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    桜道明寺

    DONE君閣のささやかな音楽会
    終わりなき夜のめでたさを ぱらん、という澄んだ音色が君閣に響き渡った。
    「懐かしいものを見つけてね」
     主が上階から持ち下ろしてきたのは、古いが趣深い琴だった。
    「昔は、手慰みに弾いたものだよ」
     子どもの短い指では、弦を繰るにも苦労する。けれども、ぱら、ぽろ、と爪弾く様子は、そんなことを感じさせないかのように自然で、心地よさそうに見えた。
    「そうだ諦聴。折角だから伴奏しないか。お前、笛ができたろう」
    「構いませんが——曲は何を」
    「適当でいいよ。どうせ、聴くものなど誰もいない」
    「わかりました」
     棚から愛用の笛を手に取って、軽く音を合わせる。スッと一つ息を吸って、唄口に向かい、細く長く息を吹きかけた。
     高く妙なる調べが、静まり返った夜気を鮮やかに切り裂く。一拍遅れて、七色の旋律が、色とりどりの衣を纏った乙女のように、それに寄り添う。軽やかに、踊るように音が跳ね、艶めき、ふたつの流れがひとつに纒まり、淀みなく流れていく。音楽という川面にきらめく魚のように、美しいものを垣間見たような、それでいて指先をすり抜けていくような一瞬の儚さ、互いに互いの存在をもって呼応する、その心地よさに、しばし身を任せた。
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