「ただいま!」
「お帰りなさい。随分と甘い香りを纏ってますねェ」
「焼き立てのチョコワッフルが売ってたんだ!」
「それはなによりですが、召し上がるなら座ってくださいね」
すぐ食べるため、薄い紙で覆われたワッフルを一口かじると苦笑混じりにチェズレイの前の席を勧められる。
正面で食べ始めたルークは、チェズレイがため息をついたことに気付いた。
「ん? チェズレイ、悩み事?」
「ええ。チョコレートを渡すべきかそうでないか考えていました」
「チョコレートを渡す……っていうと、バレンタインの?」
「ご明察です」
目を丸くしたルークが少し身を乗り出した。
「チェズレイにもそんな相手いるんだ」
「ボスはお気づきではありませんでしたか?」
「……君、隠すのうまいからなぁ」
じっとルークが見つめると、チェズレイが笑みを讃えた。
「せっかくですからボスに相談に乗ってもらいましょうか」
「ああ。なんでも聞いてくれ! 役に立てるかは分からないけど」
「では飲み物を用意しますね。相談にもおやつの時間にも、お茶は必要でしょうから」
「ありがとう」
ルークの持ってきたチョコレートワッフルと、チェズレイの淹れたミルクティーの甘い香りが部屋に満ちた。
「そうですね。……では。ボスなら本命チョコをもらうなら有名なパティシエのものと手作りのもの、どちらが嬉しいですか」
「え、僕のでいいの?」
「ええ。参考にしようかと」
きょとんとした後、食べる手を止めてじっくり考える。
考えながらたくさん砂糖を入れたカップをスプーンでかき回すこと暫し、溶け残りが大分減ったところで手を止めた。
「そうだな。……やっぱり手作りのがいいんじゃないかな。気持ちが籠もってる感じが大事だと思う。
あ、別にそこまで凝ったものじゃなくても手が入ってればいいと思うんだけど」
「あなたらしいですね。では、次。渡し方については?巷では誰かに託したり、宅配にしたりもするようですが」
「それは、やっぱり直接もらいたいよ」
ルークが紅茶を口にした。食べたことで水分不足になったところに甘い香りと味が染みる。とてもおいしいがその感想を言うより前に来た質問が予想外すぎてフリーズした。
「なるほど。では次。渡しても意識してもらえないならどうしたらいいでしょうか」
「え? 君からチョコレートをもらって?
義理チョコを本命だと勘違いする人ならたくさんいそうだけど、逆なんてあるはずないと思うんだけど。」
「仮定で結構ですよ」
「そうか? なら……、やっぱり、ちゃんと告白するとかじゃないか?」
「ボスならどんな言葉がお好みで?」
「んー…、わかりやすい、ストレートなやつ。あなたが好きです、みたいな。君が言うなら誰だってイチコロだって!」
「大変参考になりました。」
「そっか、なら良かった」
自分は最初の一口以外飲み物にも手をつけなかったチェズレイが頷く。
人心に聡いチェズレイに役立つようなことが言える自信のなかったルークが胸をなで下ろした。
「ところで、この紅茶、気に入って貰えましたか?」
「うん。甘い香りがしてすっっごくうまい」
「良かった。私がブレンドしたんです。」
「ブレンドって個人でやるものなのか…?」
「ええ。気に入って貰えてなによりです。厳選した茶葉にバニラビーンズとカカオニブなどを織り交ぜて。今日はミルクティーにしてみました」
「本当に君、器用だよなぁ」
感嘆の声を上げて紅茶をまた飲む。
しみじみと味わって笑顔になったルークにチェズレイが声をかけた。
「ボス。私はあなたのことが好きです」
「い、いきなり何を?」
「ボスの好みに合わせてみたつもりなのですが。まだ伝わらないでしょうか?」
「え? ……!あ、カカオニブって、チョコレートの元だよな。チョコレートの香り、元からいっぱいしててよくわかんなくて。」
「謝罪は不要ですよ。それで、ボスはイチコロになってくださいました?」
イチコロ。あまりチェズレイが言いそうにないワードセンスだと考えて、ついさっき自分で言った言葉だとルークが気付く。
「……チェズレイ、もしかして未来予知能力持ってる?」
「いいえ。愛する人を観察して傾向と対策を考えて実行しただけですよ」