Resonata(没版) 新和二十三年、某日。結倭ノ国燈京、煉瓦街の片隅。
源朔は、けたたましく警報のサイレンが鳴り響く街中を駆けていた。ちょうど夕食時だからか、界隈は逃げ惑う人々で混沌としている。鐡仁武純壱位が先導しているから進みづらいということはないけれど、朔ひとりきりであったら人波に飲まれていたかもしれない。
デッドマターの襲撃はいつだって唐突だ。浸食防衛任務であれば尚更、時間も場所も、奴らは一切考慮しない。そもそもの性質が虚無であるので、当然と言えば当然なのだが。
「こちら鐡仁武より本部。応答願う――」
覇気のある低音が、前方より聞こえる。彼の持つ端末からは、ザザ、とノイズ混じりの音声が漏れ出ている。恐らくは任務の詳細を確認しているのだろうが、仁武とは多少距離があるし、この騒ぎの渦中なので細かな内容までは聞き取れない。そんな二人の遥か前方、見慣れた煉瓦街の一帯を、夜よりも濃い闇が覆っている。
5756