスターの意見はと周囲が視線を向ける中、サモナーは困ったように笑っていた。
「六三〇〇コインなら、我がデイトレードして、少ぉしだけ増やしてあげられるのであーる」
気だるそうな声が議論を遮り、サモナーたちをポカンとさせた。
Tシャツをまくり上げ、ボリボリと腹を掻きながら言うのはツァトグァだ。
2244部屋の掃除に、ギルドの予算会議、新しいメンバー数人の情報の把握、アプリバトルによるポータルの死守、食材や生活雑貨の買い出し。
特に予算会議は白熱した。先月余った額と合わせて、六三〇〇コイン。これを何に使うかで高校生たちのディベート合戦が幕を開けた。
貯めておくべきだと手堅い意見を出す者もいれば、たまには皆で外食でもと言い出す者もおり、ギルドマスターの意見はと周囲が視線を向ける中、サモナーは困ったように笑っていた。
「六三〇〇コインなら、我がデイトレードして、少ぉしだけ増やしてあげられるのであーる」
気だるそうな声が議論を遮り、サモナーたちをポカンとさせた。
Tシャツをまくり上げ、ボリボリと腹を掻きながら言うのはツァトグァだ。