にゃんにゃんにゃん ふわふわとした眠りから覚醒する。夢を見ていたのかも知れないし、ただ眠りから目覚めたのかもしれない。
ソファに横たわり、うたた寝をしていたようだ。
見覚えのあるロドス艦の天井を見て寝起き独特の温みを払うようにくぁ……とあくびをした。あくびの中に酒精の香りがした気がして目を細める。
そういえばこの状態になる前に少し飲んでいた気がするとリーはその時始めてそう思った。と、ふいに抱きかかえていた腕の中の硬いものが身じろぎをするのを感じて思わず上体を起こしそうになった。だが上に乗っている存在に気づいて慌ててこらえた。
「起きたか?」
「……ドクター?」
仰向けになっていた腕の中で抱き枕のようにしっかと抱えている存在をまじまじと二度見する。当人はPRTSを弄っていた手を止めてリーの体を支えに位置をずらすように己の体の位置を微調整するとリーの胸に頭をもたれかけた。そしてずり落ちかけていた膝掛けを手探りで引き寄せるとお互いの体に雑に掛け直してまた再びPRTSに目を落として操作を始める。
ところがリーとしてはそんな気分ではない。
「え、なんでドクターがおれの腕の中にいるんです?」
「不服か?」
「とんでもないです」
ずり降りようとする体を逃げないようにと少しだけ腕の力を強めた。
「酔っ払って私の部屋に雪崩れ込み、一緒に寝ようとぐずるから君の要望通り一緒に寝ていたんだ。ちなみに君は膝掛けごと私を椅子から持ち上げてここまで連れてきたので上掛けがない。私としては君の体がクッションになるからそれなりには快適だが」
リーの脳裏にドクターの言葉通りの記憶がフラッシュバックする。言った、確かに。ドクターの返事は忘れてしまったが、今こうして抱えているということはドクターが付き合ってくれたことの証左なのだろう。
「……すみません」
「なぜ謝る?」
手を止めて上を向くドクターにリーは瞬きを返す。
「この場合、ドクターなら怒っていいのでは」
「PRTSでシミュレーションしていて机仕事をしていたわけではないから特に怒る意味がないんだが。これは怒ったほうがいいのか?」
「あ、いえ、ドクターがいいなら良いんですけどね」
「ふうん」
生返事のままでトントンとドクターの指先がPRTSを操作している音だけが響く。
「あの」
「んー?」
「おれいつからこうしてたんです?」
その言葉に、ドクターはPRTSの演算を止めて体を起こすと壁にある時計を見た。
「かれこれ二時間くらいか」
「そんなに?」
ぽふりと体を横向きに預け直すドクターを抱え直してリーがドクターの薄い腹部に手を当てて撫でると「こら」と手をつかまれて外された。
「何か」
「しれっと聞くな。寝ていたのだからそのまま大人しく寝ててくれ」
「そんな、勿体無い」
リーはドクターの体を少し上にずらすようにして抱え込む。
「おい、今は……。あっ」
PRTSを操る手が滑ったのか、端末からビープ音がする。これは怒るだろうかとリーの目がドクターの端末からドクターの顔へと恐る恐る移ったが、ドクターは小さくため息をつくとPRTSの電源を落としてテーブルの上に放り出した。破損防止に取り付けられたガードが机に触れて鈍い音を立てる。
「いいんですか」
「新しい陣形を思いついたから試してみたかったんだ。まあ欲しいデータは大体取れたからいい。───それで?」
ドクターの指先がリーの手を握って、頬をリーの肩に擦り付ける。
「え」
「私は君の要望を叶えたんだ。どうしたい?」
フッと息を吐くようにドクターがつぶやき、リーは腕に力を込めて、ドクターの体に擦り付く。
「ドクターを可愛がりたいです」
「ふふっ、いいよ」
伸ばした手でリーの頭を撫でるドクターに、リーはうっとりと気持ちよさそうにしながらドクターの頬にキスを落とした。