主君の目がすっと細められて、不覚にも鼓動が乱れた。
よく光る、するどい、油断のない目である。そんな釣り気味の瞳が無造作に伏せられて、まつ毛が影を落としていた。茶だとばかり思っていた瞳に、うすく緑がまざっている。考えて見れば、こんな近くで主君の眼を覗いたこともない。その慣れない距離の近さが、どうにも落ち着かないものだった。まして、こうも延々と耳たぶばかりをこねられていては。
「"トラキアの盾"も、耳ばかりは柔らかいな」
主君が感心したようにそう言うので、ハンニバルは困惑した。そんなことを言われても、なんとも返しようがない。仕方なしにハンニバルは、
「そのようなところが硬いものも、そうはいないと思いますが」
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