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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    第2話はこれにて了! 明日はキャラ紹介兼ねて書いてた0話をリテイクする予定。
    1話をコンパクトにした結果レクトの能力描写が後回しになってるので、3話ではもうちょい活躍させたいところ。

    ##龍のうたった祭り歌
    #龍のうたった祭り歌
    festivalSongsSungByDragons

    シリィ・カーニバル第2話06(終)「守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ」

     泣き出しそうな、泣くのを必死に堪えているような声に、レクトは顔を上げた。
     見覚えがある気がする大きな杯から、止めどなく水があふれている。水は床に広がりながら扉を通って外に流れていく。水流の激しさに扉は閉まらない。閉めたところでいずれはあふれるだけ。
     誰かが泣いている。

    「止めなくちゃ。私が。聖下に託されたのだから。私が」

     杯の縁に立つ誰かが、杯へと身を投じた。水の勢いが衰える。
     このまま止まるのか。止まらなかったのか。わからないまま。世界が水に満たされた。

    「守れなかった」

     誰かが泣いている。水に沈んだ聖堂の中。杯の中にいる誰かが。

    「私だけでは、堰になるには足りなかった。私ひとりでは。贄が足りなかった」

     誰かがこっちを見る。泣き腫らした目が、レクトに手を伸ばす。

    「モット。贄ヲ」

     軋んだ声が、レクトの腕を掴んで。
     レクトは答えた。

    「えっと、ごはん食べる?」

     いつのまにか手にしていたパンを差し出せば、影は戸惑ったように腕の力を緩めた。
     水に滲んでよく見えないその顔が、やっぱりお腹が空いているように見えて、レクトは言葉を重ねた。

    「よくわかんないけど、お腹空いてるときに独りで色々考えると、焦ってますますわかんなくなっちゃうよ。まずはいっしょにごはん食べようよ。僕もお腹空いたし……」

     影がぼやける。そういえば、ここ水の中だけどパンふやけないかなと考えて、レクトは今の状況にようやく違和感を覚えて、

    『一歩でも動いたら飯抜き!』

    「ひぃごめんなさいっ!!」

     カイの声に跳び上がった。背中を見る。カイの姿は見えない。暗闇に、光が走る。

    『だいじょうぶ』

     軽やかな声が、聖堂に穴を開けた。
     水が流れていく。青空が見える。爽やかな風が頬を撫でて。
     レクトは目を覚ました。

      *  *  *

     目を開けて、青空が一番に飛び込む。目覚めたばかりの朝の気配。盛大に腹が鳴り、勢いよく身を起こす。

    「ごはん!!」

    「第一声がそれか」

     呆れたカイの声にふり返って、レクトは目を瞬かせた。カイはいつも通りの旅装で、不機嫌そうな表情もいつも通りだが、何かがおかしい。
     すぐに違和感に気づく。小高い丘の上。見渡す限りの草原。遠くに森。視界を遮る物は何もない。

    「あの遺跡は?」

    「そこだ」

     カイに指差され、ようやくレクトはすぐそこにある湖に気づいた。
     湖の縁を飾るように、霊菫が咲いている。澄んだ水の底には、内側から爆散したような砦の残骸が横たわっていた。

    「え? こ、壊しちゃったの?」

    「違う。最初に砦を見つけたときから、もう異界に足を踏み入れてたんだ。異界を壊してランに還元させてみれば、この有様だ。クソっ」

     骨折り損だと舌打ちして、カイは頭を掻いた。湖の底を浚うには神官の手を借りないといけないが、こうも破損していては神殿の許可が降りないだろう。
     いつになく静かに、レクトが湖を見ている。魚でも探しているのかと思ったが、やがてぽつりと言った。

    「夢でさ。砦の人が、洪水を止めようとしてたんだ。鏡水? の杯に身投げして……」

    「同調を切ろうとしたのか」

     鏡水は『青空を映す澄んだ水面』である必要がある。自死によって物理的にも霊的にも穢せば、水龍との接続を破壊するには十分だ。
     それが手遅れになる前か後か、カイたちにも、当の神官にもわからない。死者の時間は死亡した時点で凍りつき、現世にしがみつけば前に進むことなく腐り続ける。

    「あの人、ちゃんと眠れたのかな」

    「さぁな」

     そもそも、レクトの見た夢がどこまで正確かもわからない。意識を失うほど魔物に同調していたのを考えると、死者の記憶を垣間見ていてもおかしくないが、怖気づいている間に溺死したのを美化した記憶ということもありうる。わざわざ口にすることでもないが。

    「おはよぅーっ」

     夢の中でも聞いた軽やかな声が、レクトの耳朶を打った。
     草に寝転がっていたランが、元気よく跳び上がる。解いていた髪がひとりでに黄色いリボンで結ばれて、白い寝巻きが赤い短衣に変わる。
     溜め息を吐いて、カイは下り坂に足を向けた。

    「行くぞ。お前が寝てる間にランから人里の位置を聞いた。
     ……今度こそ生きている人間のいるところなんだろうな?」

    「いっぱいいる!」

     カイの念押しに、何一つ安心できない笑顔でランが保証する。溜め息を吐いて歩き出したカイを、レクトが慌てて引き留めてくる。

    「待ってよカイ! ごはんは!? 僕昨日から何も食べてない!!」

     カイは無言で干し肉を投げた。
     一応囮としては役に立っていたし、魔物との同調も、最終的には隙を作るのに役立ったのを加味しての破格の対応だったが、しっかり受け取りながらレクトはなおも叫んできた。

    「待ってカイ! この澄んだ水でスープ作るから! 水によって食材と合う合わないがあるから調べないとっ」

    「そうか。好きなだけ調べてろ」

    「だから待ってってばぁ〜〜〜」

    「しゅっぱ〜〜〜つ」

     泣き顔で干し肉を齧りながら追いかけてくるレクトと、楽しそうに跳ねるランを置き去りにしたい衝動を抑えながら、カイは黙々と丘を下った。

     一行を見送る湖が、お辞儀をするように波紋を立てていた。
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    Replies from the creator

    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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    よーでる

    DOODLE公主は本来プリンセスという意味ですが、祭り歌では公国の代表という意味の言葉になってます。アデラさんは武闘家系ギャルです。
    ほんとは東西南北それぞれの話するやるつもりだったけど西と南はちょっとド鬱なのでまたの機会にします。子どもに無配慮に聞かせたら怒られるやつ……
    一通りの世界観の説明が終わったので、明日からはこの世界観で単発話を量産する予定です。
    公国の興り(2)凍てず熔けぬ鋼の銀嶺 道行く花に光を灯しながら、アデラティア公子一行は海に臨む丘にたどり着きました。丘に咲く白い菫を見渡して、公子は軽やかに宣言します。

    「ここにわたしたちの都を作りましょう」

     こうして光る菫の咲き誇る白き都コノラノスは作られました。号は公国。龍王国最後の公子が興した国です。
     公子は精霊の声を聴く神官を集め、神殿を築きました。血ではなく徳と信仰で精霊に耳を澄ませ、精霊の祈りを叶え、世に平穏をもたらし人心を守る組織です。
     国の運営は神殿の信任を受けた議会が行います。アデラは神殿の代表たる公主を名乗り、花龍ペスタリスノの光る花【霊菫(たますみれ)】を国に広めました。

     霊菫は花龍の息吹。花の光が照らす場所に魔物は近寄らず、死者の魂は慰められ、地に還ります。公国が花の国と呼ばれる由縁です。
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    よーでる

    DOODLEどんどん敬語が剥げてますが語りじゃなく講義だからということで……
    あと大まかな国の特徴語ったらひとまず単発ネタ書き散らす作業に入れるかなぁ。
    ぶっちゃけお話の途中で世界観説明しようとすると毎回語りすぎたりアドリブで知らん設定出たりするのでその事前発散が狙い……
    巫術と法術について 今の世界の魔法は大きく分けて2種類あります。1つは精霊に語りかけて世界を変えてもらう魔法。王族が使っていたのがコレだね。
     精霊……王祖の末裔じゃなくても、精霊の声を聞きその力を借りれる人は増えています。それが龍王国衰退の遠因になったわけだけど、今はいいか。
     この方法は【巫術】と呼ばれています。長所は知識がなくても複雑な事象が起こせること。細かい演算は精霊任せにできるからね。代表的なのが治癒。肉体の状態や傷病の症状を把握するに越したことはないけど、してなくても力尽くで「健康な状態に戻す」ことができます。
     欠点は精霊を感知する素養がないと使えないこと。だから使い手は少ない。それと精霊の許しが出ない事象は起こせない。代表的なのが殺傷。自衛や狩りは認められてるけど、一方的で大規模な殺戮は巫術でやろうとしてもキャンセルされるし、最悪精霊と交感する資格を剥奪されます。
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    一通りの世界観の説明が終わったので、明日からはこの世界観で単発話を量産する予定です。
    公国の興り(2)凍てず熔けぬ鋼の銀嶺 道行く花に光を灯しながら、アデラティア公子一行は海に臨む丘にたどり着きました。丘に咲く白い菫を見渡して、公子は軽やかに宣言します。

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