たいせつなこと『こら紫彗、働きすぎだよ』
「そういう伊織は、独歩が居ないからってサボりすぎ」
『失礼な。私は外回り担当だからね、仕事はしてるよ!』
日差しが燦々と降り注ぐ初夏。例年にないほどの猛暑日が続く中、探偵社の騒がしさは鳴りを潜めていた。それもその筈、騒がしさの元凶である太宰治と国木田独歩が遠方の依頼で席を空けているのだ。私の目の前にいる青年は、治が溜め込みまくっていた書類をそっと自分の方に寄せて、一つずつ丁寧に仕上げていく。彼こそが私や治の昔馴染みである友人___柊紫彗だ。
紫彗は私の言葉に、仕事の手を止めて此方に向き直った。……あ、隈。
「書類提出、期限ギリギリなの知ってるよ」
『ちゃんと終わらせるから平気。…ねぇ、今日は外回り行こうよ』
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