ダイヤモンド「何かご用かしら騎士様」
クイーンメイブが訊けば、彼は節張った長い人差し指をすいと伸ばして宝石の詰められた小箱を示した。
「あの虹色の宝石はどういう意味があるんだ?」
先程の彼女の説明にダイヤモンドが含まれていないことが気になったのだろう。
初めて交わした言葉が思ったよりも面白い質問で、彼女はあらあらと笑う。小箱を開くと、中から虹色の宝石を取り出して翳して見せた。
「これはね、ヒトにとっては特別な宝石よ」
「…特別、とは」
濁した物言いに、幻魔フィン・マックールは形の良い眉を寄せた。その様子に一つ意地悪でもしてやろうかと考える。少年の背中と目の前の幻魔を見やり、彼らが主従を越えた間柄にあるのは夜の世界を生きていた彼女にとって想像に難くなかった。
「直ぐに教えたんじゃ面白くないわ。貴方自身で見つけてこられたならご褒美に教えてあげる…それほどこれは特別なものなのよ」
「む…分かった」
「フィン、行くぞー」
遠くで少年が手を振りながら騎士の名を呼んでいる。フィンはクイーンメイブへ丁寧に一礼をすると少年であり仕える王の元へと駆けていった。
「とってもお似合いよね」
二人に向けて呟かれた言葉は聞かれることなくダアトの空に吸い込まれて消えていった。