まず目を引いたのは、アネモネの青だった。
この男の色だ、と思ってしまったのは、アルヴィスの不覚である。よくある色だ。そんな認識を紐付けられては、たまったものではない。だからアルヴィスは、いささか不愉快な顔をして、扉を少し引いた。
「いちいち不要なものを持ってくるな、とは言っていたはずだが」
「失礼、あまりにもきれいだったものですから」
その一輪を差し出したまま、シグルドがはにかんだ。アルヴィスは呆れたが、しかしこんなところで問答しているのを他人に見られるのもうれしくない。だからひとつため息をついて、男を招き入れた。
だいたいこの男、他人の基準でものが考えられんのだ。そう思えば頭が痛かった。この部屋は、おのれの好みに合わせた、褐色に臙脂を基調とした調度で揃えてある。それにこんなつよい青を入れれば、差し色としても浮くだろう。とは言え、このままにしておくには花が不憫で、アルヴィスは陶の一輪挿しに水を入れて、それを刺した。まるでこの男の訪いを許容しているようで、少し不愉快だった。
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