虹の根元 ふだん身につけない白く長い布が、肩に重かったのを覚えている。あれはまだ幼い頃、おとうさまと水潤族の祭礼に出席したときの話だ。
儀式に使う小さな神殿のまわりには屋台が立ち並び、色とりどりの灯が夕闇を照らしていた。
従者の子たちがついてきてくれている。おとうさまは準備で神殿の中にいる。普段見慣れない食べ物や玩具に心惹かれたけれど、どうせ家までは持って帰れない。
「ねえとうさん、見てみて! あれ食べたい!」
大声が上から降ってきたので驚いてみてみると、肩車をされた火焔の子がそこにいた。うるさい。肩のストラの重さが増す。これは翼ではなくて重りなのだと思う。たかだか火焔の男の身長の差しかないはずの距離が、天と地ほどの差に感じる。自分には望むべくもない幸福を、当然だと思っている間の抜けた顔。その間抜けづらと、はしゃぎように腹が立ったので、ひっそりと水の夭力を使う。
「えっ、何これ? ほどけちゃった?」
火焔の子の大声に周囲が驚いている。明るい炎の色の髪が解かれて、屋台の灯を反射している。
肩車をしている男は何がおかしいのか笑っている。別に怒る気もないようだ。
つまらない。てのひらの中にある、火焔の子の髪を結んでいた飾り紐を握りながらそう思った。あの明るい髪をした子は、僕では引きずりおろせない。