15の夜 いつものBAR Fの店内で、三宝に盛られた団子を樹果が睨んでいる。
「食べへんのん?」
「寶、これどうしたの」
「そこの角曲がったところの店で、歳上のべっぴんさんにお金払って」
「和菓子屋のおばあちゃんとこで買ったんだ」
蘭丸が呟いた。
「蘭丸くん、わりと無粋なとこあんねんな……。ところで樹果くん、月見団子初めてなん?」
樹果はためらいがちに話しはじめた。
「なんか、聞いた話だけど、これ食べたら焔みたいになっちゃうんだろ? カッコいいかもだけど、ちょっと怖いっていうか」
「オイどういうことだよ、怒んねえから説明してみろよ」
タブレットから目を離した焔の声は、もう怒りを含んでいるように聞こえる。
「その団子食べると、バイク盗みたくなったり、学校や家へ帰りたくなくなったりするんだろ」
「何か勘違いしてんじゃねえのか、どっちもやったことねえぞ」
樹果の発言の意味不明さに、焔も怒る気をなくしたようだ。
「僕も聞いたことがないな。火焔族の素行が悪いから、勘違いしたんだろう」
読んでいる本から目を離さず、うるうが口を挟んだ。
「まあまあ、団子には罪はあらへんで〜。ワイにはともかく」
蘭丸がつまみ上げた月見団子を、横からバックンが奪っていった。
「そうだね、うかうかしてたら全部バックンに食べられちゃう」
樹果はカウンター席から立ち上がり、全員分の皿を用意して戻ってきた。