独歩と入社試験の話『もう大丈夫だよ~。お家に帰ろうね』
警察車両のサイレンの音が響く。伊織は警察官に、毛布にくるまった幼子達を引き渡す。泣き疲れて寝てしまっているようで、起こさないようにそっと頭を撫でていた。野次馬も散っていき、その場が閑散とする頃、警察との話が済んだ俺は伊織と合流する。
「近頃は子供を狙う悪人が多くて敵わんな」
『登下校の際の見回りを強化するよう、警察にも協力をお願いしよう』
社に帰ろうか、と伸びをする伊織の背中を見て、俺は伊織の子供慣れした様子に改めて感心する。
「にしても、お前は子供に好かれやすいな」
『そう?まぁ妹がいたからね、接するのは慣れてるかも』
妹か、と伊織の言葉を反芻する。伊織のことは入社時から知っているが、出生や家族のことについて訊いたことは無い。太宰もそうだが、伊織も大概自分のことは話さない。誰とでもすぐに仲良くなり、人当たりの良い雰囲気を持ってはいるが、立ち入っていい領域と、そうでは無い領域の区別と線引きが上手い。
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