妙な男だった。
長い黒髪を黄色のリボンでひとつにまとめた、中性的な面立ちの男である。
旅行用のトランクの他に、大きな、それこそ両手で抱えなければいけない大きさの箱を持って、この宿の戸を叩いた。
なにぶん寂れた宿であるので、泊まりたいという客を拒否するようなことなど出来ない立場だ。
男が纏う陰鬱な雰囲気にのまれつつ、部屋に空きはあるか?という問いに頷いてしまったことを、今は後悔している。
男自体が不気味である、というのもそうなのだが、なにより肌身離さず持ち歩いてるらしい箱が恐ろしい。
ある日の午後のことである。
客室の清掃のために宿の中を移動していた男は、ふと部屋の中から話し声が聞こえることに気が付いた。
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