機密保持特別契約「失礼いたします。夕餉の支度が整いましたよ」
「もうそんな時間か……ありがとう、お嬢さん」
「いえ……冷める前にいらしてくださいな」
地方の権力者とも言える藤丸家は今、一人の書生を受け入れている。すっと背筋を伸ばすと父の身長など悠々と超えてしまうような長身、細くて浮世離れした体格。少し話せば穏やかで知性があるとすぐに分かる、頭の良いお方だ。
学生として勉学に励むだけではなく、書生として家の雑務を手伝ってくれている。それがここに居候する条件なのだから、仕事のようなものではある。けれど、物腰は丁寧なのにどこかよそよそしい彼の態度はとっつきづらくて、同じ家で過ごしているのに何だか息が詰まる。
「ふう……もう長くこの家にいるのに、話しかけづらいなぁ」
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