虫の声がする。
夜は冷え込むと言っても、フィノーラの砂地を過ごしたあとの、バーハラの平原である。上掛け一枚を羽織れば、どれほどのこともなかった。ただ、夜露が僧衣の裾を濡らすので、そればかりは少し閉口した。
松明の灯りと煙に遮られながらも、月は高く、鋭い光でもって夜空に鎮座していた。明日も晴れる。そんな天候の見方も、こう従軍していれば、いつしか覚えるものである。そうして、おのれが知らぬうちに培っていた知識を意外に思いながらも、いっそ土砂降りになってくれないかと、クロードはふと思いもした。──それで、何かが変わるわけでもあるまいが。
「これは、神父様」
天幕を潜ると、なじみの騎士が頭を下げた。エッダ公爵であるクロードがその呼称で呼ばれるのはあまりにも気やすすぎたが、しかしクロードは、それを気にも留めなかった。ひとつにはフリージの公女があまりにも神父様神父様と連呼していたものだから、みなそれに釣られてしまったところもあるのだが、しかしまわりから見た彼は、あまりにも「そう」でありすぎた。もっともそれが彼の公爵であることを損なうものではなかったが、しかしやはり彼は「そう」であった。彼の本質は、結局はそちらであったのだ。
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