花の香薬草を煎じている部屋は普段よりも甘い匂いが立ち込めていた。
生薬の類は買い出しに出たり或いは平安銀荘に注文しているのだが、そう言えば季節はもう春だ。
周子舒は四季山荘周辺に咲く春の花を使って香を作っているのだろう。
温客行が覗くと、軽く干しただけでまだ薄く色の残る花弁を薬研に振り入れているところだった。
「それは、どんな香になる?」
「老温」
「すごい、花だらけだな」
子舒の周りには薬草や干したものの他に、色とりどりの生花が散らばっている。それと配合だろうか、薬の名前が書き留められた紙も。
「酔生夢死のような強い香ではないが、心を落ち着けるものがいいと思ってな。少し甘過ぎるか?」
「いや、まだ水分が多いから強く香るだけだろう。それに花の香りなら阿絮に似合う」
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